左遷太守と不遜補佐・20

「……なあ、あんたたち、どこかの流れ者なんだろ? だったら、俺たちのところに来ないか?」

「は?」


恐らく賊と青明と、同時に声を出していた。


「俺はこの土地の太守だ」

「これは面白ぇ、その太守様がなんだって? 徒党でも組もうっていうのか?」

「いや……ここに大きな農場を作る。その開墾員として来ないか? もちろん楽な仕事じゃない、でも賊だって、決して楽な仕事じゃないはずだ!」


青明は顔から血の気が引くのを感じた。


まだ農場の話だって仮定のことでしかなく、しかも賊を都市に引き入れようとしている太守を、正気とはとても思えなかった。

そんなことをしたら民から反感を買うどころか、都市全体を巻き込む内乱になりかねない。


「悪い話じゃないだろう」

「はっはっは! なに言ってんだこの小僧!」


賊が斧を振り上げるのが見える。青明は咄嗟に、色々な感情を忘れて赤伯の胸にしがみつき、瞼を閉じた。

やはり深入りなんてするものじゃなかったと、呪うことだけはして。しかし、衝撃のようなものはいつまでも襲ってこなかった。


「なんだあ、こりゃ」

「太守の証だ。王から正式に賜ったものだ」

「た、太守さま……まさか」


斧を持った首領格の男に、太守の証を……渡してしまった。


その命と同等である、証を。


「生活を補償する。それまで、持っていてくれて構わない」

「太守さま!」


大丈夫、大丈夫だから信じてくれ。耳元で囁く声は、天にすら懇願するようだった。


 ◆ ◆ ◆



陽が昇るのと共に賊を連れ帰った太守一行を見る民の目は、当然ながら冷ややかでしかない。

こればかりは青明も擁護をする気持ちにはなれず、軽蔑さえしていた。


完全に赤伯の暴走になっている。就任初日の宴騒動を、もう忘れてしまったのだろうか。


ひとまずは太守館の庭に幕を張り、そこを流れ者たちの仮の住まいとした。しかしそれにより、女官らはみな恐れ、出仕を拒否し始めた。


はじめの数日は太守館の官吏、そして流れ者と共に農地の耕しに出かけていたが、なかなか民間の大工と折り合いがつかず、農場施設の建設が進まないまま時が過ぎてしまった。


そのうち官吏たちが抜け、話が進まないことにしびれを切らした流れ者も抜け、ついには赤伯一人で農場予定の土地をならす有様となった。


もう九日ほどだろうか、赤伯は広大な土地で一人、飽きもせずにくわを振るっている。

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