街の中

 

「疲れた・・・」

 なんとかここまで来た。疲れがピークに達している。足が棒のようだ。

 目の前には街の入り口となる大きな門と防壁があった。

 街の入口は遠くから見た限り、防壁となる壁こそ高いものの、近付いてみると小さな関所のようなものがあるだけで、特に守りが厳重というわけではなさそうだった。

 関所の中には数人の人がいた。

「お!」

 と中にいた人がこちらに気付いた。

「やあ! もしかして街の外から来た人? この街に入りたいのかい?」

 関所の中にいる人の内の一人が話しかけてくると、それぞれ暇そうにしていた他の人たちもこちらを見た。

「え・・・、入れんの?」

 もちろん街に入りたいとは思っていたが向こうから街に入ることを勧めるくらいの勢いでこられるとは思っていなかったのでたじろいでしまった。

「もちろんだよ!」

「・・・・・・・・・・・・ああ・・・じゃあ・・・」

 街に入る際に何か必要なものでもあるのではないかとも思ったが、関所のこの人の様子だと何も必要なさそうだった。

 早々に関所の人が、関所の中で何かを操作すると、城壁が音を立てて開きだした。





「・・・・・・なんか・・・すげえ賑わってるな」

 街の中に入るとたくさんの人がいた。

 街は活気に満ち溢れており、ところどころに店が立ち並んでいた。

 通りに接するようにして露天も出され物の売り買いがされていた。

「安いよ! 買ってってねー!」

「今日とれたばかりだよー」

 などといった声があちこちから聞こえてくる。

 そのまま店の建ち並ぶ通りを歩いていると、

 ぐー、と腹が鳴った。足を止める。


 足を止めたそこにはなにやら中からおいしそうないい匂いのする店があった。


「そういえば・・・」

 森で目が覚めて、この街を見つけ、そしてこの街に入るまでの間、自分がなにも食べていなかったことにここで気付いた。

「・・・入ってみるか」

 店の中に入ると食べ物屋らしい良い匂いがした。カウンターからキッチンが見える開けたつくりになっていて、客側からでも料理を作っている様子がわかった。今、ボウッ! と食材の入ったフライパンのようなもののなかから火が上がった。店内は広く、多くのテーブルが並んでいて、それぞれの席で客が話をして盛り上がっていた。店の中を見渡すとカウンターになった場所の近くにおそらく料理のメニュー表と思われる文字が書かれた板があった。近づいて確認してみると、『○○焼き』や『××蒸し』などかなり豊富にメニューが書かれてあった。


 ふと、そのメニュー名の右に書かれてある文字を見ると、さらに数字と文字が書いてあった。おそらく値段の単位なのだろう。

「・・・なんだ?」

 よく見てみると、それは見たことのない単位だった。

「(いや、ちょっと待て・・・)」

 ここであることに気付いた。

「(値段の単位どうこうじゃなくてそもそもお金もってねえじゃん!)」

 目覚めて服が変わっていると気づいたときにも探したが、自分は金品など金目のものを一つも持っていなかった。

 完全な一文無しだ。

 完全な一文無しだとわかると一気にここにいてもどうしようもないという感覚に襲われた。

今も店の中は料理の良い香りが漂っている。

「(ああ・・・)」


「腹減ったー」


「!」

 その声は後ろから聞こえた。

 振り返るとテーブルに両手を突き出して突っ伏している少女がいた。


「お金・・・」

手を突っ伏した状態はそのままで少女が呟いた。

「・・・・・・」

「お金・・・」

「・・・・・・」


 ・・・・・なんか・・・


「・・・・・・・・・・・・」

「(ヤバい気がする・・・)」

 絡まれそうな気配を感じてもう一度メニュー表の方に視線を向けようとした――――

 そのとき


「そうだ!」

 と声がすると、少女が、ばっ! と顔を上げた。

 そして周りを見渡し始め

「・・・・・!」

「(あ・・・)」

 すぐに見つかった。

「ねえ君! 良かったら手貸してくんない!?」



 その十数秒後、勢いよくテーブルから立ち上がったその少女が目の前に来ていた。

 

「ねえねえ君! もしかしてお金ない? ・・・というかこの店に来たの初めて? てことは冒険者とか? よかったらアタシと一緒に依頼こなしてくんない?」

 すごい勢いで話しかけてきた。

「依頼?」

「そう。依頼。外にあったけど、見てないの?」

 少女に言われて、


 外に出てみた。


「・・・」

 たしかに、店の外には掲示板のようにして紙が張られている大きめの木の板があった。

 ここで、先ほど少女が言っていた言葉が気になり

「それで・・・・・・『依頼』って?」

 訊いてみた。

「・・・・・・・・・え? 本当に何も知らないの?」

「え・・・、まあ・・・、・・・うん」

「・・・・・・・・・・・・・・・・はあ・・・」

 少女は言っていることがよくわからないといった感じで目を丸くした。

「・・・まあいいや! とにかく! ここにある紙とかをギルドに持って行って依頼を受けることを伝えてこなせばお金もらえるから!」

 そう言うと、少女がポケットから折りたたまれた紙を勢いよく取り出した。

「これ! とりあえず”これ”で今から一儲け、ってこと!」

 少女が紙を広げて見せてきた。

 見てみると内容は掲示板に張られているものと似たようなもので(ざっくりとしか見てはいないが)おそらく少女の言うその「依頼」というものの内容が書かれているらしかった。

「はい! いこいこー!!」

「ちょ、ちょちょ! おい待てって!」

 ぐいっ! と腕を突然引っ張られ、おそらく少女の言っていた「ギルド」というところに連れて行かれそうになったところをすんでのところで制止した。

「何? ・・・・大丈夫だよ! もう依頼は受けてあるし、君にはそれを手伝ってもらうだけだから!」

 ぐいっ! と先ほどと同じ力でまた引っ張られた。

「だからちょっと待ってって!」

 再び連れて行かれそうになるのを止めて、少女に会ったときからずっと気になっていたことを聞いてみた。

「て、ていうか・・・・・、なんで俺がお金ないって分かったの?」

「え? ・・・・・・あー・・・、いや、なんか自分と同じお金ない人なら、メニューの注文で値段の低いメニューを選ぶか、人よりかはメニュー選ぶのに悩んでる人かなーって」

「・・・」

「そしたらメニュー表の前に人が居たからとにかく声を掛けてみたってだけなんだけどね」

「・・・」

「あ、ちなみに、あのメニュー表って店内のテーブルにも置いてあるから、メニュー表の前に立っている人って、この店に初めて来た人か、あんまりこの街を回ってない冒険者とかかなーって」

「・・・・・・・・・・なるほど」

 ぐいっ!!

「わ! ちょ! だ、大丈夫なのか?! 俺まだなにも知らないんだけど!! その、俺、その、なに?! 冒険者? ってやつではないと思うんだが!?」

 ズルズル・・・と地面から砂埃を上げながらも少しずつ引っ張られる。

「大丈夫! 大丈夫! まあ、わからないことがあったらまた途中で説明するから! とにかくいこー!」

「・・・・・・」

 このまま連れて行かれて大丈夫か、とかも考えたが、まだここがどこなのかもわかっていない状態で、友好的・・・・・・かどうかは分からんが・・・、話ができそうな人に会えたのは幸運だ・・・・・・ということにしておいた。

 

 とにかくこの人のおかげでお金の稼ぎ方は判ったわけだし・・・・・。言うとおりにして今はついて行くことにしよう・・・・・・。




 

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