第5話彼女の名はユリア

 リオは彼らを見ていたのを止めて負傷している男性をギルドの職員に任せた。その後ギルドを早々に出てしまったため、あの酔っぱらいの騒動がどうなったかは分からない。



 今日も昨日と同じような時間に宿を出たが、そのままギルドには行かないで武器屋へと来た。

 店の中に入れば豊富な種類の武器が沢山置かれていた。一般的な剣や槍、弓や斧その形や長さは全部バラバラだ。


 付与魔法の施された武器も置いてはあるけど今のリオには到底買うことの出来ない値段であった。他にも武器を見ている冒険者は何人かいて、そのお陰で十分武器を観察してから店を出れた。



 用事が終わったため依頼を受けにギルドへと向かって歩いている途中後ろから声が聞こえた。


「ねぇ、そこの貴方ちょっといいかしら」


 リオはまさか自分に話し掛けられたとは思わず、そのまま止まらずに歩いていた。すると急に腕を掴まれ「何で話しかけてるのに止まらないのよ」と怒った女性の声がすぐ近くでした。

 振り返ると昨日ギルドで酔っ払いに絡まれていた美人が立っていた。今日は目深にフードを被って顔を隠していなかったので先程から道行く人がチラチラと彼女を盗み見ていた。


「すまないが腕を掴むのはやめてくれ。それで俺に何の用だ」

「あ、ごめんなさい離すわ。私フードからチラッと見えたんだけど貴方、突然の事にも関わらず飛んできた男性を避けていたわよね…?」

「あれは偶然だ。そんなこと普通の人に出来るわけないだろ」


 掴んでいた腕は直ぐに離してもらえ、用を聞けばどうやら咄嗟に避けた所を見られていたらしい。面倒なことになるのはごめんなので取り敢えず誤魔化しておいた。

 しかし彼女はなかなか食い下がらず「それは絶対嘘よ。あの動きが偶然な訳ないでしょ」と押し問答が続いたが、頑なにリオが否定すれば渋々納得したのか勘違いした事を謝られた。


「そう……納得はしないけど勘違いして悪かったわね。この話は取り敢えずもういいわ。それで貴方の名前は?私はユリアよ」

「俺は…リオだ」


 本当は彼女に自分の名前を教えたくはなかったけれど、早くこの場を離れたくて仕方なく教えた。しかし教えて直ぐにリオは後悔した。


 彼女にパーティーに誘われたからだ。


「リオね!じゃあ単刀直入に言うけど私とパーティーを組んで欲しいの」


 リオは突拍子もなくパーティーに誘われて思わず「はァァ?!」と声が出てしまった。


 おいおい。今さっき知り合ったばかりだぞ。マジか…正直彼女の頭は…としか思えない。

 何とかして彼女とパーティーを組むのを回避したいリオは自分よりランクが高いであろう彼女とのランク差を示そうとした。


「はぁ……ちょっと待ってくれ。俺はFランクだ。それでユリア、君は一体幾つだ?」

「私…?私はCランクよ。ランク差でどうこう言おうとしてるなら無駄よ。私ランク差なんて気にしないから」


 俺の浅はかな考えはそうそうに見破られて何も言えなくなった。その状態を見た彼女は「じゃ決まりで文句はないわね」とリオの腕を掴んで半ば強引にギルドへと連れて行った。


 ユリアの行動は速く気づいた時には彼女とパーティーを組んでいた。




 パーティー名をどうするかとなった時に彼女はリオの髪色を見て何の捻りもないそのまんまの「BlackBlueブラックブルーってどう?」と。

 これにはさすがの俺も若干引いた。挙句の果てに「じゃあオッドアイは?」と言ってきた時には引くのを通り越してもう無になった。


 壊滅的では済まされないほどのネーミングセンスだ。ユリア自身は気に入ったようでリオが考えている間に勝手にBlackBlueと紙に書いて出してしまっていた。

 そのため止める間もなく受理されてしまい、もう既に俺の介入の余地は無かった。


 最悪だ…こんなパーティー名だなんて。



 唯一の救いなのは新たに人がパーティーに加わった時にパーティー名の変更が可能なことだ。過半数以上の賛成があれば新しい名前に変更出来ると。




 もう今日は何だかどっと疲れたので依頼を受けるのは辞めた。彼女は「え、依頼は…?一緒に受けないの」と聞いてきたがさすがに今日は勘弁して欲しかったのでそのまま逃げるようにギルドを出た。


 グラントの宿までの道中に前と同じ屋台で鳥焼き、他に揚げ物なども買ってから帰った。部屋に入った途端にフォンが元の狐の姿に戻り、簡素なベッドの上に飛び乗った。


「今日はお疲れ様でした。買ってきた鳥焼きなど冷めないうちに食べましょう」

「あぁ、そうだな。今日は早く寝て体力を回復しようか」


 食事と風呂を終えてベッドの上に寝転んだ。その近くで丸まったフォンの毛並みを撫でる。サラサラと肌触りが良く、こうやって撫でているだけで心が癒される。

 しばらく撫でていれば睡魔に襲われリオの瞼は自然と重くなり気づけば眠っていた。



 アース王国に来てから今日で3日目の朝、いつものように宿を出た。ここまではいい。問題なのは何故ユリアがここに居るのかだ。


 俺は彼女に泊まっている宿の名前や場所を教えた覚えは全くないのだが…


「おはようリオ。貴方って早起きなのね」

「……ああ、おはよう。そうか…?普通じゃないか」


 挨拶されたため反射的に俺も返してしまったけれど…いやいや、ちょっと待ってくれよ。


 疑問に感じたことを黙っている訳にはいかず「なぁユリア、何でお前ここにいるんだ?」とリオは尋ねた。


「えー、ひ・み・つ・よ!…って言うのはさすがに冗談で唯の勘よ」

「ユリア…すまないが本当のことを言わないつもりならパーティーは解さ…」

「待って待って。勘って言うのは嘘じゃなくて本当だから。私のギフトで『恵まれし運』っていうのがあってそれの効果でが良くなるの」


 ユリアはふざけているのか人差し指を唇にあてながら言ってきたものの、恥ずかしくなったのか直ぐに普通の話し方に戻った。

 そしてリオがパーティーは解散すると言おうとすれば、慌てて言い募ってきた。


 それによれば運が彼女の味方をしてくれるのだと。またそれによって勘も当たると。



 昨日はよく見ていなかった視界に入るユリアの姿を改まって見て気づいた。目の前の彼女は銀髪で薄緑色の瞳をしている。

 そしてよく見れば少しばかり耳が尖っているようだ。その耳には細かい装飾の施された飾りを付けていた。


 そんな俺の不躾な視線に気づいたユリアはなんの躊躇いもなく種族を伝えてきた。


「言っとくけど私、人間とエルフの両親から生まれたハーフエルフよ。だから回復系のヒールも純血種のエルフには劣るものの一応使えるから」

「そうか、それは助かる。なぁ一つ気になるんだがエルフの寿命って人間と同じなのか?」

「違うわよ。でも私はそんなに人間と変わらないかもね」


 ユリアが回復系のヒールを使えるのは有難い。残念ながらリオには使えないからである。

 寿命は人間とは違うようであるけれど彼女自身については深く言わなかった。


「…って話しててすっかり忘れてたけど、私がここで貴方を待ってたのは一緒に依頼を受けるのを誘いに来たからなの!」


 もう少し猶予が欲しかったリオは断ろうとしたのだが、ユリアに「せっかくパーティー組んだんだしさ」とギルドに行く決定を押しきられた。

 決まってからの彼女の行動は速く、ほら行くわよとばかりに俺の腕を掴んで歩き始めた。


 別に腕を掴まれずとも歩くのだが…

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