第2話
なんて失礼なことを俺はしてしまったんだ……
結局、俺はそのまま住んでいるアパートまで走り抜けていた。人の顔を見て、まるでお化けを見た時のような反応をして立ち去ってしまったんだ。社会人としてあるまじき行為。
明日、もう一度行って謝らないといいけないな。
気を落として、俺は自分の部屋の鍵を差し込んで、ドアノブを手で握った。そして手首を右方向にゆっくりひねると、ドアノブも同時に右回りで回った。
ーガタン!ー
でも、この時おかしなことが起こった。なんと、俺がいくらドアノブを回しても、開くはずの扉が開かない。
「ん? なんでだ? 」
俺は何回かがちゃがちゃしたあと、もう一回鍵を差し込み、回してみた。
ーガチャー
すると今度はうまくいって、ドアが開いた。
「……今日、鍵かけ忘れたんだっけ」
「ただいま~」
何はともあれ、俺はいつものように、誰もいないのに俺は暗い部屋に向かってこうつぶやいた。こういうとき、返してくれる人がいると、うれしいんだけど。
「あ、おかえり~」
そうそう、こんな感じで……え?
あれ? どういうこと? 今、おかえり、と誰かに言われた?
幻聴でなければ、誰もいないはずの部屋から、俺に対するあいづちが聞こえてきた。しかも妙になれなれしく、何の焦りもない。まるで、不法侵入の真っ最中に宿主に遭遇したのをまったく気にしてないみたいだ。
プロの泥棒か(なんだそれ)? 耳を澄ましてみると、さっき返事をしてきたであろう人物が、なにやら部屋をがさがさあさっているのが聞こえる。
しかも、音からして食べ物を盗み出そうとしてるぞ?
……ため息をついて、俺はそっと部屋の中へと足を踏み入れた。奥の方へと足を進めると、その足音がだんだんと不法侵入者へと接近していく。
「むしゃむしゃ、むしゃむしゃ」
俺が近づいても、不法侵入者は奪った食べ物をなんの遠慮もなくくらい続ける。どんだけ怖がってないんだ? こいつ。
いよいよ不法侵入者のそばにつき、俺はゆっくりとそいつめがけて身をかがめた。そして、不法侵入者の右肩に手を置き、こう、つぶやく……
「うちに来るときは、ちゃんと連絡するように、セナ」
部屋の明かりをつけて、俺は仕方なく今日もセナと一緒に夜食を食べることにした。夜食といっても、そんなに大したものはなく、だいたい毎日カップヌードルだけど。
「ありがとね、レイ。またあなたの家で食べさせてもらって」
セナは、人のカップ麺をあったかそうに食べながら、こういった。
「うん。それぐらいは別にいいけどさ。もうちょっと普通に来てくれないかな。別に盗まなくても、必要ならいくらでも食料分けるし」
「えへへ。ごめんね? つい」
俺たちは同じアパートに住んでいて、普段から自分の部屋の鍵とは別にもうひとつ、鍵を携帯している。その鍵というのは、俺ならセナの部屋の鍵、セナなら俺の部屋の鍵と、お互いの部屋の鍵を持っているんだ。
要は、俺とセナはいつでもお互いの部屋に行けるって話。
俺とセナ、どちらかの部屋で緊急事態があったときに、いつでもどちらかの部屋には避難できるって魂胆だ。
というか、これは全部セナの提案なんだが、さては食べ物盗むためだったな?
「いいじゃん、同じバンド仲間なんだから」
「限度がある! 」
「うふふっ。あ、そうだ! 例のおじさんの場所いった? 」
「いったけど、なんで知ってんの? 」
「か~ん! で、どうだった? どうだった? 」
「うん、普通の駄菓子屋だよ。ちょっと古い」
「え~それだけ? つまんないの! 」
セナは新しいおもちゃを買ってもらえなかった子供のごとく、体をくねくねさせながら言った。
いや、感想はそれだけではないのだが、なんか、あまりいろいろ言いたくなかった。
翌日、仕事が終わると早速俺は例のおじさんが経営している駄菓子屋に向かった。昨日逃げ出したことを謝りたいし、何より、明るい時間に彼の素顔というのを確認してみたかった。
自分が住んでいるアパートと道はかぶっていいるので、俺はそのままいつもと変わらないルートを歩いた。自然が多い、車もあまり走っていないのどかな道。
けど、そののどかさをぶち壊すような奴が、突然こっちに走ってきた。
「おーい! レイ! 」
デビルだ。汗をかきながら、けっこう必死で近づいてくる。なんかあったのか?
「ど、どうしたんだよ? そんなに慌てて」
「た、たいへんなんだ! こ、子供たちが……例のおじさんに襲われてる! 」
「なに!? 」
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