第6話
おじさんは、あの足のない女性の幽霊と平然として会話をしていた。昨日、俺たちに夜は亡者が出るから気をつけろとか言ってたおじさんが! 襲われでもしたらすぐにでも連れていかれそうなのに……
結構ガチ目に心配して、俺は思わず彼らの方に飛び出してしまった。
「お、おじさん! その幽霊は、危険では、な、い、の……」
その時、俺はふと今自分がとんでもないことをやらかしてしまったのを悟った。これでは、もれなく俺もやばい状態になってしまったのでは?
わざわざ出て行って、あの幽霊に何かされるのでは?
いろいろ考えていると、俺の足はだんだんと止まっていった。
「あ、あ」と俺は口を開けたまま発していた。
「君は確か、レイ君、かね? 」とおじさん。
「お、俺、殺されるんですか? 」
「ん? どうしてじゃ? 」
「い、いや、だって。まずいんじゃないんですか? ゆうれい……」
そういうと、急に女性の幽霊が怒ったような表情で俺の近くまで迫ってきた。足がなくて浮いてるから、走ってこられるよりも全然恐怖を感じる。
幽霊はこれでもかというほど、顔を近づけてきた。昨日は一瞬でよくわからなかったが、割と幼い顔をした幽霊で、年齢的には多分セナよりちょっと若いくらいだろう。
「なによ? あたしが酷いことする幽霊に見えるの? 」
普通の人間の女性のような声で、なんか一気に親近感湧いてきたぞ。
「い、いえ。そのようなことは」
すると、幽霊はいろんな角度から俺の顔をじろじろと見つめてきた。なんか考え込むような仕草をして、最後は、ひらめいた! とばかりに、両手をぽんっと叩いた。
「あ、思い出した! 君、よくよく見たら昨日あたしがいたずらした子じゃん! 」
「へ? 」
思わず、俺は体を硬直させてしまった。あんだけ恐怖心を抱いて警戒していたのに、帰ってきたのはこの言葉。いよいよ頭がパンクしそうだ。
「知り合いなのかの? 二人とも」おじさんが首をかしげていった。
「ええあたしの餌食になった子だわ。ね? 」
「ね……といわれましても」
「あたし、毎日このあたりを夜遅くに通る人間を脅かすのが楽しみなの。君はそのターゲットになったわけ」
彼女は無邪気な表情をしてこう言った。おじさんも彼女が言うことにうん、うん、と首を縦に振っていて、納得してるみたいだった。と、いうことは何か? 俺、もしかしておじさんにからかわれた?
「そう、君ともうひとりの反応はここ最近で特に面白かった! 」
「ちょ、ちょっと待ってください! お、おじさんが言ってたのって、このことですか? 死にたくないならとか言い出したから、深刻なことなのかと」
「ん? ああ、そのことかね? そりゃ本当じゃよ。これからも気をつけなさい」
「あたしが人間に友好的っていうちょっと変わった幽霊なだけよ。もし昨日出会ったのがあたしじゃなければ、あなた、今日死んでたでしょうね」
さらっと恐ろしいことを言われた。
そして、彼女は言いたいことを言い終わったからか、またさっさとおじさんの方を振り向いて、雑談を始めた。
世の中、不思議なことがいっぱいだ。幽霊なんて信じてなかったのに、実際に見るどころか、会話することになるなんてな。
「あ、あの! もう、帰ります」
「あら、そう。またね」
「この時間じゃ。くれぐれも憑かれんように、用心せいよ」
「はい。ま、また来てもいいでしょうか? 」
「ああ、いつでも遊びにおいで」
そういって、俺はまた女性の幽霊の方を振り向いた。
「ん? あ、もしかして帰り道、見送ってあげようか? 」と幽霊。
「いえ、よければ、名前を聞きたいなって」
「…サナエよ」
アパートに帰ると、どっと疲れが押し寄せてきた。ここ数日、俺はすごい体験をしているはずだが、それが当たり前になり過ぎて何も感じない。でも、体はきっと驚いているのだろう。
今日はセナも侵入してないし、おとなしく寝よう。
俺は軽く夕食を済ましてから、ふとんに入った。そうすると一気にまぶたが重くなり、眠気がやってくる。意識が少しずつ薄れ始め、心地よい音楽が流れるように俺の体もゆったりと―
ブー! ブー! ブー!
突然、スマホの着信音が鳴りだした。多分、今世紀史上最も最悪なタイミングだ。誰だよ、こんな時間にかけてくんのは。
いやいやスマホを見ると、どうやらセナからの連絡だった。用あるならこっち来ればいいのに、なんで電話してくるんだ?
俺は不思議に思って、その電話に出てみた。すると、聞こえてきた第一声は、大きな声で、恥ずかしげもなく放たれた……
「好き~~~~~! 」
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