第7話

「……」


「あれ~? どうしたの? 好き~だ~よ~!」


 たった一瞬でも聞き違いだと思ったのは、俺の気のせいだったらしい。それは見事に酔いつぶれたようなセナの声だった。言ってる内容からわかるように、おそらく正気ではない。


 切ろうとも思ったが、いろいろ文句をふっかけられるのは嫌だから、仕方なく対応することにした。


「おいセナ。俺は今日疲れてんだ。おふざけはほどほどにしといてくれよ」


「ふ、ふざけてないもん! 本気だもん! 」


 こいつ、まじで大きな声出してるな。


 セナの部屋はすぐ隣、しかもこのアパートはそこまで壁が厚くないから、彼女の声が電話越しだけでなく普通に聞こえてくる。しかもボーカルだから余計に透き通ってしまう。これはいかん。


 近所のトラブルの原因になる。


「セナ。わかったから、いったん落ち着け。な? 」


「……うん」彼女はふてくされた声でつぶやいた。


 なんとかセナの暴走を鎮圧してから、俺はまた彼女に話しかけた。


「どうしたんだよ? なんかあるんだったら、いつもみたいに部屋にきてくれたらいいのに……」


「あ! 」セナが何か気づいたようにこう声を上げた。


「な、なに!? 」


「レイ! それセクハラ! 警察呼ぶよ? 」


「はあ? だって、お前いつも部屋にくるどころか不法侵入してるじゃん」


「も~う。やっぱ、レイは私以外の女の子に近づけさせないほうがいいわ。危険だもの」


「なんでそこまで言われなきゃいけないんだよ! ……で、用件は? 別におちょくるために電話したんじゃないだろ? 」


 俺がそういうと、セナは一瞬黙って、また喋りだした。


「うん。来週、私たちのバンド、ライブするじゃない? 」


 ああ、町に住んでる子供たちを集めてからやる、お遊戯会みたいなやつか。セナは乗り気だけど、デビル、サイノウ、俺とかは、別にそこまでって感じなんだよな。


 特に、メインストリームで活躍しているようなバンドに憧れてた俺には、あんまり魅力的に見えない。


「……レイ? 」


「あ! はいはい! 」


「今、まただる~みたいに考えてたでしょ? 俺のやりたいのはそういうのじゃないんだ! って」


 さとりかよ……


「別に? そんなこと思って、ないぞ? 」


「あのね、今テレビに出てたりする人たちも、小さなライブをたくさん経験してきたの。そうして努力を積み上げてきたからこそ、ああいう大舞台に立ててるんだよ? それに、なによりファンを大事にしなくちゃ! 」


「わかってるって! で? 何? ライブの企画とか? 」


「違う、違う。明日、お買い物に付き合ってほしいの……つまり、デート! 」





 


 


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