第27話
それから数日間、仕事が終わって帰宅した裕作はまっすぐに倉庫へと向かった。
もう何年も、いやおそらく何十年も整理されていないであろう倉庫の棚には、工事現場で使うヘルメットやカフェの店先に置いてありそうなミニ黒板とチョーク、上半身しかないマネキンなど、一体いつ使ったんだとツッコミを入れたくなるようなものが無造作に散らばっていた。
ブラウン管のテレビやダイヤル式の固定電話など、処分を先送りにしてここに押し込んだと思われる年代物もちらほらある。
それに混ざって、祖父や父の昔のアルバムや通信簿が出てくることもあり、裕作はその都度思わず手を止めて、祖父や父の生きた証を辿った。
父のアルバムには、端正な顔付きの男性が頻繁に登場してきた。
背の高い父と並ぶとかなり小柄な印象を受けるが、実際には平均かそれより少し背が高いかといったところだろう。
揃いの学生服を着て笑顔で肩を組む姿から、二人の仲の良さがうかがわれた。
この男性の他にもう一人何度か登場する人物がいて、長い髪と穏やかな目が印象的な女性が写真の向こうからこちらを見つめていた。
「もしかしてこの人が自分の母親なのではないか」
という思いが一瞬だけ裕作の頭をかすめたが、何の根拠もないただの妄想に裕作は自分で苦笑いを投げかけて、アルバムを閉じた。
倉庫の中を探し始めて一週間が経った。
亜由美の力になれそうな「なにか」は依然として見つからなかったが、この雑然とした倉庫の中に裕作はちょっとした秩序を見出していた。
いつ使ったんだとツッコミを入れたくなるようなものや処分を先送りにした年代物はあちらこちらに置かれているものの、アルバムや通信簿などの大切なものは、決まって目線の高さよりも上の棚に置かれていた。
この秩序と呼ぶにはお粗末なちょっとしたルールを作ったのが祖父なのか父なのかは定かではないが、なんとなく父だろうなと裕作は思った。
裕作は、一階の居間にある神棚に毎日お供物をしてお参りする父の背中を思い出した。
大切なものは上の方に。
お世辞にも几帳面とは言い難い父が考えそうなことだった。
「なにか」があるとすれば、たぶん上の方だろう。
当てのない宝探しに当てにならない手がかりが加わって、裕作は一層心細さを覚えた。
一週間の成果がこれか。
このままではいつになっても何も得られないのではないか。
そんな裕作の心配をよそに、それは突然見つかった。
縁切りハサミの棚の3つ右隣の棚の上から二段目。
そこに縁切りハサミと同じ見た目の木箱が置かれている。
木箱は何かの拍子に開いてしまわないように丁寧に紐で括られていて、まるでその存在を隠すかのように棚の奥の方に追いやられていた。
裕作は木箱を手に取ると、そっと紐をほどいて蓋を開けた。
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