第2章:亜由美と紐づけ針
第13話
「縁切り屋さんというのはこちらですか?」
女性は研ぎ澄まされたガラスのままでニコリともせずに言葉を発した。
頬の筋肉の動かし方を忘れてしまったかのように、口だけが動く。
ありきたりな表現だけど、ロボットのようだな、と裕作は思った。
「はい、そうです。ご依頼でしょうか?」
裕作はこの空間に足りない和やかさをできる限り一人で埋めようと大げさな笑顔で尋ねた。
「ひとまず、こちらにどうぞ」
と言って女性にソファを勧める。
冷蔵庫からボトルコーヒーを出そうとして、流石に期限切れはまずいか、と既におっさんに飲ませたことは棚に上げて手を止めた。
冷蔵庫をゴソゴソと探ってみたが、他に冷たい飲み物は見当たらない。
温かいのでもいいか、ちょうど俺も飲もうと思ってたし、とコーヒーカップを取り出してインスタントコーヒーを入れる。
女性の前にコーヒーカップを置いて、自身もマグカップを手に女性の向かいに座る。
真っ直ぐにこちらを見つめる女性の瞳に吸い込まれそうで、裕作は視線を逸らす言い訳にコーヒーを一口啜った。
女性はコーヒーに口をつける様子もなく、ただただこちらを見つめるばかりだ。
肩まで伸びた黒髪と縁の太い眼鏡から真面目な印象を受ける。真っ直ぐに伸びた背筋はまるで鉄板でも背負っているかのようにピンとしていた。
「縁切り屋さんは他人の縁が分かるのでしょうか?」
急に発せられた言葉の意味を理解できずに裕作の口からは思わず「へ?」と間抜けな声が漏れた。
「縁切り屋さんは他人の縁が分かるのでしょうか?」
女性は同じ言葉を繰り返した後で、
「もし分かるのなら、私の縁を調べて頂きたいんです」
とつけ加えた。
「縁を調べて欲しい、とはどういったご事情でしょうか?」
普段とはあまりに毛色の違う依頼に戸惑いながらも裕作は尋ねた。
女性は少しだけ眉毛をぴくりと動かしながら言った。
「私、記憶喪失なんです」
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