第20話 ~Happy Seaside Night~ 3/3

「いい眺めね」


 ホテルでバイキング形式の夕食を済ませ、美七海はテラスに出て海を眺めていた。

 今夜は月も星も綺麗で風も無く、海の上に月影が映り込んでいてそれがまた美しい景色になっている。


「ねぇ、泰史。お姉さま達はこのホテルに泊まっていないの?」


 ホテルに帰ればきっと亜美も麻美もいるだろうと思っていた美七海は、夕食時にも姿を現さなかった二人の事がずっと気になっていた。

 おまけに、海で亜美と麻美の姿を見失ってから、泰史の態度はどこか不自然で、美七海のこの問いにも部屋の中の泰史はビクっと体を震わせるのみで、美七海の顔を見ようともしない。


「……泰史?」


 部屋に戻り、泰史の目の前に腰を下ろすと、美七海は泰史の顔を両手で挟み込み、目を合わせた。


「ねぇ、泰史。何か私に、隠し事してない?」

「えっ……と……して、ます」


 あっさりと白状した泰史は、両頬を包んでいる美七海の両手首を両手で掴み、そのまま引き寄せて美七海の唇を奪う。


「ちょっ、泰史っ」

「俺、今からおかしなこと言う。それでも、俺のこと嫌いにならない?」

「え?」

「別れたりしないって、約束してくれる?」


 泰史は真剣な、見ようによっては泣きそうな顔で、美七海に縋りつく様な目を向けてくる。


「一体何を」

「約束、してくれる?」

「……分かった」

「じゃ、キスして」

「は?」

「約束のキス」

「今したじゃない」

「お願い、美七海ちゃん……」


 根負けした美七海は、再度泰史の顔を両手で包み込み、そっと唇を合わせる。

 とたん。

 体を入れ替えられて、気づけば泰史は美七海の胸の中。

 何度も何度も、激しく唇を奪われた。

 それは、これが最後になるかもしれないと覚悟を決めた、泰史の切なる口づけでもあった。



 頭も体もボーっと怠く、起き上がる事さえ困難で、美七海は軽く頭を振った。

『約束のキス』からの泰史の怒涛の攻めに、美七海は抗う間も無く泰史の愛撫に身を任せるしかなかった。

 嫌ではなかったものの、どこか誤魔化されているような感覚。

 いつにも増して激しく求められ、何もかもがどうでもよくなってしまうような感覚さえ、泰史がそれを狙っているのではないかとすら思えてしまう。


「ごめん、美七海ちゃん。大丈夫?」

「……うん」


 美七海を気遣う、泰史の声。

 髪を撫でる優しい手。

 本当は、泰史にとって聞かれたくない、答えたくないことなのかもしれない。

 それでも、美七海は泰史の胸に頭を預けながら、泰史に尋ねた。


「泰史、お姉さま達の事、教えて」

「……うん」


 ややあって、泰史はようやく口を開いた。


「亜美姉も麻美姉も、居ないんだよ」

「え?」

「二人とももう、居ないんだ」

「……それはどういう」

「俺が海で溺れた時に、二人とも死んでるんだよ。俺を助けようとして」


 美七海の髪を撫でる泰史の手は止まらない。

 だが。

 美七海の思考は完全にストップしてしまったのだった。


 ~Happy Seaside Night~

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