第37話 その先に待ち受けていたもの
2人はただ歩き続けた。ここ数日は晴れ間が覗き、寒さは幾分か和らいでいる。それでも地面の至る所に雪は残り、足を痛めたレイラが山を越えるには決して楽な道のりではなかった。
草木を踏み分け歩く、その時だった。
少し離れた所でポキンと小枝を踏んだ音が聞こえた。音の方角に目を凝らすと、人影こちらに向かってくる。2人は銃に手をかけて身構えた。黒い服を身に纏った彼がゆっくりと近づいてきた。
「もう諦めろ」
2人の前に現われた彼は、穏やかな口調で告げた。
「リュウさん……」
レイラは静かに銃を下ろした。
「レイラ、お前は俺の物だ。戻って来い」
リュウジは冷静な口調で右手を差し出した。
「あたしは物じゃないよ!」
突然モノ扱いされたレイラは思わず抗議の声をあげる。
「物だよ。お前達は国が作り上げた殺人兵器だ」
レイラは彼の口から突然発せられた言葉に愕然とした。
「リュウさん、知っているの?」
「ああ、すべて聞いた。お前達が何者かも。残念ながら、お前の居場所は何処にもないんだ」
憐れむような眼でリュウジは言った。
「居場所はあるよ。あたしはショウと共にやるべきことがあるの」
リュウジは右手を差し出したまま一歩レイラに近づいた。
「これが最後の忠告だ。俺と共に来なければ、お前はいずれ殺される。お前は国家機密なんだ。存在を消そうと、国が躍起になっている」
レイラはポケットに手を入れて、青い石を取り出した。
「これ、リュウさんがくれた石。強運を招くんだよね。ずっと持っているよ。あたしには、やるべき試練があるの。超えるべき試練が」
「お願いだ。リュウジくん。僕たちが何者か分かったのなら、もう、そっとしておいてくれないか」
ショウが穏やかな声で告げる。しかし、リュウジは舌打ちをしてショウを睨みつけた。
「黙れ。お前がいなければ、レイラは何も知らず、普通の人間として暮らせていたんだ。何故、レイラを巻き込んだ」
「リュウさん、それは違うよ」
レイラが声をあげる。
「あたしの記憶はショウに会わなくても、きっといつかは戻っていた。もしもショウに会う前に記憶が戻れば、あたしはその時点で今と同じことをした」
彼の鋭い視線がレイラに移動した。
「お前はどうして、うしろの闇ばかり振り返る。前を向いて生きて行くんだ」
「闇と決着をつけないと、前には進めないんだよ。お願い見逃して。あたしたちは誰もいない土地で暮らす。それが、最大の復讐だから」
リュウジはそっと銃ホルダーに手をかけた。
「お前たちはいつか、国家にとって最大の危険人物になる。俺は警察官だ。お前がこちら側に来ないのならば、見過ごすわけにはいかない」
彼は銃を構えた。銃口が2人に向けられる。レイラは思わずひゅっと息を飲んだ。立ち尽くすレイラにショウがそっと囁いた。
「レイラ。本来ならば避けたかったことがこれから起こる。だから、よく聞くんだ。僕はこれからリュウジくんと戦う。きっと、どちらかが死ぬ。リュウジくんが死んだら、僕と逃げよう。でも、もしも僕が死んだら、きみだけは生きるんだ」
「やめて! そんなこと言わないで。リュウさんも、ショウも死んじゃ嫌だよ。なんとかリュウさんから逃げて、逃げて、あたしたちの復讐を果たそうよ」
ショウは何も答えず、リュウジに向かって一発発砲し走り出した。かろうじて避けたリュウジも拳銃を構えたままショウを追う。2人の黒い影がものすごい速さで森を駆け抜けた。レイラは足を引きずりながら必死に彼らの後を追った。
銃声が響いた。激しく撃ち合う音がする。遠くからヘリコプターの音がした。
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