第4話初めての依頼
次の日、早速朝から依頼を受けるために宿を出てギルドへと来た。部屋を出る時にフォンは狐の姿を変えてストールになったため、今はリオの首に巻かれている。
ギルド内は朝早いという事もあり昨日よりまだ人は少なかった。それでも結構な数の冒険者はいて賑やかなのは殆ど変わらなかった。
リオが依頼を受けるため依頼の貼ってあるボードを見れば沢山の依頼が貼ってあった。その多さに迷ってしまうほどだ。
そうは言っても最低のFランク冒険者が受けられる依頼などたかが知れており、選択肢はグッと減ってしまったのだが…
少ない選択肢の中から迷った結果、一番王道であろう薬草採取の依頼を受けることに決め、受付へとその紙を持っていく。
「これを受けたいのだが」
「薬草採取の依頼ですね。ではギルドカードをお預かり致します。…はい、受理が終わりましたので気をつけて頑張って下さい」
受付の人は昨日担当してくれた男性の人ではなく三十代くらいの女性の人で、素早く依頼の内容を確認すると渡したギルドカードを機械に翳す。受理が終わるとカードも無事に返してくれた。
実は昨日のうちに露店で本を売っている商人から魔物図鑑と薬草図鑑、世界地図等を買っておいた。勿論ギルドでもお願いをすれば貸して貰えるようなのだが、破損や紛失をしてしまった場合にはその借りた物の値段をギルドに払わなくてはいけないらしい。
まぁ、これは当たり前だろうな。壊したり失くした奴が払うのは。
薬草採取の依頼達成のため門から外に出て森へと来た。森とは言っても入ってすぐのまだ浅い場所なので魔物とかは滅多に出ないようである。
リオの薬草などに対する知識は乏しかったため異空間ボックスから出した薬草図鑑に随分助けられた。
風邪の症状を和らげる薬草を依頼されていたため、図鑑でその薬草かどうかを確認しながらでの採取は思っていたよりも時間がかかってしまった。お目当ての薬草以外にも有用性のある物は拾い最終的には結構な量の薬草を採取することが出来た。
時間が早く終わればギフトを試しに使ってみようと考えていたのだが、さすがに全部は無理そうな時間だった。なので使えばどうなるか分かる『テレポート』ともう既に役に立っている『異空間ボックス』と『従魔』は除外した。
そうすると残るは『武器召喚』と一番効果のハッキリしない『古の女神の祝福』である。
『武器召喚』は説明に自分の想像力によって召喚出来る武器が左右されるとの有無が書かれていたので修練の必要がありそうだ。
何と言ってもリオは十八歳まで殆ど外に出ることはなく別館で暮らしてきた。知識は読んだ本の数程しかない。
頭で思い描く力は正直全然足りないだろう。だが今は危険が迫っている訳ではなく試しなのでチャレンジ精神で取り敢えずやってみる。
息を深く吸って吐いてと繰り返しながら武器といったらを何かを必死に思い浮かべながら「武器召喚」と言ってみた。
その瞬間微かに光ったと思えばリオの手には剣が握られていた。しかし刃はガタついていてお世辞にもいい切れ味とは言えない。
ダメだな。こんな剣じゃ到底魔物は倒せないだろうな…
『仕方がありません、リオ様は本物の武器をよく見たことがないのですから。私から出来るアドバイスは一度街の武器屋を覗いてみるのがいいと思われます。そうすればよりイメージが湧いてこのギフトの真価を発揮できるようになる筈です』
「そうだな。フォンの言うように帰ったら武器屋を覗きに行こうか」
狐の姿でなくてもフォンは俺と会話出来るようで俺の頭に直接話しかけてきた。今のままでは到底実戦では使えなさそうなので練習あるのみだ。
そしてもう一つ気になっていた『古の女神の祝福』の※の信仰心が高まれば……の所をフォンに聞いてみればだんまりで何も言葉は返ってこなかった。
その空気感的にお前には先にやるべき事があるだろうと語っていた。
気づけば日が傾き大分時間が経っていたので分からない物は置いといて街へ戻ることにした。街へ入る際門番にギルドカードを提示すればスムーズに通して貰えた。
何でもギルドカードは持っているだけで身分証になり、カード自体に特殊な魔術がかけられているそうだ。それによって犯罪や悪い事をすれば直ぐに分かる。そのため偽造も出来ず本人以外が使うことも出来ない。
もしそういう事を行おうとしたら
街に戻ってきて武器屋へ行こうか迷ったのだが、時間も遅かったのでそれは明日にして依頼達成の報告のためギルドに来た。
中へ入れば昨日より一段と騒がしい気はしたものの、これが通常通りなのだろうかと思ってそのまま受付に進んだ。
「依頼達成の確認を頼む」
「では依頼書をお願いします。此方は風邪の症状を和らげる薬草の採取ですね。その薬草の提出によって依頼達成になります」
リオは異空間ボックスから依頼書と薬草を取り出して受付の人に渡した。異空間ボックスとアイテムボックスは入れられる容量は天と地の差ほど違うものの使い方は同じなので周りにはアイテムボックス持ちだと思われるぐらいでバレることは無いだろう。
このギフトがない人向けに値段は結構するが鞄に収納魔法が付与された物が売られている。それを買えるかはまた別なのだが…
「こちらが依頼達成の報酬になります。薬草の状態も非常に良いので少しプラスした金額となっています」
「あぁ、ありがとう」
薬草の状態を確認してから報酬を渡された。本来は大銀貨五枚であったのが状態が良かったため、プラス一枚された大銀貨六枚の報酬であった。
報酬を受け取ったのでギルドから出ようと入口に移動していた時、何かが此方に向かって吹っ飛んできた。リオは咄嗟に身体が動いて避けていた。
そのお陰で自分には当たらずに済んだ。リオを通り過ぎっていった物は派手な音を立てて壁にぶつかっていた。
その近くにいた女性が驚いて悲鳴を上げたことでそれまで騒がしかったギルド内が水を打ったような静けさに包まれた。
吹っ飛んでいた何かは人で男性だった。
女性の方がリオよりもその男性に近い場所にいたけど、パニックになったのかぼう然と立ち尽くしていた。
これは無理そうだと判断して俺は壁にぶつかって倒れている男性に駆け寄り意識があるか声を掛けて確認した。
「おい、大丈夫か。俺の声は聞こえるか」
声を掛けながら男性の肩に手を置いて少し揺さぶった。額から血は流れているものの身体の反応は返ってきたので一応意識はあるようだ。
「あぁ……大丈夫だ…聞こえるッ」
少し経って意識が覚醒してきたのか男性から弱々しくはあるが返事が返ってきた。身体を動かした際に打撲した所が痛んだのだろう眉間にシワが寄っていた。
傷や打撲はあるけれどこの様子だと男性は手当をしたら大丈夫そうだ。
男性が吹っ飛んできた方向には大柄でガラの悪そうな男が酒に酔ってか騒いで暴れていた。
「カルロさんよ、落ち着いてくだせぇ。いい加減酒の飲み過ぎでっせ」
「おいカルロ、酒じゃなく水飲んで酔い覚ませ」
「ごちゃごちゃうるせぇな、てめぇら。いいからもっと酒ォ持ってこい」
周囲の冒険者が止めようと酔いを覚まさそうとするも、本人には届かず聞く耳も持たなくて全然ダメだった。
その隣を何も考えていないのかフードを目深に被った人が通り過ぎようとした。普通はああいう厄介そうなのを見たら離れて近づかないようにする。自分に火の粉が降りかからないようにな。
あんな近くで通れば絡まれそうだよな~
他人事に見ていれば案の定絡まれていて不躾にも笑ってしまった。
「おいおい坊主。そんな小さいガキみてぇな高さで顔を隠してると危ねーぜ」
「ウザ絡みしないで落ち着いて下せぇって」
「あぁ!?俺ァな親切にも教えてやってんだぜ」
だいぶ酔いが回っているのかニタニタしながら大柄な男カルロはフードを被った人物に近づいた。
一体何をする気か分からず様子を見ていたらカルロはそのフードを力任せに引っ張って顔を出させた。
フードが取れたことで顔が顕になったのだがあまりの美しさに周囲はあっと息を飲んでいた。周囲の男どもから「美しい」「何て綺麗な人なんだ」自然と声が出てしまうほどの整った顔立ちの美人であった。
これにはフードを取ったカルロも驚いたのか美人を凝視していた。
「こりゃあ夢か…?偉い美人な姉ちゃんが目の前にいるじゃねぇか。オレと一緒に飲もーぜ!」
夢か疑いながらも頗る愉快なのか豪快に笑ってその美人を飲みに誘うほどの豪胆さを持っていた。周囲は野次馬の如くそれに美人がどう答えるのか固唾を飲んで見ている。
「お断りします。私馬鹿騒ぎ好きじゃないし。それに貴方とは一緒に飲みたくないわ」
彼女は嫌な顔を隠しもしないで男にハッキリと軽蔑した目と冷ややかな声で断っていた。
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