第5話

  星空町にある小さなレストランで、俺とサイノウはピアノとドラムで、あるローカルバンドと一緒に演奏に参加した。レストランに来るお客さんはほとんどがマニアといっていいくらいの音楽好きで、ちょっと緊張した。


 共演したバンドのリーダー曰く、ここはミュージシャンのなりそこねたちの隠れ家らしい。


 演奏は昼から夜7時くらいまで続いて、なかなかハードだった。


「はあ、なんとか最後までできた……疲れたな」


 終わった後、ピアノの椅子から降りて、俺はサイノウに話しかけた。サイノウはすでにドラムのバッチも片づけて、演奏後のご褒美の料理を食う気満々でいる。


「うーん。けど、いつもと同じメンバーじゃないですから、すこし調子は狂いましたよね」


「まあ、たしかに」


 俺はローカルバンドの人たちに聞こえないように、声のトーンを下げてうなずいた。



 そう、今日集まったのは俺とサイノウだけ。本来は、デビルと、セナも来るはずだったんだけど、二人とも都合が悪かったと。


 だからわざわざ他バンドと共演させてもらったと。


「で、でも、いろいろ勉強になったじゃんか。新鮮だったし」


「ああ、別に不満なわけではありませんよ。演奏は楽しかったです……それよりも」


 というと、サイノウは突然、目をキラキラさせて俺に迫ってきた。


「な、なんだよ? 」


「聞きましたよ? 昨日、例の駄菓子屋に行ってきたようですね? で、どうでした? 」


「どうでしたって……なんか、普通に優しい店長がいる駄菓子屋だったぞ。ネットで書き込まれてたことは全部デマだった」


「ふーん」サイノウはさっきから打って変わって、いっきに興味を失ったようだった。


「あ、でも、駄菓子屋じゃないけど、その近くでやばい体験はした」


「どんな? 」また、サイノウは目を輝かせてこういった。


「幽霊に襲われた」


「え? やっぱりいたんですか? 容姿は? 何かされました? 」


「いいや。なんかそのあとすぐに消えてくれて、無事だったよ」


「なーんだ。つまらないですねえ」


「無事で悪かったな」



 その会話のあと、俺たちはローカルバンドの人たちに案内されて、ご褒美の食事を楽しんだ。実は、ここのレストランはネットでは星3評価の隠れ有名店。音楽を傍らに、一流のめしを食えるんだから、こんな贅沢な話はない。


 まあけど、そもそも星空町が田舎で、最近は町の評判が悪くなってるから、お客さんはなかなか来ない(俺的には、さっきもいったように、音楽マニアばっかりが来て入りずらいってのも結構あると思うけど)。


 「おいしかった~」


 食べ終わると、俺は満足げな感じでこうつぶやいた。口に出さないと気が済まないくらい、素晴らしい時間だった。



 さて、ローカルバンドたちが帰って、店も静けさを取り戻してきたころに、サイノウは隠していた薬を取り出して、机に置いた。薬のために、水もちょっとだけ残しといたらしい。


 けど―


「水、足りなくないか? ちょっと俺の余ってるけど」


「いいですよ。一粒小さいですから」


 いつも、サイノウは生まれつき患ってる病気と、精神安定剤、そして精神科医に処方された薬を飲んでいる。


「……どれかひとつでも外せればいいのにな」


「? 」


「そしたら、サイノウの負担も減らせるのに」


「気を遣ってくださっているのですか? 大丈夫。心配ないです。もう慣れてますから」


 彼は微笑んでこういった。正直、サイノウのこの「大丈夫」はまったくといていいほど信用できない。去年もこんなことをずっとバンド仲間に吹聴して、家で自殺未遂を起こしていた。


「本当につらかったらいってくれよ……あ、そうだ。俺、この後またおじさんの駄菓子屋に行ってみようと思ってるんだけど、一緒に行くか? 」


「え? 行くんですか? じゃあ……けほっ、けほっ」


 サイノウが苦しそうにせき込んだ。すこしさっき食べたものも混じっていて、目にも涙が浮かんでいる。


「お、おい……」


「けほっ、レイ、ごめん、今日はいけそうにない」


「む、無理すんな。また別の日に、な? 」




 そうして、俺はサイノウを家に送っていった後に、おじさんの駄菓子屋に行ってみることにした。この時間に向かうのも悪い気がするが、なんか、ちょっと店を見ていくだけでもよかった。


 どこか、引き付けられるところがあった。


 いつも通りの道を使って、俺はおじさんの駄菓子屋に向かった。すると何も変わらず、そこには古い建物があった。


「あ、見つけた……ん? 」


 駄菓子屋の店先をみると、何故かおじさんがこの時間に外に出ていた。そして何やら、誰かと話をしているようだ。


 誰だろうとみてみると、あのおじさんが今、恐ろしい人物と話していることがわかった。


「か、彼女は……! 」


 決してはっきり見えているわけじゃない。でも、それでも足がないことくらいはすぐに分かった。



 あれは、昨日俺を襲った幽霊だ……





 






 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る