第19話 ~Happy Seaside Night~ 2/3
意外にも、海水はそれほどひんやりとした感触ではなく、生温い。そして、典型的な潮の香り。
プール馴れしている美七海には、新鮮な感覚。
ピシャッ!
美七海の腕を解放した麻美が、さっそく美七海に向かって水を掛けて来た。
お返しとばかりに、美七海も麻美に向かって水を跳ね上げる。
なんとはなしに、周囲からの視線を感じるような気もしたが、麻美の麗しい水着姿にさもありなんと、美七海は気にせず麻美との水遊びを楽しんだ。
「ふふふっ、久しぶりで楽しいわ」
「麻美さんも、海はお久しぶりなんですか?」
「ええ。……あっ!」
その時、強めに吹き付けて来た海風が、麻美の麦わら帽子を攫った。
飛ばされた麦わら帽子が、美七海の隣を掠めて、少し離れた海面へと落ちる。
「私、取ってきます!」
早くしないとまた風で飛ばされてしまうかもしれない。
慌てて駆け寄り麦わら帽子へと手を伸ばした美七海は、急に深くなった海の底に、ガクリと頭まで一気に海水に浸かってしまった。
一瞬にして、パニックに陥る。
幼い頃に溺れた記憶が、フラッシュバックする。
怖い、怖い、怖い、苦しい……
藻掻く美七海の両脇を、何かがゆっくりと持ち上げる。
「落ち着いて」
「体の力を抜いて」
「大丈夫だから」
「怖くないですよ」
水の中で、そんなに鮮明に聞こえる訳は無いはずなのに、聞こえてきたのは亜美と麻美の声。
不思議と心が落ち着き、声に従って体の力を抜いたところで、体がプカリと海面に浮いた。
「美七海っち、こうして見ると意外と胸おっきいね。まっ、私には負けるけど」
仰向けに海面に浮かんだ美七海の顔を覗き込んできたのは、亜美。
「美七海さん、そのままゆっくり起き上がってみてください。大丈夫です、あなたは泳げる人なのですから」
すぐ側から聞こえる麻美の声に、美七海はゆっくりと足を沈めて頭を海面から起こす。
両脇を亜美と麻美に支えられているせいか、まるで海の中で垂直に浮かんでいるようだった。
「あの、私……」
「海って、さ。力抜けばちゃんと浮かぶから」
「そうですよ。プールよりも浮力が高いのですから」
「美七海っち、泳げるよね?私たち離すから、あそこまで泳いでみて」
「大丈夫ですよ、危険な時はすぐに助けますから」
フワリと両脇から支えが外れ、少しだけ体が沈んだものの、美七海はそこから足の付く場所まで無事泳ぐことができた。
底に足を付けて立ち上がると、そこには泰史が美七海の到着を待ち構えていた。
「美七海ちゃん、大丈夫っ?!」
「うん。お姉さま達が助けてくださったから」
「本当に大丈夫だった?!」
「大丈夫よ。だって私、お姉さま達がいるあの場所からここまで泳いで……あれっ?」
振り返ってみたものの、既にそこには亜美の姿も麻美の姿も無い。
周りを見回しても、二人の姿はどこにもなかった。
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