第12話 ~Happy GW Night~ 4/5
「なにしに来たんだよ?美七海ちゃんと俺の事、邪魔しに来たのか?」
「やだもう、やっくんたら。そんなことする訳……ねぇ、亜美?」
「えっ、そこで私に振るっ?!違うわよっ、あわよくば別れてくれればいいとは思っていたけど、私たち今回は純粋に観光しに来たのよ。やっくんが旅行なんて、久しぶりだったしさ」
仏頂面で4人分のお茶を入れる泰史は、亜美の言葉に片眉をピクリと上げて亜美を睨む。
「あわよくばって……お茶味わったらすぐ帰れよ。ここ、2人部屋だからな」
「いいじゃない、ここ広いし。あと2人くらい余裕で寝られるでしょ?」
「ダメっ!絶対、ダメっ!」
「それはなんでかなぁ、やっくん?もしかして、私の可愛い弟は、や~らし~ことで」
「うるさいなっ!俺はもう大人だぞっ!いい加減ほっといてくれよっ!」
泰史のあまりの不機嫌さと亜美との言い合いに美七海がハラハラしていると、麻美がスススと近づいて来て、そっと肩に手を乗せた。
「美七海さん」
「あっ、はい」
「大丈夫?弟が、ご迷惑などお掛けしていないかしら?」
「いえ、全然。私が旅行に不慣れなもので、泰史さんには至れり尽くせりしていただいて」
「あら、そうだったの。それは良かったわ」
泰史と亜美の言い合いなどどこ吹く風と、麻美は穏やかな笑みを浮かべる。
そして。
「あら、こんなところから糸が出ているわ。少し、じっとしていてね」
そう言うと、どこに隠し持っていたのか、鈍い銀色の光を放つ小さなハサミで、バチンと何かを断ち切った。
「あ、ありがとうございま」
「あら~?」
服のどこかがほつれて糸が出てしまっていたのだろうと思った美七海は麻美にお礼を言おうとしたのだが、麻美の視線はどう考えても美七海の服には向けられていない。
向けられていたのは、美七海と泰史の間の空間。
「あの……麻美、お姉さん?」
「ふふふっ、私、まだあなたのお姉さんじゃないわよ?ちょっともう一回」
笑顔を浮かべながら、麻美は再び鈍い銀色の光を放つ小さなハサミを、美七海と泰史の間の空間にバチンと入れる。
「ふ~ん、そう。なるほど、ね。はじまり、再生、生まれ変わり……再生の力が強いのかしら?それとも」
「ちょっと、麻美姉っ?!まさか今、俺と美七海ちゃんの間の糸、切った訳じゃないよねっ?!」
「ふふふっ」
麻美の行動に気づいた泰史が、亜美との言い合いを切り上げ美七海の側にすっ飛んできて、痛いくらいの力で手を握りしめる。
泰史の言葉でようやく美七海は思い出した。
麻美には、人と人を結びつける糸が見える、という事に。
「麻美姉っ!」
「やだ、やっくんたらそんなに怖い顔して。かわいいお顔が台無し。美七海さんに嫌われるわよ?」
泰史の怒りをやんわりと受け流し、麻美は言った。
「大丈夫。やっくんと美七海さんの糸は、切っても切っても再生するから。……つまらないわ」
「いいじゃない、麻美。あんた、今日1日でどれだけ糸ぶった切って来たのよ?カップル見つけては手当たり次第にバチバチ断ち切って。私よりよっぽど悪趣味ね、あんたの方が」
「亜美、それじゃあまるで私が悪魔のように聞こえてしまうじゃない。私はただ、このハサミの切れ味と効果を確認したかっただけよ?それに」
もはや、怒りよりも恐怖に怯えた泰史に向けて柔らかく微笑むと、麻美は続ける。
「強い繋がりを持つ人同士の糸は、どんなに切っても再生するのよ。現に、やっくんと美七海さんを繋ぐ糸は、すぐに再生したわ。ということは、糸が再生しなかった人たちは、遠からずお別れするということ。早めにお別れすればそれだけ次の出会いも早くなるでしょうし、私、悪い事をしたとは少しも思っていないわ。それに、あなただって【じゃんじゃん試しなさい】って、言ってくれたじゃない」
「こんなことするなんて、知らなかったからよっ!私だって知ってれば」
「知っていれば、止めた?」
「……う~ん」
「いやいや、亜美姉、そこは止めてよ」
呆れたように亜美にツッコミを入れる泰史を見ながら、美七海は
「だから、だったのね」
と小さく呟いた。
やたらと喧嘩をしたり破局をしたりするカップルが多かったのは、麻美が糸を切って回っていたからに違いない。
そう気づいた美七海は、穏やかな笑みを浮かべる麻美の姿に、背筋が凍るような感覚を覚えたのだった。
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