第4話 王家の剣と盾

「どうして邪魔なさるのですか!」

キッとレイモンド兄様を睨むと、レイモンド兄様は私の頭を鷲掴みすると

「フレイア!お前はこの国の第一王子、アティカス様の婚約者だろうが!」

そう叫ばれ、思わずムンクの叫び顔になる。

「な、なんですってぇぇ!!」

私の記憶では、5歳の誕生日にフレイアはフラソ攻略キャラ1番人気のアティカス王子と婚約する。

私はまだ……と考えてから、今日が5歳の誕生日だったと思い出してガックリと膝から崩れ落ちる。

「な……なんという事でしょう。5歳の誕生日には既に、婚約者だったなんて……」

落ち込む私に、レイモンド兄様は心配そうに顔を覗き込んで

「フレイア、本当にどうしたんだ?」

と声を掛けて来た。

「兄様……」

「なんだ?何処か具合が悪いのか?」

散々、人の頭をバカスカ殴り、挙句の果てには頭を鷲掴みしたくせに、本当に心配そうに私の顔を覗き込んでいる。

私が涙目になりながら

「婚約破棄って、出来ませんの?」

と呟くと、レイモンド兄様は顔を引き攣らせた後に

「出来るか!このバカ者!!」

そう叫んだのだ。

「レ……レイモンド、落ち着いて。フレイア嬢も、本当にどうなさったのですか?」

怒り狂う兄に、泣き出す私。

まさに修羅場のこの現場で、さすが魔法学園の先輩ことルイス様。

私なら逃げ出すであろうこの状況で、レイモンド兄様を諌め、私を慰めて下さる優しさ。

生魔法学園の先輩は、やはり優しい先輩だった。

タレ目の愛らしい目も、困ると下がる眉も、全部、全部愛おしい。

(なんて……なんて罪な愛らしさ。全人類に見せたい!!)

見た目は5歳、中身は35歳の元ヲタク女の私は、穴という穴から血が吹き出そうな程に興奮していた。

推しが!推しが目の前に居るって、なんて幸せなのでしょう。

レイモンド兄様が小うるさいのが想定外だったが、このフラソの世界で唯一、魔法学園の先輩こと、ルイス様と近しいキャラはフレイア達だったのだと知る事が出来たのはラッキーだった。

 少し落ち着いた頃、私はこの世界に着いて調べてみた。

私が転生したこの国は、王家の下に4つの公爵家が絶対権力を持っていた。

私が産まれたバルフレア家と、ルイス様の生家であるセヴァランス家。そしてミューレンバーグ家とワーロック家だ。

この4公爵家が絶対的権力を持ったのは、まだこの世界が混沌としてた時、魔物討伐に王家と共に戦い剣と盾と呼ばれたのがバルフレア家とゼヴァランス家だ。

一方、荒れ果てた王都の復興と流通に貢献したのが、ミューレンバーグ家とワーロック家だと言われている。

王家では代々、この4家紋の直系を王家の妃として迎え入れて来た。

決して片一方に偏らず、4家紋は常に近郊を保って関係を続けている。

しかし、王家の剣と謳われるバルフレア家は男系である事から、長らく女児の誕生が無かった。

王家から姫君を嫁がされ近郊を保ち続けたバルフレア家にとって、フレイアの誕生は悲願だったのだ。

しかも、王家の第一王子と同じ歳に産まれた事により、他家よりも優先的に婚約者として望まれる事になった。

そんなフレイアは、物心着いた時から妃教育を受けて育った。

自分を溺愛する家族の為に、フレイア自身も未来と国母となるべく生きて来た……筈だった。

そう、5歳の誕生日までは。

しかし、前世の記憶が戻った今、そんな事はどうでも良かった。

目の前に、王家の盾と呼ばれるゼヴァランス家の三男として、魔法学園の先輩が居るのだから。

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