第13話 ~Happy GW Night~ 5/5

「さて、私の用事は終わったわ。帰りましょう、亜美」


 満足そうな表情を浮かべ、麻美が立ち上がる。


「はぁっ?!ちょっと待ってよ、麻美!私の用事はまだ」

「あなたも少し、大人になりなさい。やっくんはもう、子供じゃないの。さ、行くわよ」

「えっ、ちょっ!わっ、離してっ!」

「お邪魔してしまって、ごめんなさいね、美七海さん。では、ごゆっくり」

「私はまだやっくんになにも……こらっ、離しなさいってばっ、麻美っ!」


 どこにそんな力があるのかと思う細腕で亜美の首根っこを捕まえると、亜美を引きずるようにして麻美は部屋を出て行った。

 パタリとドアが閉まった音に、泰史はやれやれと安堵の溜息をつく。


「良かったぁ……このまま姉ちゃんたちに居座られたどうしようかと思った」

「え?なんで?私は別に構わなかったけど」

「美七海ちゃんは構わなくても、俺が構うのっ!」

「でも、お姉さん達はどこに」


 泊まるの?

 という美七海の言葉を、泰史がキスで遮る。


「んっ……ちょっと、泰史っ!話の途中っ!」

「姉ちゃん達なら、全然心配ないから安心して。それより、来て、美七海ちゃん」


 その部屋は2間続きの和室仕様になっているようだったが、仕切りの襖は閉じられたままだった。

 1間でも十分な広さがあり、美七海は当初襖の奥の存在にさえ気づいていなかったくらいであったが、泰史に手を引かれて襖の奥に足を踏み入れた美七海は、驚きで言葉を飲み込んだ。


「ここはね、部屋付きの露天風呂があるんだよ。ここなら2人だけで一緒に、露天風呂を楽しめるでしょ?」

「泰史……」

「大浴場も広くて気持ちいいけど、一緒には入れないからさ。だから、今から大浴場で汗を流して来て、晩御飯食べたら一緒に露天風呂入ろうね、美七海ちゃん」


 美七海の手を握る泰史の手に、力がこもる。


「お風呂上がりの浴衣姿の美七海ちゃん、楽しみだなぁ……でも、俺と一緒に露天風呂入ってる美七海ちゃんも、早く見たいなぁ……」


 熱っぽい泰史の声が、美七海の体温をも上昇させるようで、頬がカッカと熱を持ち始める。

 その、美七海の耳元に口を寄せ、泰史は囁いた。


「俺、露天風呂で色んな事したいんだ……美七海ちゃんと。ね?いいよね?」

「……しっ、知らないっ!」


 高鳴る胸の鼓動を悟られまいと、美七海は泰史から距離を取り、顔を背ける。


「え?子供のころよく風呂場でやらなかった?水鉄砲遊びとか、潜水我慢ゲームとか」

「えっ?!」


 予想外の答えに思わず見た泰史の顔は、してやったりのドヤ顔。


「あれ~?美七海ちゃん、顔真っ赤だよ?もしかして、エッチな事想像しちゃった?」

「もぅっ!知らないっ!」

「知ってるクセに」


 逃げようとする美七海の体を引き寄せて抱きしめると、泰史は再び美七海の耳元で囁いた。


「いいよ。知らないって言うなら、俺が教えてあげるから。何度でも、何度でも、絶対に忘れられないくらいに、ね?」


 泰史の言葉が、美七海の体の奥深くに疼く様な熱を点す。

 自分の中に目覚めた熱を持て余し、美七海は縋るように泰史の首に両腕を回した。


 ~Happy GW Night~

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