第3話 自然の王子様






「でも、君以外の子は考えられないよ」

 笑わせられたから今度は正直な想いを。


「そうなの?」


「僕は自然に時の赴くままに自由に日々を過ごしたい。公務とか学園とかそれなりにはやるけど、サボって昼寝とか散歩したい」

 ふーんと言いながら僕の頬を触る彼女。


「けどさ、そんな僕を唯一変える"イレギュラー"があるんだ」

 これが伝えたいこと。


「どんなイレギュラーなの?」

 僕の頬を人差し指で押してくる。


「"君"っていう存在だけは僕の考えを壊す」

 彼女の綺麗な青い瞳を見ながら言うと、彼女は顔を赤くして目を逸らした。

 彼女が僕のイレギュラーだからこそ、僕が城で弱い人物を演じていることを知られたくない。

 だってそんな大切な人に弱いことを知られたら絶対に嫌われるし、最悪結婚してもらえなくなる。


「そ、そうなんだー」

 明らかに照れた表情になる彼女。


「うん。僕はこの木の葉っぱのように風になびかれながら自由に舞って、疲れたら止まって昼寝をしたい。だけど、この木のように芯には一個でかいものを持って堂々と立ち続けていたい。君をこの国を守れる男になりたいんだ」

 覚悟を広い広い空に向かい言う。

 この国を守りたいなんて本当は全く思っていないけど。

 でも、君の前だから"強がらない"と。

 弱いとは絶対に知られたくないし思われたくもないから。

 すると、彼女が僕の唇に自分の唇を重ねた。


「頑張ってよ。この国の・・・いや、私だけの王子様」

 突然のことに驚いた。 

 照れはかなりあるけど、ここで隠すのは違うと思った。


「うん。頑張るよ」

 できるだけ照れを隠すように笑顔で彼女の顔を見る。


「だから、僕のお姫様としてこうやって外に出て一緒に昼寝をしてね」

 お互いが相手の顔を見合う中、伝えたかった本心を少しだけ伝えた。


「時と場合によります」

 さっきは昼寝を否定されたけど、今回は少しの了承をもらった。

 これは十分な進歩だろう。


「いつもって言ってよー」

 けど、本音を言えば毎回がいい。


「ダメです」


「夫婦なのに」


「それとこれとは別です」

 笑いながら堂々と宣言する彼女。

 毎回は難しそうだ。


「私と夫婦になりたくなくなった?」

 今度は彼女が冗談のように言ってきた。

 僕が嘘でもそんなこと思うはずがないとわかってのことだ。


「そんなことはないよ。てかそんなこと言えない。父親と君のお父さんに殺される」

 だったら僕も冗談のように返す。

 と思ったけど、これはたぶん冗談ではない。

 本当に殺される。


「2人とも私のこと大好きだもんね」

 彼女のお父さんに関してはたぶん彼女を溺愛できあいしている。

 僕の父さんに関しては"別の意味"で大好きなはずだ。


「僕のことは大嫌い・・・」

 これはできれば嘘だと思いたいけど事実。


「そんなことないよ!!」

 全力で否定してくれる。


「僕には厳しいから」

 あれを厳しいで済ましていいのかもわからないけど。


「将来の王様なんだから当然でしょ」

 それぐらい覚悟して受け入れなさいと言ってくる。

 でも、その言葉は心が痛む。

 だって彼女と僕の結婚はあくまでお互いの国の結びつきを強くするための方法でしかない。

 もちろん結婚できることは嬉しいけど、だからって僕が王様になれるわけではない。

 というかたぶんなれない。

 けど、そんなこと彼女には言えない。

 そんな不甲斐ないこと言えない。


「たぶんね私のお父さんもレイのお父さんも、があるみたいだしレイに期待してるんだよ」


「親友だったみたいだよね」

 だから僕と彼女が許嫁になった。

 お互いの子供を許嫁にして国同士の結びつきを強くする約束があったから。


「自分と親友の子供を許嫁にするとかあの2人もなかなかやるわね」

 僕達が生まれる前から決めているとは相当だ。

 


「確かに」

 今更ながら驚く。


「でもそうしなきゃ私と君は許嫁になっていなかったのかな。それは嫌・・・」

 さっき見せていた心配な表情ではなく、初めて顔に力がない暗めの表情になり下を向く。

 それぐらい彼女にとっても僕と結婚するってことを大切に思ってくれているみたいだ。

 なら僕は彼女を暗い気持ちにさせてはダメだ。


「僕はそんなこと思わないよ。もし、僕と君が王子と王女様じゃなくて、どこか遠い国に住んでいたとしても、僕は君と結婚する自信がある」


「どうして」


「だって"妖精"と"精霊"だよ?どんなところにいようといずれ僕達は運命的に出会って恋に落ちる」

 彼女は僕のことを見つめる。


「大好き」

 今日1番のとびっきりの笑顔を見せてくれた。

 この笑顔を守りたい。


「この綺麗な自然を君の国を僕の国を未来ある子供達を家族を」

 一度深呼吸をした。


「僕は守る」

 今言ったことは嘘で塗り固められているけれど、彼女の前では強くいないといけないから仕方ない。


「"レイ"・・・」


「そして1番は"ニーナ"、君を絶対に幸せにして守り抜くよ」

 これだけは心の底から本当のこと。


「ありがとう。一生守ってね"自然の王子様"」

 

 大好きだから、彼女だけには弱さを演じてることを知られたくない。

 

 彼女だけには弱さを見られたくない。

 

 僕と彼女が会っていない期間に受けた仕打ちも絶対に知られたくない。














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