依頼 ―― 街の外 ――


 街の外、荒野を行く二人の人の姿があった。

 一人は厚い布製の服を着ていて、鉄があしらわれたようなズボンを履いている、片手に麻製の袋を持っている少年だった。もう一人は頭に猫耳の生えたような髪型をした少女だった。装備は少年がしているものよりも頑丈そうな、鉄製の身体前面上部を覆うような胴当てをしていた。少女の方も少年と同じく、手に麻製の袋を持っていた。

「~♪」

「楽しそうだな・・・、ミーア」

 ミーアと呼ばれた少女が手に持った袋を腕を回して振り回しながら楽しそうに鼻歌を歌っていた。


「あの・・・・・」

「お!? 何!?」

「そろそろ質問してもいいか? 聞きたいことが山ほどあるんだが・・・・・・。

まあさっき名前は聞いたとして、それ以外のことを聞きたいんだけど・・・。・・・っていうか説明も無くとりあえず言われるがまま薬草を集めたけどさ・・・・・。」

「なになに!? 聞いて聞いて!」

 袋をぶん回しながら先頭を行っていたミーアが顔を振り向かせて言った。


 あれ? とここでミーアが疑問符を浮かべた。

「集めてるときに聞けばよかったのに」

「いや、次々と指示が飛んでくるもんだからさ・・・、質問してる暇なんて無かったって・・・・・」

「ああ、そうだったの? ごめんごめん! それで!? 何!? 何が聞きたいの!?」

「いや・・・・・・・たいしたことじゃないよ。基本的なこと。ここにくる途中「ギルド」って何回か言ってたけど、その・・・・・・まずはさっきから言ってるその「ギルド」っていうのは何なんだ?」

「ああー・・・、まずはギルドについての説明ね。ギルドっていうのは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだか改めて聞かれるとアタシもギルドを完全に知っているわけではないから知ってることだけになるんだけど・・・」

 ミーアが苦笑いを浮かべて

「えーっと・・・、ギルドは街の外から来て街の中で活動をしていこうとする人たちに向けての、その活動を支援するためにある場所って感じかな。街の外から来た人たちに職を与えたりとか、・・・・あ! あと、能力の判別もやってるよ!」

「何それ?」

「能力の判別って言うのは、例えば、自分がどんな系統の魔法が使えるか、とか、どんな魔法が得意かとかを調べることだよ。炎系の魔法が得意な人もいれば、水系の魔法、土系の魔法、風系の魔法が得意な人とかがいたりして、他にも、ものを浮かせたり、身体能力を向上させたりとか、多種多様、いろんな種類の魔法があるから、自分がどんな魔法が使えるかを知るために、ギルドに行って調べるって感じかな」

「へー」

「だからまずは帰ったらギルドに行って登録と、能力判別をしてもらうのがいいかもね」

「わかった。そうするよ」

「よしまずは一つ目の質問終わりね。他には?」

「さっき話してた時に、ギルドに登録したら特典みたいなのがあるって言ってたけど、何があるんだ?」

「特典っていうのは、登録するとギルドから受けられるサービス、っていうのかな。多すぎて全部は分からないけど、集団で受けられる高額報酬の依頼の参加の報せが自動的に来たり、登録した時点で装備がもらえて優先的にパーティーに参加できたりとかするよ」

「へー」

「はい! 他には?」

「あ、ああ・・・、・・・・・・あと、このクエストってどれくらい報酬がもらえるんだ?」

「報酬? それはもうたくさんだよ! これで当分は食べるものにも困らないと思う」

「ふーん・・・。あとは・・・、そうだ。ほかにも食料とか・・・・・・・・・生活するのに必要なものって、一つの依頼だけでそんなにたくさん買えるのか?」

「うーん・・・・・・、それはやっぱり依頼によるかなー」

「・・・・・・・・この薬草、そんなに集めた感じしないけど、それでも集める量がこれだけでいいってことは、もしかしてこの薬草って実は珍しいものなのか?」

「そうだと思う。別に薬草について詳しいわけじゃないけど、あのボードには何回か依頼出てたし、消えては時間をおいてまた張り出されてたりとかしてたから、この難易度にしてはいい報酬金がもらえるっていう、まあ、効率のいい依頼ってやつ? だと思って目をつけてたんだよねー。報酬金に比べて集めるのはこの量でいいっていうのは、やっぱり他の薬草とかよりは貴重なものなんだと思うよ」

「ふーん。あ、それと、そういうクエストの情報ってギルドとかから聞いたりするものなのか? それとも冒険者たちの間でクエストの情報やりとりがされてるとかなのか?」

「いろいろだね。あのクエスト依頼の紙に書かれてある情報以外のものは、やっぱり冒険者たち間に出回っているものを元にした方が役に立つ情報が手に入ることの方が多いね。さあ、他に質問は?」

「ええと、『冒険者』って俺みたいに街の外からやって来た人たちのことをそう呼んでるのか?」

「いや、クエストをこなしている人たちのことを『冒険者』って言ってる。あ・・・・・・、あと・・・・『冒険者』って私が勝手にそう呼んでるだけだから、街の中で『冒険者』って言っても通じない・・・・・と思う・・・」

「・・・・・。か、勝手に呼んでるだけだったのか・・・・。そりゃ通じないよな。・・・・ん? じゃあなんて呼ばれてるんだ?」

「・・・さあ・・・、特に呼ばれてる名称みたいなのはないんじゃない?」

「な・・・なんだ・・・、そうなのか」

「っていうか、ギルドってさ、街に入ってすぐのところになかったっけ? 街の外から来た人も気付きやすいように。もしかして通り過ぎた?」

「ああ・・・・・・、うん・・・。たぶんそうだと思う。街に着くまでにもだいぶ距離あったし、着いた時にはもうクタクタで腹も空いてたしな・・・。」

「それでギルドに気付かないまま通り過ぎて、お店に入った、と」

「どうやらそうみたいだな。通りを歩いてたら、いいにおいのする店があったから、そのままそのいいにおいにつられて店に入ったんだ。まあ、お金持ってなかったんだけどね。―――あ、そういえばさ・・・」

「お? 次の質問?」

「ミーアは店の中にいたのに、なんでお金を持ってなかったんだ? 俺と違ってお金の稼ぎ方なんていくらでも知ってそうだと思うんだが」

 ギクッ、と質問を聞いた瞬間ミーアが身体を震わせた。

「え、えーと、それはですね・・・・・」

「・・・・・?」

「ほら、おなかが空いたらご飯を食べるじゃん?」

「ああ、そうだな」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・えーと・・・・・・まあ、そういうことです」

「・・・・・・食べ過ぎでお金が無くなった?」

「・・・!」

 ミーアの顔が一気に赤くなった。

 (・・・・・・ど、どれだけ食べたんだ・・・?)

 と、とにかく―――、とミーアが続けて、

「これでもう依頼は大丈夫だから、街に戻ったらギルドに登録を済ませなきゃね」

「ああ! そうか! それもあったんだ・・・・・・・。なんかやることばっかで大変だな・・・・・」

「大丈夫大丈夫! 確か登録簡単だったはずだし、そんな大変じゃないって! ・・・たぶん!」

「たぶんって・・・・そんな曖昧な・・・・・・」

「大丈夫だって~! ギルドまで行って一緒に登録手伝うからさー!」

「はあ・・・・・・まあいいけど・・・」

 ギルドの登録に一抹の不安を抱えながらも少年が話題を終わらせた。

「さあさあ他に質問は? 今のうちに何でも聞いておくよ?」

「う~ん・・・・・・、今は他にはないかな」

「あ、じゃあ、私からも質問していい?」

「あ、うん」

「冒険者の人ってどこから街に来てるの? 街にいるとよく冒険者が入ってきてるのを見るからさ」

「どこからかは分からないけど、俺はすごく大きな森の中で目が覚めたよ。」

「森の中?」

「そう。そこから草原に出て、遠くにあの街が見えたから来たって感じかな」

「へー。他の冒険者もそう?」

「他の冒険者がどうかは分からないけど、街に帰ったら他の人にも聞いてみればわかるんじゃないか? 俺も他の冒険者がどんな感じなのか見てみたいし」

「なるほど」

「他には何かある? っていっても分かることの方が少ないと思うけど・・・」

「今は・・・、うーん・・・。他にはないかな」

 とミーアが答えた。

 少年は持っているクエスト用の袋を持ち上げ、

「これを渡してクエストをクリアして、そこから俺はどうしたらいいんだ? ギルドに登録した後」

「まずは初期のクエストをクリアしていって、出来るクエストを増やしていくところからかな。難度の高いクエストはある程度はレベルの高いクエストをこなせてないと受けられないからね」

「やっぱり・・・・・なんだかやることが多そうだな」

「まあでも、そういう初期のクエストをクリアしていくなかで、冒険者の方もギルドの勝手とかが分かってくるんじゃないかな?」

「そういうもんなのか? やっぱおとなしく初期の方から地道に――――」



 

 









ピュン



 と音がして



 少年の頭が吹き飛んだ。





 

「え———————————————」



 反射的に向くと

 頭を吹き飛ばしたそれの速度が速かったのか、少年の体は顎の部分から下を残してその場に留まったままになっていた。



 

 時が止まる。




 

 少年の頭がない。



 

 今さっきまで一緒に話していた人の



 

 頭が。




 

 静寂が訪れようとしていた。

 

 瞬間


 ミーアには、次は”自分がこうなる”という直感があった。


「・・・・・・・・・・ッ!」

 

 

(撃たれてる・・・・・!!)

 

 

 同時に、ミーアの体が今来た方向とは逆方向に向かって全速力で走り出した。


 走りながら可能な限り後方に目をやるが、


「・・・・・・ハァッ! ・・・・・ハァッ! ・・・・・・・ッ!」


ただただ、だだっ広い景色が広がっているだけだった。

「・・・・・・・・・・・どこから・・・・・っ・・・・・・どこ・・・・・・・っ!」

 走りながら呼吸をしようにも、恐怖で呼吸がうまく出来なかった。

「・・・・・・・・・・はッ!!・・・・・・・はッ!!!」

 

 死に物狂いで走る。


 (どこか・・・・・っ!! 隠れられる場所・・・・・・・・ッ!!!)


 ――――と

 

 前方、来るときは一切気にしていなかった、地面から突き出して小さな丘のようになっている巨大な岩石があった。

 

 ミーアは、助かった、と思ったが、すぐに安心の一端が見えただけで気を緩めてはならないとすぐに気を張りなおした。


「ッッッッ!!!」

 岩の陰に身を投げる。

「・・・・・はあッ!!! はあッ! はあッ! はあッ!」


 ひとまず一命を取り留めたという安心感と凄まじい緊張の中でなんとか呼吸をしていた。

 

「(・・・・・・・・・・・・・どこだ・・・・・ッ・・・・・・・どこから・・・・ッ)」

 

 撃たれた方角を見た。視界には岩だけしか見えないが想像する。何が起こったか。              かなり遠くから撃たれた。少年の頭から飛び散った血の飛び散り方から大体の撃たれた方向がわかったがそれ以外は何もわからない。

 立ち上がり、岩から少し距離を取った。顔だけ横を向き、岩を背にするようにして身構えた。


 今何が出来るかを考えた。

「(ここから出たら”撃たれて”死ぬ・・・・。アタシは特殊な魔法や強力な魔法は使えない・・・。使えるのは基本的な魔法だけだ・・・。炎、水、雷、あとは風の基本的な魔法。)」

 と、ここまで考え

「(・・・そうだ)」

 ある打開策を思い付いた。

 方向だけ分かっているなら逃げられる。

「(一度辺り一帯に水の魔法を使う。その後、炎で一気に水を蒸発させて水蒸気を作ってその中を逃げるんだ。熱いし・・・敵の攻撃が当たる確率が低くなるだけだけどこれしかない)」

 心もとなくはあるが、現状を打開する目処を立てただけでも少しは助かろうとする活力が湧き上がってきた。

「フ・・・ッ!」

 手の平を上を向くようにしてかざし、水の魔法を使用する。

 空中に大きな水の玉がいくつも発生した。

 「(まずは広い範囲に・・・! ッ!)」

 手をなぐようにして、発生した水の玉を横に広い範囲に散らばらせた。

「ふう・・・・ッ!」

 緊張で震える。

「(次は炎・・・!)」

 手を少し前にかざす。






 

 




 ピュン




 


 と音がして




  

 ミーアの頭が吹き飛んだ。











 
























「・・・・・・・」

 荒野の中、少し高くなっている丘の上に、全身黒いコートに身を包んだ青年が二人いた。二人ともフードを被っていて顔が見えなかった。

 一人は地べたにうつ伏せに

 一人は立ったまま、片手で顔の前に陰を作って、もう一人の青年と同じ方向を見ていた。

 うつ伏せになっている方は両手に、自分の身長ほどある大口径のスナイパーライフルを抱え込むようにして持っていた。

「・・・・・・・」

 カチッ

 と、寝そべっていた一人がライフルの安全装置をオンにして雑に立ち上がった。

「当たったか」

「・・・・・・・」

 スナイパーライフルを持った青年が無言で銃を分解する。

 分解し終えると、部品をひとまとまりにしたものを背中に背負い、銃を撃った方向に向かって丘を前に進み飛び降りた。


















 黒いコートの二人が大きな岩の裏にある頭の無い死体の前にいた。

「ッたく・・・」

 背の高い方の青年が死体を見て顔をしかめさせた。

 そしてもう一人の方の背中を見て、

「頭・・・・・・あった方がいいんじゃないのか・・・・」

 と尋ねたが、

「・・・・・」

 聞かれた方は何も答えなかった。

 尋ねられた方の青年の背中には、”人”が頑丈な素材でできた”袋”に入れられた状態で背負われていた。

 背の高い方の男が、目の前にある死体を腕から持って、背負うようにし、背中にある人を運ぶために作られたような”袋”へ、その身体を入れると袋を閉じて、袋から伸びた固定具を使ってしっかりと自分の身体に固定した。

 それを確認すると、もう一人の青年がすぐにどこかに向かって歩き出した。








 









 大きな建物の中に、背中に人型の荷物を背負った二人の青年がいた。中は広く、壁や床はコンクリートがむき出しの作りで、建物内にある窓ガラスはほとんどが割れていた。フロアのいたるところにあるコンクリート製の柱がその天井を支えていた。

「・・・」

「・・・・・・」


 建物内、フロアの中心に、高さは人の腹部くらいまででこれもコンクリート製の、面の広い大きな台があった。

 二人は台に近付くと、背中に背負った死体を台の上に置いた。

「・・・」

「・・・・・・・これでいいんだよな?」

 少し明るく振る舞うように一人がもう一人の青年に問うと

「・・・・・・」

 訊かれた方は何も言わずに建物の入り口へと向かった。それを見た、質問をした方の青年は

「・・・・・・・」

 何を言うわけでもなくただ黙って

 すぐ後、少し走るようにして入り口に向かう青年を追いかけた。






 

 二人の青年が建物の外に出た。空は雲に覆われていて、所々にある雲の切れ間から光が漏れていた。そこから差す日光が、今の時刻が昼ぐらいだということを知らせていた。

「・・・・・」

 しばらく無言だった方の青年は建物から出ると同時空を見て、視線を落とし、建物の向かって右の方に歩き出した。

「じゃあな、イア」

 背の高い方の青年が歩き出した青年に向かって話しかけた。

「・・・」

 返事は無かった。

 無音の中、自分も帰ろうと、別れを告げた方の一人が、イアと呼ばれた青年の歩き出した方向とは逆、建物の向かって左に歩き出した。

 そして少し歩いた後、

「・・・・ああ、じゃあな、ルド」

 と遅れて返事が返ってきた。

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