第16話 ゲームのアティカス王子と生きたアティカス王子

私がアティカス王子の言葉に悲しくて俯くと

「フレイア? 何故、そんな悲しそうな顔をする?」

そう言って私の頬に触れると

「なぁ、フレイア。僕は、親友よりも婚約者のままが良いと思っているんだ」

なんて言い出したのだ。

「えぇ!」

驚いて叫んだ私に、アティカス王子が不思議そうな顔をして

「そんなに驚く事か?」

と呟いた。

「え?だって、私ですよ?」

「そうだね」

「屋敷内で変わり者と後ろ指差される私が、国母様なんて務まりません!」

「あははは。相変わらず、バルフレア公爵と公爵夫人。レイモンドを困らせているのか?」

私の言葉に爆笑しているアティカス王子に

「笑い事じゃないのよ!ねぇ、きちんと考えてみて。この国の国母様になられる女性は、知識、教養、言動、立ち居振る舞いが大切なのよ。私なんかに務まる訳が無いでしょう?」

そう訴えると

「だからだよ。きみは真面目に妃教育を受けているし、成績も人柄も文句ないときみを教えている者たちから評価を得ている。それに、僕だって見ず知らずの令嬢と婚約させられるよりは、フレイアが婚約者だと助かるんだ。だって、僕達はだろう?」

と、「親友」を強調して言われてしまった。

「きみはいつも、妃教育が終わるとさっさと自宅に帰ってしまうし。僕は寂しかったんだよ」

再び私の顔を覗き込むと、アティカス王子が寂しそうに呟いた。

「それは……私から謁見願いなんて言えませんわ」

アティカス王子の真っ青なサファイアの瞳に見つめられると、嘘がバレてしまいそうで視線を逸らした。

妃教育を受けているのは、レイモンド兄様から『フレイア、妃教育はきちんと受けなさい!もし、お前がアティカス王子から婚約破棄されたとして、きちんと妃教育を受けていたら、ルイスに引き取って貰えるかもしれないよ』と囁かれたからだ。

王族から婚約破棄なんてされたら、傷もの令嬢として4家紋の中の嫡男との婚姻は難しくなる。

その点、ルイス様は三男坊だから、何処か小さな領地を頂いて私を引き取るにはちょうど良い身分ではある。

私が納得していると、レイモンド兄様は私の背中を叩き

「アティカス王子の為と思わずに、ルイスの為だと思えば良いんじゃないか?」

なんて言ったのよ。

確かに、アティカス王子の為だと考えるとかったるい妃教育も、ルイス様の為なら頑張れた。

後から「あんな令嬢を引き取らされて可哀想」と言われるよりは、皆様から愛される可愛いフレイアを演じ続けた。

それもこれも、アティカス王子に婚約破棄をされた後の、ルイス様との婚姻の為だとアティカス王子にはさすがに言えない。

いくら破天荒キャラの私でも、半年間とはいえ衣食住を共にして、#姉弟__きょうだい__#のように暮らしたアティカス王子に、そんな酷い事は言えない。

しかも、私達と暮らした月日のお陰で、アティカス王子はゲームのアティカス王子とは全く違っていた。

ゲームのアティカス王子は、冷酷無慈悲の氷の貴公子と呼ばれていた。

しかし、目の前に居るアティカス王子は、喜怒哀楽がハッキリした可愛らしい弟キャラだ。

(そうか.......。我が家で暮らした事もそうだけど.......銀食器にした事により、本来なら7歳で亡くなる筈だった正妃様が生きている事も大きな要因なのかもしれない.......)

と、ぼんやりと考えていた。


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