第6話 〜 Happy Aprilfool Night 〜 2/2

「なに勝手なことしてんだよっ、亜美姉も麻美姉もっ!」

「なぁんだ、失敗かぁ…つまんない」


 パッと泰史の腕を離すと、赤いトレンチコートの女性は美七海に不機嫌そうな顔を向ける。


「せっかくのエイプリルフールなんだからさ、少しは騙されてくれてもいいんじゃない?」

「だから言ったろ?美七海ちゃんはこんなことじゃ騙されないって!」

「ふふっ、今回は完敗ね、亜美」


 紺のトレンチコートの女性が微かに笑いながら、赤いトレンチコートの女性の肩を慰めるように軽く叩いた。

 赤のトレンチコートの女性を【亜美】と呼んだところを見ると、紺のトレンチコートの女性が【麻美】なのだろう。


「ごめんね、美七海ちゃん。姉ちゃん達がどうしても、エイプリルフールにかこつけて美七海ちゃんを騙したいって聞かなくて…俺にまで協力しろって言うから」


 申し訳無さそうに言う泰史に、美七海は言ってやった。


「泰史の演技が下手すぎたのが、敗因ね」

「そうよねぇっ!?やだぁ、いい彼女じゃないの、やっくん!」

「よく言うわね、ついさっきまで、彼女とやっくん、別れさせる気満々だったくせに」

「えぇぇぇっ!?聞いてないよ、俺っ!」


 麻美の言葉に、泰史が目を剥いて亜美を睨みつける。


「ほら、一回成功したことって、成功体験として記憶されるでしょ?だから亜美は今回も、また同じ手で」

「待て待て、待って麻美姉。それって、いつの話?」

「確か、あれはやっくんが高校の時の」

「ちょっと!なにペラペラしゃべってんのよ麻美!あんただって同罪なんだからねっ!?」

「あら。私は亜美がどうしてもって言うから、仕方なく、よ。それに、あの子とやっくんを結ぶ糸は、ドブのように薄汚い色だったから」


 三島姉妹+泰史の姉弟喧嘩を呆れモードで眺めていたが美七海だったが、最後の麻美の言葉に首を傾げる。

 気づいた泰史が、小さく耳打ちをした。


「麻美姉は、昔から人と人を結びつける糸が見えるんだ」

「…糸?」


 これももしかしたら、エイプリルフールの嘘なのかと思いきや、どうやらそうではないらしい。


「ねぇ、麻美姉。美七海ちゃんと俺の糸は何色?」

「さて、どうかしら?今はまだ、教えるときではないようだから、内緒」

「え〜…」


 フフフと笑うと、麻美は美七海の耳元でそっと囁く。


「ねぇ?熟れたトマトの色って、何色かしら…ね?」

「えっ?それって…」

「亜美、帰りましょう。約束通り、今日のランチは亜美おごりね」


 美七海の問いには答えず、スッと体を話すと、麻美は亜美の腕を取り、亜美をひきずるようにして歩き出す。


「えっ!?ちょっ…だってまだ私やっくんとあの子別れさせてな…」


 ジタバタと暴れる亜美と、それを引き摺る麻美の姿を見えなくなるまで見送ったあと、泰史は大きく息をついた。


「はぁ…ごめんね、美七海ちゃん。だから嫌だったんだ、姉ちゃん達を美七海ちゃんに会わせるの…」


 あまりの泰史の落ち込みように、美七海は苦笑して泰史の肩を叩く。


「いいお姉さん達じゃない」

「えっ?」

「それに、面白いし」

「ホント?美七海ちゃん、それ、本気で言ってる?!」

「うん」

「よかったぁ…」


 心から安心した顔で、泰史は美七海の手を握る。


「じゃあ、さ」

「ん?」

「今日はあのアメ、使ってくれる?」

「…使わない」

「…今日もナシかぁ…」


 またもガックリと肩を落とした泰史を見て、美七海は微かに笑った。

 泰史がホワイトデーにくれた、あの薄っすらピンクのピーナッツ型のアメなら、美七海はポケットにひとつ忍ばせてある。

 あれから数日と置かず、泰史はまだかまだかと、美七海にアメの使用−ベッドへのお誘いを迫ってきたのだ。もっとも、美七海はその度にNOの返事をしてきたのだが。


「私を騙そうとしたお返しだよ」


 小さく呟くと、美七海は泰史の手をひいて歩き出す。


「えっ?今なんか言った?」

「な〜んにも」


 答えながら、美七海はアメを使って泰史を誘う自分を想像し、頬を薄紅に染めたのだった。


 〜Happy Aprilfool Night〜

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