第8話 並行世界
「ドネ怒っちゃたな・・・まぁ、今はどうでもいいかあんなやつ」
ドネと喧嘩したことよりも大事なことがある。
ニーナがあのクソ野郎と何故結婚することになっているのか。
直接聞くのが一番早いが今は授業中。
なら、休み時間になるまで待つか。
いくつか選択肢はあるが、今できる最善を取ることにした。
もしかしたら、何かわかるかもしれないから。
眼を瞑った。
昼寝をしたい。
でもそれはあくまで建前。
本当に昼寝をしている時もあるけど、今回は別の理由。
眼を瞑り、深く集中することであることができる。
それは、今住んでいるこの世界とは違う別の世界。
つまり並行世界に行くことができる。
妖精の世界とは違う。僕達と同じだけど、同じじゃないそういう世界を見れるんだ。
けど、眼を瞑れば100%見れるわけではない。
見れるのはだいたい10回に1回ぐらい。
これでも最初は100回に1回だった。それに比べたら大部見れるようになった方だ。
眼を瞑り、意識を集中させる。
体の力を抜き、呼吸を整える。
世界と世界が繋がっていく。
僕の意識と心が入り込む。
こことは違う新たな世界に引き込まれていく。
「はっ!!」
呼吸が荒い。汗も少し滲む。
周りを見渡す。
のどかな自然の原っぱで寝ていた。
「これは並行世界に上手くこれたみたいだね」
成功した。ただ、辺りを見ても普段住んでいる世界とあんまり変わらない。
今いる場所だって、僕の家の近くの草原だ。
「そうだ。この世界のニーナに会ってみよう」
立ち上がり、ニーナといつも会っていた場所に行くことにした。
「ここら辺だよね」
椅子とかテーブルをお互いのお城から持ち出して、原っぱの中にちょっとしたテラスを2人だけで作った。
「あ、あそこだ」
僕達が作ったテラスがあったため、そこに向かおうとすると人影が見えた。
「あれって・・・・・・シュルテンとニーナ?」
あまり想像していなかった2人が一緒にいた。
慌てて近くの草むらに隠れて2人を見ることにした。
「なんか、仲良さそうだな」
2人でテーブルに向かいあって座り、笑顔で会話をしている。
しかも時節、お互いの肩や手に触れている。
会話は聞こえないけど、仲睦まじいといった関係が垣間見える。
「この世界では、僕はどういったことをしているんだ?あの2人との関係は?僕の立場は?僕の家族は?」
様々な疑問が湧いてくる。
そのために、あの2人に近づくことにした。
普段はこんなめんどくさいことしないけど、ニーナが他の人といい感じなのは嫌だから。
「出来る限り会うまでは気づかれないように進んだ方がいいよな」
できるだけ静かに、足音を立てずに進む。
進んでいる途中少し気になったことがあった。
「そういえば、この世界にドネはいるのかな?」
僕の使い妖精。
いつもなら、呼べば半々ぐらいの確率で現れてくれるが、この世界ならどうなんだろう。
「一応呼んでみよう」
ドネを呼び出すために必要な鎮魂玉を出すためにズボンのポケットに手を入れたが、なかった。
服のポケットにも手を入れたがやはりない。
この世界では持っていないのだろうか。
「ドネはいないのか。なら、仕方ない」
僕は急いで2人に近づいてみることにした。
そうすると、信じがたいあることがわかった。
「無い・・・。ニーナが僕のあげた月の首飾りを付けてない」
その事実が信じられない。
これ以上に酷いことはないと思ったが、それだけではなかった。
「あれって、太陽の首飾り」
僕の世界で、シュルテンがつけているものだ。
「なんで、それをニーナが付けているんだ」
月の首飾りは僕とニーナにとって大切な、大切な"約束"なのに。
いくら、僕の住んでいる本当の世界とは違う並行世界だとしても、これはかなり辛い。
早く本当の世界に帰ってニーナを抱きしめたい。
その思いがかなり強くなった。
「早く、あの2人に聞いて僕の住んでいる元の世界に帰ろう」
先程とは違い、走って2人の元に向かった。
段々と近づいて行くと、2人に気づかれた。
「あ、レイだ!!」
シュルテンが僕の世界よりも明るい声で名前を呼んだ。
「レイ!!」
ニーナも元気な力強い声で僕を呼んだ。
「おはよ。2人とも元気?」
若干息切れしながら聞いた。
「元気だよ?てかさっき会ったばっかなのに、なんでそんなこと聞いてくるんだよ」
笑いながら言ってくる。
「え?そうなんだ。2人とも今日会ってるんだね」
「そうだよ〜。てか、何寝ぼけたこと言ってるの。あ、また昼寝してたんでしょ!!」
大きい声で、笑いながら冗談を言っている。
それと同時にシュルテンの体を触ったりしていて、その様子を見ていると心がどんどんモヤモヤしていく。
「2人共さ付き合ってるの?」
2人は不思議がる顔をした。
「何言ってるんだよレイ。俺とニーナは婚約者同士だぞ?付き合ってるどころか夫婦だよ」
最悪な問いをし、この世で1番聞きたくない返答が返ってきた。
なんとなくわかってはいても、絶対に認めたくないことだった。
だけど、ニーナも顔を赤く染め少し俯いていて、まるで事実を証明しているようだった。
「そうだよね、ごめん。さっき昼寝してたからまだ寝ぼけてたかも」
今は辛くて悲しい気持ちを何とか隠すしかなかった。
「ちょっと顔洗ってくるね」
僕は後ろを向いて走り出した。
とにかく早く元の世界に戻りたいからだ。
「おい、ちょっと待てよレイ!」
シュルテンが僕の方に走ってきた。
「どうかした?」
正直今はこいつの顔を見たくない。
「いや、ちょっとな・・・。これ渡したくて」
「?」
そう言ってシュルテンは僕の手に小さい箱を置いた。
「なんだこれ?」
「お前にとって意味のある物だ」
目を見てしっかりと言ってきた。
「じゃあ俺はこれで」
走ってニーナの方に戻っていった。
「なんだこれ」
開けるか迷ったが、なんだか"開けてはいけない"気がした。
「まぁ、後でもいいよな」
胸ポケットに入れて、とりあえずこの世界をもう少しだけ、探索してみることにした。
「あの2人の関係性はわかった。次は僕の立場や家族を探しに行くぞ」
僕の家があるであろう方向へ歩いた。
だが、その途中ものすごい眠気が襲い、立ったまま眠ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます