第26話

そのまましばらくポツポツと話を続け、気がつけば2時間半が経過していた。

ほどよくお腹も満ち足り、どちらかが口を開いている時間よりも沈黙の時間の方が長くなってきたことに気がついた裕作は、

「そろそろ出ましょうか」

と言って伝票を手に立ち上がった。

裕作が支払いを済ませ、私が払いますと頑なに譲らない亜由美とお店の外で押し問答を続けた後で、最終的にはきっちりと折半することで互いに納得して、お店を後にした。

気の利いた話題も思いつかない裕作は、会話らしい会話もしないまま、最寄りの駅まで亜由美と連れ立って歩き、特に次の約束もしないまま、それじゃあと手を振った。

「急に訪ねてしまったにもかかわらず、ありがとうございました」

と亜由美は亜由美らしくきっちりと頭を下げて改札の中へと消えていった。



果たして、自分にできる事はあるのだろうか。

家までの道のりを歩きながら、裕作は自分の無力さを痛感していた。

ただ話を聞くだけなら誰でもできる。

亜由美がわざわざ裕作の元を訪ねて来たのは、そんな誰にでもできることを期待しての行動ではないはずだ。

とぼとぼと歩きながら家の玄関をくぐり、気がつけば裕作の足は二階の倉庫に向かっていた。

自分にしかできないこと——縁切り屋である自分にしかできないこと。

そのヒントは、やはりこの場所にしかないような気がした。



とはいえ、物で溢れかったこのだだっ広い空間の一体どこを探せば良いのだろう。

とりあえず入り口付近の棚から順に確認していた裕作は、探し始めて1時間もしないうちに早くも途方に暮れていた。

何を見つければ良いのか、そもそも亜由美の問題を解決することのできる「なにか」がこの場所にあるかどうかも定かではないのに——。

裕作は地図のない無人島で宝探しをしているような気持ちになって、ほこりっぽい床にどかっと座り込んだ。



父さんだったら。

裕作はぼんやりと棚を眺めながら、不器用な父の笑顔に思いを馳せた。

もしこの相談を受けたのが父さんだったら、一体どうしていただろうか。

こんなのは縁切り屋の仕事の範囲外です、と早々に断って諦めさせていただろうか。

それとも、今の裕作と同じように、何とか力になれないかと解決策を探しただろうか。

問いかけても返ってこない父からの答えを勝手に後者と決めつけて、裕作は「もう少し頑張ってみるよ」とつぶやいた。

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