第20話 魔法学園入学式

 前世で私が生きていた、日本のような桜はこの世界には無いけれど、美しい草花が咲き乱れる春に、私は魔法学園に入学した。

結局、入学準備でバタバタしてしまい、入学式まで本当にルイス様に会う事は無かった。

この数日間、ルイス様がどんなお声でもドンと来い!という覚悟は出来た。

いよいよ、10年振りにルイス様と窓越しでな無く会える!

そんな事を考えて居ると、前にレイモンド兄様と歩いているルイス様を発見した。

私は覚悟を決めて

「レイモンド兄様、ルイス様、おはようございます」

と、笑顔を浮かべて挨拶した。

するとレイモンド兄様とルイス様が振り向き

「フレイア、おはよう」

レイモンド兄様の笑顔と共に、優しい兄様の癒し系VOICEが聞こえた。

そして遂に、遂にルイス様の口が開いてお声が!!!

緊張が走ったその瞬間、『ポポポポ、ポポポポ』と音が鳴り、ルイス様の胸元に枠が現れて『フレイア、おはよう』と記されているでは無いですか!

「い~やぁ~!!」

 自分の叫び声に目が覚めた。

「不吉……不吉だわ!」

ゆっくりと身体を起こし、ベッドから降りる。

まだ薄暗い窓に近付き、溜息を吐く。

魔法学園の学生寮に入り、真新しい制服が掛けられているのを見てもう一度、溜息を吐く。

(レイモンド兄様が何かを隠しているから、こんな不吉な夢を見るのだわ!)

心の中で八つ当たりをしながら、もう一度深呼吸した。

「大丈夫。きっとルイス様は、素敵なお声をなさっているわ……」

胸の前で祈るように手を握り締め、窓の外で白く輝く月を見上げた。


「……様、フレイアお嬢様」

実家から着いて来たメイドのサラの声が聞こえて来て、ゆっくりと目を開けた。

サラがカーテンを開き

「天気が良いですよ」

明るい日差しに目を細め、ゆっくりとベッドから降りた。

(あの夢のせいで、まだ私の胸に不安が広がっている)

胸に手を当てていると

「フレイアお嬢様、具合が悪いのですか?」

心配そうに顔を歪めるサラに、小さく微笑み首を横に振る。

「大丈夫よ、サラ。魔法学園に入学するから、少し緊張しているみたい」

そう答えた私に、サラは髪の毛をとかしながら

「そうですよね。いよいよ、憧れのルイス様に再会出来るのですものね!今日は、私がフレイア様をいつも以上に可愛らしく致しますね」

と微笑み、制服のリボンとお揃いの色のリボンを髪の毛に結んでくれた。

バルフレア家で唯一、私がルイス様にきゃ~きゃ~言っていても怒らない、私にとって数少ない味方だ。

制服に着替え、軽い朝食を済ませていざ!出陣!!と、意気込んで寮から出ると、レイモンド兄様が待っていた。

「レイモンド兄様!」

驚いて挨拶も忘れて叫ぶと、白い魔法学園の制服が、美しいレイモンド兄様の顔立ちに生えてカッコイイ!

思わず息をするのも忘れて見蕩れていると

「フレイア、おはよう」

と、癒し系VOICEにフワリと優しい笑顔を向けられて、鼻血が出そうになった。

「レイモンド兄様、おはようございます。どうなさったのですか?」

なんとか顔に出さずに微笑むと

「フレイアの入学初日に、一緒に登校する栄誉を頂けませんか?」

そう言って、レイモンド兄様が私に手を差し出した。

(きゃ~!これって、ゲームとか漫画で王子様がお姫様にやるヤツ!!)

心の中で大興奮しながら、レイモンド兄様の手に自分の手を乗せて

「喜んでお願い致しますわ。レイモンド・バルフレア様」

と答えた。

そして私とレイモンド兄様は顔を見合わせると、プッと吹き出して

「そうしていると、普通の淑女に見えるよ」

「あら、私は優秀な淑女ですわ!」

などと会話をしながら歩き出した。

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