第17話 何故?婚約破棄してくれないの?

するとアティカス王子は私の手を取り

「フレイア、親友のきみにしか頼めないんだ。きみ以上に好きな人が現われるまで、僕の婚約者で居てはくれないか?」

縋るような瞳で言われ、さすがの私も「嫌!今すぐに婚約破棄して!」なんて言える雰囲気では無いのを察した。

「では、アティカス様。私とも約束してはくださいませんか?本気で結婚したいと思った方に出会ったら、私に1番に教えて下さい。そして、円満婚約破棄を致しましょう」

そう答えると、アティカス王子はニッコリ微笑んで

「フレイア以上に好きな人と出会うなんて有り得ないけど……、約束するよ」

と答えて、私の手にキスを落とした。

まだ10歳なのに、既に所作がイケメンってどういうこと!

危うくキュン死にしそうになった心臓を押さえ、バクバクと高鳴り火照る頬を手で扇いだ。

まだショタ状態の可愛い彼等には、私の男嫌いシールドが発動しない。

前世から男性に免疫の無い私には、物語やゲームの中だけの行動をされるとドギマギしちゃうのよね。

でも、誤解しないで!

私の心を占めているのは、ルイス様ただお1人だけ!

早く……大人になったルイス様のお声を、機械音では無いイケメンボイスをお聞きしたいです。

そんな事を考えていると、アティカス王子が

「ねぇ、フレイア。明日から、妃教育を終えた後の1時間を僕にくれないか?」

と言って来た。

「?えぇ、構いませんけれど……」

そう答えると、アティカス王子は嬉しそうに破顔すると

「約束だよ、フレイア」

と言って指切りをして来た。

(あぁ……、指切りを覚えていて下さったのですね)

バルフレア家で過ごした半年間、アレクとフレイアは約束をする時に指切りをしていた。もちろん、この世界には指切りなんて無い。私がアレクに教えた、二人だけの約束をする時の儀式?みたいなもの。

アティカス王子は指切りすると、キラキラと輝く程に眩しい笑顔を浮かべ

「これから週に3回、フレイアに会えるなら頑張れるよ」

そう言って指切りをした指を離した。

 この時の私は、まだ知らなかったのだ。

この後、アティカス王子の母君であられる正妃マリア様に会う事になるなんて……。


 アティカス王子は月日を追うごとに、妃教育を受けた後の時間に国王様と正妃マリア様を交えたお茶会を開いたり、アティカス王子の側近達にまで紹介され始め、何故か外堀を埋め始めた。

「アティカス様、私より好きな方が現れたら婚約破棄なさるんですよね?」

顔を引きつらせて訊ねる私に

「フレイア、もちろんだよ!でも、今はきみが僕の1番大好きな人だからね。父上はもちろん、母上とも仲良くして欲しいんだ」

そう答えた後に、瞳をうるませて

「まさかフレイア……迷惑なの?」

なんて聞かれたら、『嫌!』とは言えないじゃない。

いつしか家族ぐるみの付き合いが当たり前になり、お父様は魔法学園の卒業と同時に結婚させる気満々だ。

魔法学園に入学するまでの我慢だと……、アティカス王子とヒロインが出会うその日までの辛抱だと言い聞かせて月日は流れた。

 そして遂に、私も16歳になる年を迎えた。

魔法学園への入学準備を整え、やっと!やっと!ルイス様の待つ魔法学園に入学する日がやって来たのだ!

「フレイア、準備は出来たのか?」

私より2つ年上のレイモンド兄様が、お兄ちゃん声代表みたいな平石大輔さんの声で現れた。

そうだった、そうだった!

レイモンド兄様のお声は、優しい平石さんだったわね。

時折、色気のある声でヒロインに囁く甘い言葉に、何人の平石さんファンが鼻血を出した事であろう。

まぁ、私は妹だから、そんなお声を聞く事は無いだろうけれど……。

いつか、レイモンド兄様が何処かの令嬢に甘いあの声で愛を囁くのかと思うと、その時だけは壁になりたいと願わずにはいられない。

「フレイア?お前、又良からぬ事を考えているだろう?」

コツンと頭を軽く小突かれ

「違いますわ!レイモンド兄様のその優しいお声で、愛を囁かれた女性はイチコロだろうなぁ~って思っておりましたの」

そう反論すると、呆れた顔をしながら

「僕はフレイアが無事にアティカス王子と結婚するまでは、そんな気にはなれないよ」

と答えた。

「そうですの?では、そんな女性が現れたら、私に教えて下さいませ」

「何でだ?」

「そんなの!お兄様の口説くお声を聞きたい…………痛い、痛い!」

会話の途中で、レイモンド兄様が私の頭を鷲掴みして来たのだ。

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