残酷な真実ともう一人の彼
第18話 もう一人の彼
ある日の深夜、天井裏からがたがたと音がして目が覚めた。暗闇に目を凝らせば、天井の一部分が少しずつ動いている。常夜灯をつけ天井を凝視すると次の瞬間、開いた天井の隙間から人が顔を出した。
若い男だった。彼は人差し指を口に当て、声を出さないように指示する。突然の出来事にレイラは身構えた。彼はトンと小さな音を立て、天井から飛び降りた。
「あなた、誰?」レイラの問いに、彼はまた人差し指を唇に当てる。
「静かにして。監視カメラの電源は細工してあるから大丈夫だよ。俺はレイラを助けに来ただけ。『ショウ』に会えるように協力してあげる」
レイラはショウの名前に動揺し、目を見開いた。
「ショウは無事なの? きみは一体誰?」
「レイラの仲間だよ」
彼は涼しい顔で答えた。
「仲間?」
レイラは怪訝な顔をして彼を見る。
「あたしに仲間なんていないよ。みんな殺されたの。次にできた仲間は、私が裏切ったからもう仲間じゃないし」
「俺は、みんな殺された方の仲間だよ」
彼はにやりと笑った。顔を見るが全く見覚えはなかった。年は10代前半、背は160センチあるかないか。自分たち以外に惨劇で生き残った子供がいたのだろうか。いや、あの時は長老から赤ん坊まで皆殺しにされたのだ。当時、自分よりも幼かった彼があの島から一人で逃げて、ここまで生き延びられるとは思えない。
「あなたは本当に集落にいたの? それじゃあ、一番高い塔の名前を知っているよね」
集落にいた者なら、絶対に知っている場所の名前を聞いた。
「プロメーテウスの塔でしょ。確か名前の由来は、神話の登場人物だよね。絶対に登ってはいけないって言い聞かされていた。外の世界が見たくて、何度が登ろうとして、怒られたことがあるよ。俺さ、見た目は若いけれど、きみたちの先輩だよ。先にあそこを出て、外の世界に行ったんだ。俺はレイラを覚えているよ。まだ幼かったけどね。そうそう、ショウもレイラのこと探しているよ。きみとショウが何者か、教えてあげる」
彼はレイラがまだ記憶喪失だと思っているようだった。
「何者って、あたしの記憶は戻ったのよ」
レイラの言葉に彼は困ったような顔をした。
「そうじゃなくてもっと本質的なところ。本当はもっと早く教えてあげようと思ったんだけど。二人とも逃げ足が速いんだもん。俺も結構足に自信があったのに」
「じゃあ、あの日、あたしたちのあとをつけていたのって」
集落まで戻ろうとしたあの日。誰かに追いかけられた二人は、てっきり相手が警察だと思って必死に逃げた。
レイラは、「てっきり警察に追われたのかと思ったんだから、紛らわしいよ」と彼を睨むが悪びれる風もない。
「まぁ、その話はいいや。詳しくは後で説明するよ。こっちだよ。あ、そうだ。自己紹介がまだだったね。俺はカイル。よろしく」
カイルと名乗った男の子は紙袋を差し出した。
「これ、レイラの拳銃。証拠品の所にあったから持って来たよ」
「あ、ありがとう」
レイラが紙袋を開けて中身を確認すると、二丁の銃は紛れもなく彼女のものだった。
「ほら、早く。誰か来るよ」
レイラは急かすカイルの後を慌てて追った。
レイラは彼を信用してよいかどうか、思いあぐねていた。罠かもしれない。いや、罠でもいいからショウに会いたいとも思った。彼に聞きたいことは山ほどあったが、何も尋ねなかった。
カイルが連れてきたのは、山奥にある二階建ての一軒家だった。元々は別荘だったが、持ち主が亡くなってずっと使われていないらしい。
別荘に足を踏み入れたレイラの視界に入ったのは、微笑むショウの姿だった。
「レイラ」
「ショウ、無事でよかった」
ショウの姿を見て、気が付けば涙がぼろぼろと溢れていた。泣いてる顔を見られたくないので、何度も何度も指先で涙を拭う。
「あたしに黙って死んだら、絶対に許さないから」
「大げさだなぁ。ただのかすり傷だよ。カイルが手当てしてくれて、すっかり良くなった。それに、レイラを残して簡単には死なないよ」
ショウは泣きながら怒るレイラを引き寄せ、強く抱き締めた。彼の体温を感じることがとても幸せだった。
「お二人さん、いちゃつくのは良いんだけど、俺の存在を忘れてない?」
カイルが呆れた声を出し、二人は我に返った。
「あ、ごめんなさい」
「さっきの話の続き。きみたちが何者かって、まずはその話をしてもいいかな」
カイルは真顔になって二人を見比べた。
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