目を覚ましたら眼光鋭い女性になってたので追放エンド回避しようとしたら何か違うようです
東寒南
目を覚ましたら眼光鋭い女性になっていたので不幸エンドを回避しようとしました
「う…ん…」
目を覚まし、ふかふかのベッドからゆっくり起き上がる。
「おはようございますお嬢様」
聞いた事がない女性の声に、
「おはよう…」
そう言いながら寝起きでぼーっとした頭のまま用意してあった洗面器の水を使って顔を洗う。そのまま目の前の鏡を見ると──
「えっ? 誰これ!?」
黒髪でつり目の女性が鏡に映っていた。
寝る前の記憶をたどってみる。
確か私はOLで、目付きはどちらかというとタレ目。そして日々の仕事に追われて疲れていた。
『せーんぱい! お疲れ様です』
後輩が声をかけてきた。
この後輩とは趣味の読書を通じて仲良くなった。
『あ、お疲れ様』
『なんだかお疲れ気味のようですけど、大丈夫ですか?』
『まあ、ちょっとね。今手掛けている仕事が落ち着くまで中々有給も取れないしね』
『じゃあ、気分転換にこの本読んでみてください!』
そう言われながら一冊の本を手渡される。
『悪役令嬢もの…?』
『はいっ! 最近面白いって話題になっているんですよ!』
『ありがとう。借りるわね』
本を借りた翌々日が久しぶりの休日だったから家で読んでいたんだけど、疲れから冒頭を読んだだけですぐ眠ってしまったんだった…。
「お嬢様、本日の御予定ですが」
ロングスカートのメイド姿の女性が私に予定をつらつらと喋っていく。
「はあ…」
生返事ばかりしてしまう。
言葉は通じるし仕草も理解出来ている。ドレスもメイド(らしき人)が手伝ってくれたので着る事が出来た。
だけど…人の名前が横文字だらけで覚えきれない。
(えっと、伯爵家の方の名前が…公爵家のご令嬢は幼馴染みで…)
写真という物は無いらしく、後は会ってみるしかないみたい。
「では、男爵家のお茶会にお招ばれしてますので参りましょう。皆様お待ちかねです。あの…お嬢様大丈夫でございますか?」
少し心配そうに私を見てくるメイド。
「ええ、大丈夫でしてよ」
自然とお嬢様言葉が出てくる。悪役令嬢だけど元々上品なお嬢様なのかもしれない、と私は思った。
馬車に揺られて大きなお屋敷に着いたのだけど、揺られたショックでお尻が痛い。これは帰りはクッションが必要かもしれないわね。何か
屋敷の中では色とりどりに着飾った年頃の女性達が楽しそうにお喋りしていた。
「ごきげんよう」
私が挨拶しながら中に入ると、皆一斉にこちらを向く。
(あ、こりゃ陰口言っていて本人が入ってきたから止めたパターンかも)
そう思ったけど表情は冷静を装った。でも目付きが悪いから無表情だと不機嫌に思われているかもなあ。
そのうち一人の金髪の女性がこちらによって来た。
「あら、ごきげんようローザさん。相変わらず獲物を狙うような目をしてるわねえ」
…何だこの人!? いきなり容姿について悪口言ってきたんだけど!?
「ごきげんよう…」
さすがにムッときて塩対応してしまった。
その後すぐ、
(あっ、ダメだ! これでは処刑エンドになっちゃうかもしれない!)
と、思い直して、
「ごめんなさい、えっと…」
「フレデリカ様ですよお嬢様」
側にいたメイドがコソッと教えてくれた。この人有能だわ!
「…フレデリカさん。ちょっと馬車に酔ってしまって気分がすぐれなくて…」
言い訳をしつつ弁明する。すると、
「『様』を付けてっていつもおっしゃってませんこと? 貴女と違って
と、嫌みったらしく言われてしまった。
腹を立ててしまってはいけないと思い、挨拶もそこそこにフレデリカさんから離れたんだけど、
「キャッ!」
途中で他の人とぶつかってしまった。
「大丈夫?」
とっさに手を出して支える。
「はい、大丈夫です」
栗色の髪のその人は立ち上がるとそそくさと離れていってしまった。他の人達は何かヒソヒソ話をしている。
(これは…やっちゃったかな!?)
背中に冷や汗がダラダラ流れるのを感じる。
その時、扉がバーン! と勢いよく開き、立派な身なりの男性が数人入ってきた。
「皆の者、皇太子殿下からの
御付きの人達がそう言うと、一番良い身なりの男性が周りを見渡してこう告げた。
「皆の者、今日は余のために集まってもらい感謝する。ここで重大な発表をさせてもらう」
そうおっしゃった後、
「余は婚約を破棄し、別な者を妻に娶りたい!」
一瞬でザワザワとした雰囲気に包まれる会場内。
(私、何かした!? 婚約破棄で追放エンド!?)
私は固まってしまったけど、もう一人固まってしまった人が。
「ど、どういう事ですの?! 皇太子殿下!?」
固まった後殿下に詰め寄ったのはフレデリカさん。
(?????)
頭の中でハテナマークがあふれる。
「今言った通りだ。フレデリカ、別れよう」
「な、何でですの!?」
キーキー言っているフレデリカさんを無視して皇太子殿下が言葉を続ける。
「改めて、君を妻に
そう言いながら皇太子殿下はさっきの栗色の髪の女性に求婚を申し込んだ。
…って事は私はただのモブキャラ!?
その他大勢のひとり!?
ただ目付きが鋭いから皆遠ざかっているだけで悪役令嬢じゃないって事!?
フレデリカさんが真の悪役令嬢!?
私が助けたのが本当のヒロイン!?
(なんか…思ってたのと違う…)
あまりの情報過多にフラフラしてくる。
その間に求婚を申し込まれたヒロインはプロポーズを受けたらしく、皆から祝福の言葉を頂いている。
「おめでとうございます」
私も言葉を述べると、
「ありがとうございますローザさん! いつも陰ながら私をフレデリカ様からお守りいただきまして感謝の言葉だけでは足りないくらいですわ」
あー、私って良キャラの立ち位置なのか。
さながら護衛みたいな感じ?
「ローザさん、目付きは…なんですけど性格は優しいんですわよねえ(ボソッ)」
「私も何度フレデリカ様の嫌がらせから守っていただいた事か(ボソッ)」
いや聞こえているんだけど!
でも嫌われて遠巻きにされている訳では無くて良かった。
そんな祝福ムードの中、
「何で私がこんな目に会わなくてはならないんですの!? それもこれも貴女のせいで!」
そう言いながらフレデリカさんがどこから用意したのかナイフを手に持ってヒロインに向かってきた。
「危ないっ!」
とっさにヒロインをかばうように体が動く。
お腹の辺りに痛みと熱が伝わり、私は床に倒れる。
「ローザさん! ローザさん! 気をしっかり!」
「わ、私そんなつもりじゃ…」
刺したフレデリカさんは護衛の男性に連れていかれ、私は痛みと出血で意識がもうろうとしてくる。
「ローザさん…私をかばって…」
ヒロインは涙をボロボロ流しながら私に膝枕をする。涙が私の顔にも落ちてくる。
「そん…なに泣かない…で…幸せに…なっ…て…」
そこで私は意識が無くなった。
「はっ!」
意識を取り戻し、起きるといつものベッドの上だった。周りも、見慣れた家具やクローゼット、ワンルームなのでキッチンも見える。
「…夢? 夢オチ!?」
頭をかきながら手に持っている本を見る。
「今日は休みだし…とりあえず全部読もう」
読みやすい本だったため、早く読み終わって休み明けに会社で後輩に本を返した。
「先輩どうでしたか?」
実は、本に書かれていたのはほぼ私が体験した事だった。そしてあの悪役令嬢はその後刺した事が原因で処刑エンド、刺された女性(私)は一命を取り留めて修道院でシスターに。ヒロインはお妃様エンドとなったのだ。
「んー、面白かったわよ」
「そうですか! じゃあ」
そう言いながら後輩は紙袋を私に差し出し、
「これ、このシリーズの本です! 今10巻まで出ているので良かったら読んでください」
私はお礼を言いながら、
(今度は読んでいてこの作品の世界に転生しませんように)
と強く願ったのだった。
─ 完 ─
目を覚ましたら眼光鋭い女性になってたので追放エンド回避しようとしたら何か違うようです 東寒南 @dakuryutou
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