左遷太守と不遜補佐・22

「あれ? そもそも俺、なんで、ここに……?」

「赤伯くん。君は、よくやっているよ」


ぽんと、硬い髪を撫でる太守様の手は、泣きそうなくらい温かい。


「この耳飾りを継いだ時、誓ってくれたんだろう?」


――どんな任務を与えられても、俺らしく頑張るから。――


それは、太守の遺品解放の折。赤伯が耳飾りを手にした瞬間に、ふと心の底から沸き立った誓いだった。

訓練兵としての旅立ちが重なったこともあり、心の中で強く思ったのだ。


「そう……でも……その俺らしさが空回って、みんなを困らせてる」


結局めぐりめぐって、与えられたのは国境守備ではなく、太守という重き任だった。

あなたのような人になりたい――そう何度も憧れてきた。しかし。


「俺、あんたみたいな太守になりたいんだ! でも、なれなくて……」

「大丈夫。君なら大丈夫だ」

「太守のおじさん! 太守サマ……! 俺、どうしたら!」




びくんと体が跳ねると、そこは寝台の上だった。そうか。あれは夢だ。


「……え? せい、めい……」


手を動かそうとしてみれば、それは青明の手によって、しっかり握られていた。

床に座り込み、寝台に上体だけを預けてうたた寝をしている彼の顔は、やはり同い年くらいに見える。


「……青明……あ」


夢から覚めた途端、仕方のないことだが、気が抜けることに尿意が襲った。


「んん……はっ! 太守さま! ようやくお目覚めに!」


遅れて目を覚ました青明が体を起こすと寝台が揺れ、膀胱が刺激される。

これはまずい。色々と聞きたいことはあるが……。


「あの、青明……悪いんだけど」

「はい」

「ちょっと、厠」

「……まあ、二日間ですからね」

「えっ? 二日?」

「早くなさらないと、粗相をされますよ。わたしは知りませんからね」

「わわ、分かってるよ!」


二日間眠りこけていたのか?

足元がふらふらするのは事実だ。とにもかくにも生理現象を済ませ、私室へ戻ると青明が茶を淹れていた。


「ひとまず喉を、潤してくださいませ。からからでしょう」

「あ、ああ……そうなんだけど、さ」


促されるままに座って一口含む。やわらかい香りが鼻を通って、何とも言えない落ち着きを呼び込む。


「……俺、情けないよな……」


思い出したのは、土の上で急な目眩に襲われたことだった。

農場の計画もこれで頓挫したことだろう。結局また『だけ』をしてしまい、着地点を見失った。


「おやおや、太守さまが弱気とは珍しいこともあるのでございますね。これでは雨が降りましょう」


――農場の皆さんもご迷惑でしょうねえ……。


ちゃっかりと、自分の茶を淹れた青明が言う。


「ん? ……ん? 青明、いま、なんて」

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