第22話 向き合った真実
全国に張り巡らされた警察の検問を潜り抜け、3人は目的地へと向かった。
別荘を出ると、ショウは拳銃を取り出した。
「ショウ、銃なんていつ手に入れたの?」
確か、彼の銃は警察から持ち出していないはずだ。
「カイルがくれたんだ。俺の足が良くなったのも、カイルのおかげだよ」
ショウはジャンプしながらカイルに微笑む。撃たれたはずの足は、傷跡はあるものの、すっかり良くなっているようだった。
「俺がいた研究所から、前に色々なものを盗み出したんだ。ショウに与えた薬もその一つ。俺たちの遺伝子に直接作用して、回復力を早める薬だよ。拳銃は全国を彷徨っているときに手に入れた」
「カイルと色々話していたら、お互い苦労したんだなぁってよく分かったよ」
ショウが労うようにカイルの肩を叩く。カイルも「お互いよく頑張った」とショウの頭を撫でた。ショウが「そうだな」と言ってカイルの頬を引っ張ると、カイルも負けじとショウの耳を引っ張る。
カイルとショウを見ていると、まるで兄弟のように見えた。実際はカイルの方が年上らしいけれど、見た目の幼さから、集落にいた時、カイルが弟たちとふざけている様子によく似ていた。微笑ましい光景だった。
「ショウに聞いても、10年間に何があったか教えてくれないんだ。カイル教えてよ」
レイラが尋ねると、
「やだよ、これは俺とショウの秘密」
「そういうこと」
2人は悪戯っぽく笑った。
3人が向かった場所は近畿地方、某所。
『国家遺伝子・ゲノム第3研究所』
国が管理する遺伝子研究所は表向き、第1、第2しか存在しない。どちらも某県の 街地から少し離れた場所にあり、植物や家畜の優れた遺伝的能力をより効率的に改良するため、遺伝子情報を解析し、それらを育てる為に遺伝子情報を活用する研究が行われていた。
しかし、表には決して出ない、第3研究所なるものが存在するとカイルは教えてくれた。
第3研究所の存在を知っている人間はごくわずか。そして、その場所では日々様々な研究が行われていた。
人里離れた山奥に突如現れた、高い塀。有刺鉄線が張り巡らされ、至る所に監視カメラが設置されている。塀の内部を伺うことはできず、人の気配も感じない。
「三手に分かれて、どこか侵入口を探そう。さすがに正面からは入れない」
正面ゲート思われる扉は無人だった。だが、見るからに頑丈で、破壊するのも一苦労だろう。
まずは侵入口を探すため三手に分かれた。極秘の施設だけあって、簡単には入れそうもない。前回、カイルがレイラを助けるために開けた通路も完全に塞がれていた。
「開けるのに苦労したのに、簡単に塞ぎやがって」
カイルがちっと舌打ちする。
一度建物から離れて、高い木に登り上から全体を見下ろした方が何か見つかるかもしれない。そう思ったレイラは2人と別れ、建物から離れて建物を見下ろせそうな場所を探すことにした。
「レイラ、こっちに侵入口があったよ」
木の上に登っているレイラにショウが声をかけた。
「お前、猿みたいだな」
するすると木から降りたレイラを見て、カイルが苦笑いする。
「昔からレイラのお転婆ぶりはすごかったからね。木登りくらい可愛いものさ」
ショウが笑うと、レイラは
「ショウは臆病だったよね。木登りが怖いとか言ったこともあったっけ」と笑った。
ショウが見つけたのは、排水構造物だった。
「この先ならカメラの死角だし、なんとか入れると思う」
ここは山奥で下水道が整備されていない。浄化槽を通って建物内に入ろうとショウは説明した。
「カイルは何度もここに来ているの?」
「いや。この前、レイラを助けたのが、ここを出てから初めて来たかな。あいつもここにいると思うんだけど、見つけられなかった」
3人で力を合わせて浄化槽の蓋を持ち上げる。
「2人とも馬鹿力だな。前に来た時はびくともしなかったのに」
ぽっかりと空いた穴を覗きながらカイルが言った。穴の奥には大きな水槽が2つ並んでいる。隙間を通れば建物内部に入れそうだ。
「ここにあるのは消毒槽だけのようだね。あとは建物内にあると思う。通っている菅も太そうだし、なんとかなるんじゃないかな。レイラは嫌かもしれないけれど」
ショウはいつの間に用意したのか、ゴーグルと防毒マスクのようなものを持っている。
「別に嫌じゃないけれど、汚水は泳ぎたくない」
「それはみんな同じだよ。この隣は接触ばっ気槽だからまだきれいな水だよ。でも、銃を濡らさないように気をつけないとね」
ショウが苦笑いする。
「しかし、ショウは浄化槽のことをよく知っているね」
「レイラに会うまで、いろいろあったって言っただろう。その時にアルバイトをしたことがあったんだ」
「ああ、なるほど」
ショウが先頭に立ち、レイラたちを誘導しながら建物の敷地内に侵入した。管の隣にはまだ何も通っていない管が引いてあり、幸い濡れずに辿り着けた。
監視カメラを避けながら、建物の前に立つ。4階建の病院のようなそれは、不気味なほど静まり返っていた。
あの日、レイラがいたのは2階だ。まずはそこに行こうと伝えるとカイルが『そうだな』と同意する。
「昔は俺たちの仲間が各フロアいたんだ。けれど、今は2階だけしか使用されていない」
慎重に歩を進めながら2階にある事務所へ向かった。事務所の前に着き、ドアの隙間から室内を伺うと、数人の看護師やスタッフが何やら打ち合わせをしていた。
「みんな動かないで」
レイラは銃を構え、事務所に突入した。ショウとカイルも続いた。
「あ、あなたは白兎レイラ」
以前、レイラの採血をした看護師が声をあげた。
「指名手配犯がいるぞ」
「誰か警察に電話をして」
「銃を持っている。みんな逃げて!」
病院のスタッフ達は悲鳴を上げながら、逃げはじめた。
「みんな、静かにして!」
レイラは天井に向かって一発、発砲した。銃声が鳴り響くと、逃げ惑う人々が一斉に口を噤んだ。部屋は一気に静まり返った。
「スタッフはこれだけなの? みんなを集めて」
レイラの言葉にカイルが頷き、男性スタッフの一人にナイフを突きつける。
「おい、お前。この建物にいるみんなを連れて来い」
「今は、こ、これだけです。ここは、細々と研究をしているところですから……」
白衣を着た男はおどおどと答えた。ここにいる人間は8人しかいない。少なすぎだ。いや、肝心の人物がいなかった。
「土宮達起はどこだ? 教えれば、あなたたちに危害は加えない」
ショウが叫ぶ。
「知っている人は早く連れてきて」
レイラはみんなに銃口を向ける。
「誰のこと?」「もしかして、所長?」「あの人はここにはいないでしょう」
スタッフたちは口々にぼそぼそと言いながら、おそるおそる顔を見合わせている。土宮達起の名を知らないようだ。
「ちょっと、所長って誰?」レイラが尋ねた。
「ここの責任者です。あまり姿を現さないので、どこにいるか……。指示は全てメールや電話ですから。この前あなたがいた時も、ほとんど顔を見ませんでしたし」
困惑した表情で女性スタッフが告げた。
「どこかに隠れているのか。このまま各部屋を調べるしかない。いや、時間がかかりすぎる」
「人質を取って、呼び出す?」
ショウとレイラが顔を見合わす。
「老人が一人でこそこそと隠れているというのか! 早く出せよ。嘘をついたってすぐにばれるんだよ!」カイルが声を荒げた。
「あの……老人って……。所長は50代半ばだと思いますよ」
言いにくそうに別のスタッフが口を開いた、その時、
「きみたちが捜しているのは彼の事かな」
突然背後から声がした。
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