第31話 赦さない人②

「レイラ、この人にだって、きっと大切な誰かがいるはずだよ」

 ショウが穏やかな口調で告げた。ショウの言葉を聞いた男は、ゆっくりと口を開いた。

「きみの家族には申しわけないことをした。ただ、さっき彼が言ったように、私には大切な人がいる。大切な人がいるこの国を護るために、脅威になるものを排除した。そのつもりでいたし、今でもそう思っている。これから5分だけ、猶予をやる。私達の前から消えなさい」

「原山班長、何を言っているんですか? こいつらは射殺命令まで出ているテロリストですよ」

 同僚の男は困惑した表情で、仲間を見ていた。


「キミたちがテロリストではないことは理解している。私も、あれからいろいろと調べたからな」

 そこまで言って、原山班長と呼ばれた男は若い同僚を見る。

「詳しくは後で説明しよう。かなり長い話になる」

 若い男は何も反論せず頷き、言った。

「俺たちは何かを犠牲にしても、恨まれても国家の命令には従わなければいけない。そう教えられてきました。それを教えてくれた班長が決めた事です。班長の意思を尊重します」

 

 この2人の間には、絶対的な信頼関係があるようだった。班のみんなとエイジ班長のような。たがいに命を預け合い、信頼して背中を任せられる相手なのだろう。


「早く行きなさい。ここには私たち以外、誰もいない。県境を越えるまでは誰にも見つからないはずだ」

「ありがとうございます」ショウが軽く頭を下げる。

「それでもあたしは貴方を赦さない。赦さないってことだけは覚えていて」

 銃をしまいながらレイラが言った。

「行こう、レイラ」

 ショウに促され、レイラはその場を離れた。



 どこにいても冷たい風が肌に突き刺した。それでも、あれから追われることはなかった。彼らは約束通り2人に会ったと誰にも話していないようだった。

 今日も朝から曇天だ。ショウが空を見上げた。

「あ、雪だよ」

 白い雪がちらちらと、2人の前に降りてきた。

「本当だ。綺麗だね」

 レイラは空を見上げ、舞い降りる神秘的な白い光の粒を見つめていた。雪は止むこともなく次々に舞い降りる。ここには2人以外、誰もいない。まるで雪が自分達だけのために降ってきているような感覚に囚われた。


 しばしの無言の後、ショウがそっとレイラの肩を抱きしめる。

「レイラ、寒い?」

「ううん。ショウあったかいね。こうしていると……すごく落ち着く」

 レイラの言葉は細く白い息を吐き出した。

「ずっと、こうしていたいって思うよ。誰にも邪魔されずに」

「僕も同じだよ」

 2人は身を寄せ合ったまま、しばらく空を見上げていた。

「レイラ、僕は最期にどうしても会っておきたい人がいるんだ。一緒についてきてくれるかな」

「え?」


 ショウはレイラに昔の話を始めた。2人がはぐれた10年前、そのちょっとあとの話。 


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