第1話
「なあ、知ってるか? 巷で話題の駄菓子屋」
ある日、大学生の頃から仲のいいバンド仲間三人で集合したときに、リーダーでギタリストのデビル(井出りゅうすけ)がこう言った。ちょうど一曲演奏し終わった後で、みんな楽器を置いてひと休みしていたときだった。
わりとこの辺りでは有名な話らしいので、俺以外の二人は、すぐにその話題に前のめりになった。まるで、自分が好きなバンドの話を友達がしたときの俺みたいに。
「それ知ってる! 私も一回いったんだけど、本当に怖かった! 」
メリハリのある声でこう発言したのは、ボーカルを担当しているセナ(相川せな)。いつものごとく感情豊かで、かつうるさい動きで話題にいち早く反応した。
彼女は流行りものに敏感というか、そういうのに詳しいから当然のような気もするけど。
「どういうやつ? 」と俺。
「あ! やっぱレイは知らないんだ! 」
セナがにやにやしながら俺に言った。
「悪かったね」
「ふう、レイくん、それは世間知らずにもほどがあります。いまや、その駄菓子屋はネットでも心霊スポットとしてだいぶ有名になってます。ローカルな話ではありません」
横から、ドラムを担当するサイノウ(斎藤のぼる)がメガネを光らせて話題に乗っかってきた。ネットに強く、トレンドは絶対に逃さない彼がここまでいうってことは、よほど有名なのかな。
「見てください」
そういって、サイノウは俺にタブレットを突き出してきた。
「ん? 何、何? 恐怖の駄菓子屋。入ると、妖怪のような恰好をしたおじさんの店長が出てきます」
ネットの記事には、こんな風に書かれていた。
「うわ、コメントもすごいことになってる」
―まじで妖怪、肝試しするなら行ってみてもいい―
―お菓子はまじでゴミ。まずい。早くつぶれろ―
―なんでまだ残ってんの? ―
「最近だと、わざわざここ星空町まで来て動画取りにくるやつもいるよな」
デビルが後ろから俺の肩に手を乗せてきて、面白そうにそう言った。
「へえ。こんな田舎ににきてでも見たいのか……」
「そうだレイ? 今日の夜、私と一緒に行ってみる? 」
「セナ……いいよ。別に興味もないし」
「ええ~。つまんないの! 」
まるで欲しいものを買ってもらえなかった子供のように、セナが言った。
それにしても、比較的趣味がばらばらな三人が全員知ってるのか……
というわけで、この日の夜、俺は彼らの言う駄菓子屋の近くへと来てしまっていた。興味ないと言い切ったけど、やっぱりあれだけいろいろ吹き込まれれば、気になるよな。
駄菓子屋は、星空町の結構空き家が多かったりする場所に位置していて、たしかに雰囲気はそれなりにあった。なんだか寒気も感じるし、人の気配も皆無に等しいから、肝試しにぴったりかもしれん。
……そういやここ俺んちとあんま距離ないじゃん、どうしよ。
おそるおそる、俺は戸締りもしてない駄菓子屋の中をそっと覗いてみた。かなり古びた建物で、ごみも落ちていてきたない。暗くてよく見えないけど、棚に並べられているお菓子は保存状態がよろしくない。
「本当にここ人いるの? 」
思わずこんな言葉が、俺の口から洩れていた。
「ん? 」
しばらくすると、突然、この建物の二階から誰かが降りてくる音が聞こえてきた。ゆっくり、一段一段足を引きずるように歩いてくる。おばけなんぞ一切信じない俺でも、さすがに怖くなった。
階段を下る音が小さくなると、奥の方にだんだんと人影が見えてきた。まるでホラー映画のように、一歩ずつ静かにこちらに迫ってくる……
「あ、あの、こんばんわ」
がたがたと震えながら、俺はこう言った。
「こ~んば~んわ~」
すると、かすかすの声で、ひげのぼうぼうに生えたおじさんが顔を上げて返してきた! ネットで書いてあったとおり、まさしく妖怪みたいな顔! しかも思い込みによる錯覚か、おじさんの足がないように見える!
「あ、あの……」
「ど~うしま~した~? 」
も、もうだめだ!
「う、うわ~! 」
思いっきり叫んで、俺はその場から走り出した……
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