第18話 兄なのに……ときめいてしまいました!

「フレイア!お前……気持ちが良いくらいに。何にも変わっていないな!」

ギリギリと掴まれ

「痛い!痛い!お兄様、痛いですわ!」

半泣きしている私の頭から手を離すと

「そんなくだらない事を考える暇があるなら、刺繍入りのハンカチ一つでもアティカス様にプレゼントしたらどうだ!」

深い溜め息混じりに呟かれてしまう。

「あ!刺繍入りのハンカチと言えば!」

私は手を叩き、引き出しから家紋の鷲と剣の刺繍入りハンカチを取り出した。

「あまり上手には出来なかったのですが、レイモンド兄様に私の刺繍入りハンカチを一番にプレゼントしたかったの」

「これを僕に?」

驚いた顔をしたレイモンド兄様にハンカチを差し出すと、レイモンド兄様は感無量の顔をして受け取り

「あのフレイアが……、ルイスのため以外に手作りをプレゼントするなんて……」

と呟いた。

「あら!レイモンド兄様は、たった一人の兄妹ですもの。当たり前では無いですか」

そう答えた私に、レイモンド兄様がフワリと優しい笑顔を浮かべ、私の髪の毛を一束掴むとキスをして

「ありがとう、大切に使うよ」

と囁いたのだ。

これよ!この声!!

魔性のイケメンVOICE!

全国の平石さんファンの皆様、お聞きになりまして~!

少しブレス多めの甘い囁き。

普段は、マイナスイオンが発生しているような癒しVOICEのクセして、少し大人向きの作品の時にだけ聞ける色気VOICE!

妹でこれですもの。

好きな人の時は、さぞかし甘々なのでしょう!!それは絶対に、聞き逃せない!

「レイモンド兄様!やはり、女性を口説く時は壁に…………痛い!痛い!」

興奮して叫んだ私の頭を、再び鷲掴みして来た。

「フレイア。そんなに僕の囁きが聞きたいなら、いくらでも囁いてあげるよ」

ニッコリと悪魔の笑みを浮かべて、私の耳元に唇を寄せると

「フー。良い子だから、学園では大人しくしているんだよ」

幼い頃、家族だけが呼んでいた愛称を、甘い声で囁かれて腰が抜けた。

へにゃりと座り込む私を見て、レイモンド兄様はプッと吹き出すと

「この程度でそんな風になるなんて、フレイアはまだまだ子供だな~」

そう言いながら、レイモンド兄様が私を抱き上げた。

「兄様!自分で立てますわ!」

真っ赤になって叫ぶ私に、レイモンド兄様は楽しそうに笑いながら

「フレイアを抱っこするなんて、幼少期以来だからね。もう少し、大きくなった妹を抱っこさせてくれると嬉しいな」

そう言いながら、軽やかに階段を降りて行く。

怖くてしがみついた身体は、いつの間にかガッシリとした鍛え上げられた男性の身体になっていて、知らない人みたいだった。

私がレイモンド兄様にギュッと抱き着き

「兄様、一人で大人にならないで下さいね」

そう呟くと、レイモンド兄様は私を馬車に乗せると

「フレイアは、早く大人になるんだな!」

そう言って私の鼻を摘んで笑っている。

さすが、乙女ゲームの攻略対象の一人であるレイモンド兄様。

美しいサラサラの長い金髪が、後ろで1つに束ねていても、サラサラと落ちて金色に輝いている。

切れ長の目も、通った鼻筋も、薄い唇も全てが美しい。

思わず、実の兄なのにときめいてしまった事は、私の胸のうちに秘めておく事にした。

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