第6話 開き直ろう

「でも、"本当のこと"は言ってほしいな」

 本当のこと?


「どういうこと?」

 言ってる意味がわからない。


「この前殴られてたアザや傷。あれって転んだわけでも、ペットにつけられた訳でもない。レイのお父様から受けたやつでしょ?」

 その瞬間頭が真っ白になる。

 誰にでも知られてもいいことを"唯一知られたくない人"に知られていたから。


「いつから知ってたの?」

 動揺して言う。


「少し前にレイのお城のメイドさんから聞いた」

 誰がそんなこと言ったんだ。

 彼女には弱い自分は隠そうと思っていたのに。


「ずっと昔からも暴力を受けてたんですよね。なんで言ってくれなかったの?」

 それももう知ってるんだ。

 隠していた弱いところ全部・・・。


「なんでって・・・」

 君に僕が弱い人を演じてることなんて絶対に知られたくないから。

 だって"約束"を破ることになる。

 それに大切な、大好きな人に弱い自分を例え演技だとしても、知られるのも見られるのも恥ずかしいし、屈辱だろ。

 強くないところを見たら君だって失望するはずだ・・・。

 父さんからも母さんからも城の人からも嫌われて。

 国の人からも期待も注目もされていない。

 そんなの"王子失格"だろ?

 君の前で言った立派な王子や王国を作るってことも嘘になるだろ?

 実際嘘でも君の前では弱いところを見せたくないから言ってなかったのに。


「弱いのってそんなにダメなんですか?」

 突如言われた言葉に驚きを隠せない。

 まるで、僕が弱い人物を演じていたことを否定されたような気分だ。


「それは・・・」


「なんですか?」

 少し圧をかけるような目をしていた。

 

「そういうことじゃなくて、僕が弱かったらニーナだって嫌だろ?だから今まで言ってこなかっただけで・・・」

 その圧に対してビビったこともあるのだろう。だけど、1番は自分が不甲斐なさすぎて、情けなさそうな顔で、覇気がない声で言った。

 そうすると、ニーナにナルカから殴られていない右の方の頬を叩かれた。


「私が"そんなこと"で嫌いになると思ってるんですか?私があなたが"強く"ないと好きじゃなくなると思ったんですか?」

 目に涙を浮かべながら言う。

 完璧に怒ってしまっている。


「あなたが弱くても私は好き。強くなくったって私はあなたが好きなのに」

 その瞬間彼女は目から浮かんでいた雫を落とした。


「もういいです」

 そう言って屋上から出ていった。

 

 そんなことって言ったって。

 弱いっていうことは僕にとっては良くても君にとってはダメだろ?

 だから、隠してきたのに・・・。

 弱いやつなんて嫌いになるだろ。

 結婚したくなんかないだろ。

 

 頑張って弱さを隠してきたのに、それがバレた。  

 でも、隠してきた弱さは嫌いになる理由じゃないと言われて混乱している。

 だって、実際は僕強いし。

 演じてるだけで本当は弱くない。

 でも弱いことは君が嫌だと思ったから隠していた。

 なのに、君は弱さがいいと言った。

 どんどん混乱する頭。


 そもそも僕は何故弱いことを演じようと思った。

 それは強いことがめんどくさいから。

 期待されることが嫌だから。

 強さを期待され続けた結果心が壊れた兄さんみたいな結末にはなりたくないから。

 

 それが弱い自分を演じた、作った始まりだ。


 でも待てよ、そこは問題点じゃないのか。


 問題は、本当は強いのにめんどくさいから弱い人を演じ続けた結果、弱い人を演じていることをバレたくなかった唯一の人にバレて、その人に僕は弱いと思われて、けど弱いことは悪いことじゃないと言われ、更には僕は強くないと思われて、でも強くなくていいと言われたことだ。

 

 本当は強いのに弱いと思われた。

 本当は弱くないのに強くないと思われた。

 本当は弱くないのに弱くてもいいと言われた。

 本当は強いのに、強くなくてもいいと言われた。

 

 つまり僕は大切な君に僕という人間を勘違いされた上に、本当の僕を否定までされたってことなのか?


 そもそもは僕が本当は強いのに弱さを演じ続けたからこんなことになったのだけど。


 そもそも君に弱さを演じていることを隠したのは、君に嫌われないためで、君に結婚したくないと言われないためだった。


 そう思った時に気づいた。

 

 なんで弱さを隠したことを彼女のせいにしたんだ。

 

 弱さを隠した本当の理由は違うだろ。


 僕のプライドだ。


 本当は強いことを誰かに知ってもらいたくて。

 本当は逸材だということを誰かに見てもらいたくて。

 だから、

 そのために彼女を"利用して"たんだ。

 彼女に弱さを隠し、自分が強いところを彼女に見せることで、誰かに知ってもらいたい、見てもらいたい本当は弱くない強い自分というものを上手く消化させていたんだ。


 なのに、僕は弱さを君に隠していることを、君のせいにしていた。

 

 酷いな。

 1人でゲームすれば強さを実感できるからいいとか思ってたのに。

 本当はそんなことじゃ、強さの実感が足りなくて。

 自分の大切な人を利用し、強さを実感しようとしていた。

 

 本当に最低だ。


 でも、


 だったら、



 "開き直ろう"。




 ここからは弱さなんていらない。


 強さだけを存分に出していこう。


 そう決めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る