第7話 妖精のドネ

 今日はずっと変な感じだ。

 朝からナルカに絡まれて殴られるし。

 その後はニーナに僕が隠していた弱さがバレるし。

 本当は強いのに、強くないとも思われたし。

 なんか、いつもと違う。

 こんなにめんどくさいことたくさん起きない。

 しかもまだ朝で学校も始まったばっかなのに。


 でも、とりあえずニーナには謝らないと。

 

 はぁー。

 たぶん今日はたくさんめんどくさいことが増えるはずだ。

 だって"強く"いこうと決心したから。


 1日が長くなりそうだ。


 なら、寝ておける内に寝ておかないとオーバーヒートする。

 学校の屋上で、ベンチに寝転がりながらまぶたを閉じる。

 鳥の囀りが聞こえ、太陽の陽が照らし続ける中。

 僕は寝ることにした。


「何寝てるんだよ」

 声が聞こえた。高くて小さそうな声だ。


「昼寝中なんだ。静かにしてよ」


「今それどころじゃないだろ!!」

 小さいで思いっきりおでこにデコぴんされた。


「痛っ!」

 おでこにズキズキする痛みを感じながら、目の前を見てるとそこには、、、


「ドネ・・・。なんで出てきたんだ?」


「風が僕を呼んでいたからだ!!」

 よく意味わかんないことを言ってるこいつは、本名アリアドネ。僕の使い妖精だ。


「俺はお前の使い妖精じゃない!!対等に扱え!!使いはやめろ!!!」

 見ての通り気性が荒い。そして、こいつは人の心が読める。


「わかったから。大きい声ださないで、うるさい」

 

「天性の才を持った俺にそんなことを言うからいけないんだ!!」

 そして、プライドも高い。あと、声もうるさい。


「さっきからなんなんだ!!俺の悪口ばっか言いやがって!!」

 また、殴ってくる。今度はおでこじゃなくて頬あたりを何度も殴ってくる。


「俺は世界に選ばれた妖精なんだ!!だから、お前ももっと俺を讃えた方がいいぞ」


「讃えろも何も、讃えることなんもしてないじゃん」


「うっ・・・。それはこれからするんだよ!!」

 大きいことを言うが、打たれ弱い。

 

「そっか、まぁ頑張って。僕はこれから昼寝する」


「だから、昼寝するな!大事な話があるんだよ!!」


「大事な話?」


「あぁ、実は・・・」

 ドネが何か言おうとした瞬間屋上へ入るための扉が開いた。


「今日もいい天気だ〜〜」

 少しパーマがかかった金髪を靡かせながら、太陽の形をした首飾りを掛け、笑顔と共に男が登場してきた。


「レイくんじゃん!久しぶり〜〜!!」

 そう言って僕の方に近づいてくるこいつの名はシュルテン。僕の住んでいるセントリアン王国の右隣にあるステリアライト王国の第一王子だ。


「久しぶりだね。けど、昼寝したいから話しかけないで」

 想定していた返事とは違ったのか彼は少し驚いた表情で固まっていた。


「まったく、"古き良き友人"が来たのにそんな対応かよ〜。昔から本当変わんないね、レイくんは!」

 返事をしようとも思ったがそれもめんどくさかったため無視することにした。

 そもそもこいつはあんま好きじゃない。


「本当にガン無視!?それはいくら僕様でも傷つくな〜。せっかく会いにきたのに」


「・・・・・・」


「ニーナちゃんとの結婚の挨拶のためにね」

 その言葉に体が反射的に反応した。


「今何て言ったの?」

 聞き間違いか?


「だから、"ニブル王国第二王女ニーナ・スカーレット・ヘルン"との結婚が正式に決まったから報告しに来たんだよ」

 上から見下ろしながら、顔を上げた僕を見ていた。

「なんの冗談?」


「残念、冗談じゃなくて本当のことだよ」


「冗談を言うならもっと面白くしなよ、ギャグセン足りないよ?」

 僕の言ったことを無視して、自分の言葉を続ける。

 

「一応、許嫁だったんでしょ?だから、直接言わないとダメかなと思ってさ。ほら、僕様優しいでしょ?」

 嘲笑うかのような汚い微笑みをしていた。

 いくつか聞いてみたいことがあるが、こいつとは長時間喋りたくなかった。

 喋っている内にこの"クソ野郎"を殴ってしまいそうだから。

 殴ったら多くの人に迷惑をかける。

 もちろんニーナにも。僕のことでニーナに迷惑かけるなんて優しい彼女はとても傷つく。

 そんなのは絶対嫌だ。


「そっか。わざわざありがとう。用件はそれだけでしょ?もう帰っていいよ」

 感情を殺して、言葉を発する。


「そっか、あんまり彼女に対して興味なかったんだね〜。彼女もとても可哀想だ。こんな、気持ちなし、やる気なし、ヘンテコ王子と許嫁にされて」

 僕のことを貶したいんだろう。けど、対して饒舌でもない嫌味でしか、彼は言うことが出来ていない。


「まぁ、そんな弱虫は黙ってここで冬眠でもしてなよ」

 バイバイと言い、手を振りながら屋上からいなくなっていた。

 

「なんで言い返さなかった?」

 使い妖精ドネが言ってきた。


「めんどくさいから」

 違う、あのカスと話してると自分が止められそうにないからだ。


「めんどくさいで済む話じゃないだろ?」

 大きい声で言ってくる。


「てか、そんなこと言わなくたって僕の心を読めばわかるだろ?」

 ドネにもいらついてしまい。少し強く当たってしまった。


「心で思ってるかどうかなんて関係ねぇんだよ。口に出して言い返せよ。あれは宣戦布告だぞ!!お前じゃなくて、自分がニーナの婿になるっていう。そういう意味で言ってるんだぞ!!!」

 物凄い勢いで怒るドネ。

 なんでこんなに怒っているんだろう?


「わかってるよ。だから大きい声ださないで」


「わかってないだろ!」

 顔の前にきて叫ぶ。


「王子なんだろ、お前。なら自分の許嫁に対して、何か言われてるなら言い返せよ」

 目を見て強気に言ってきた。

 こっちだって言い返そうとは思った。

 けど、言い返したって特に何も変わらないから言ってないだけだろ?

 もっと考えろよ"能無し妖精"。

 

 そう思った瞬間、明らかにイラついた表情になるドネ。

 心を読んで僕が思った皮肉がわかったらしい。


「なんで妖精のお前に言われなきゃいけないんだよ。こっちにはこっちの考えがあるんだ。とっとっとどっかいけよ」

 本当は言い返すつもりもないのに、ドネに八つ当たりしてしまう。


「お前にはガッカリしたよ」

 ドネは顔の前から離れた。怒りに満ち溢れている顔でどっかに行こうとする。


「おい、待ってよドネ。聞きたいことはいくつかあるんだ。さっきの大事な話ってニーナのこと?」

 問いかけも虚しくドネは消えた。

 普段からドネは姿を消す。そして、勝手に姿を現わす。いつも姿を現していない時はどこにいるかというと、妖精の国にいる。

 妖精の国は人間の国と密接に接している。

 けど、僕やニーナの国の隣にあるというわけではない。

 もっといえば僕達がいるこの世界にはそんな国はない。

 言うなれば"別世界"にある国だ。

 だから、近くて遠い存在。


 人間の国に住んでいる人は妖精の国には行けないし、妖精の国に住んでいる妖精も人間の国にはこれない。

 ただ、ドネのような"使い妖精"になればいつでも人間の国と妖精の国を行き来できる。

 それに加え、一部の人間も自由に行き来できる。

 それは王族の人間だ。正確に言えば、たくさんいる王族の中でも妖精の国の王に選ばれた王族だけは行き来できる。

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