第5話 〜 Happy Aprilfool Night 〜 1/2
「どうかしたの?」
4月1日。
もうそろそろ桜も見頃だからと、朝から泰史に誘われて出かけた美七海は、泰史の態度に違和感を覚え続けていた。
どちらかと言えば、しれっとした顔でピッタリとくっついてくる泰史が、明らかにソワソワと落ち着きがない。
「えっ?!どうもしないよ?なんで?」
そう答える声も、いつもよりも高めの声で、裏返ってしまっているし。
こころなしか、繋いでいる泰史の手は、汗ばんでいるようにも感じる。
…これは明らかにおかしい、と。
美七海が更に突っ込んで聞こうとした時だった。
「やっくんみーっけ!」
突然、赤いトレンチコートの美しい黒髪の女性が近づいてきて、泰史の腕を取った。
女性は驚く美七海をチラリと見ただけで、何事もなかったかのように、泰史に甘えるような視線を向ける。
「やっくんたら、また女遊びしてるの?私というフィアンセがいるのに。私はいいけど、遊ばれてるこの子が可哀想よ?」
「なっ、なに突然おかしなこと言ってんだよ」
慌てたような顔をして、泰史が赤いトレンチコートの女性を振り払おうとするが、女性は益々泰史に体を密着させる。
美七海は暫くの間、呆気にとられてふたりの様子を眺めていたが、違和感ばかりが膨らんでいく気がしてならなかった。
それに、この人…
美七海の記憶の片隅に、何かがひっかかる。
そんな美七海にしびれを切らしたのか、赤いトレンチコートの女性がジロリと美七海を睨みつけた。
「ちょっとそこのあなた。そんなわけだから、やっくんとは別れて。っていうか、別れたほうがいいわよ?だって、やっくんは私と結婚するんだから」
女性には答えずに泰史を見ると、泰史はあからさまに視線を逸らす。
俗に言う『修羅場』というものなのだろうか、この状況は。ならば私は泰史に、今この場で説明を求めるべきなのだろうかと、何故か未だに繋がれたままの泰史の手をじっと見ていた美七海は、ふと背後に人の気配を感じて振り返った。
と。
すぐ後ろにいたのは、紺のトレンチコートを来た美しい黒髪の女性。
赤いトレンチコートの女性と、瓜二つの顔立ちをしてはいるが、どことなく生気にかけるような感じもする。
「あら…あなた、見える人?」
美七海の様子を見ていた赤いトレンチコートの女性が、小さく笑った。
「ふふっ、ごめんなさいね、それ、私の生霊。やっくんへの想いが強すぎて、つい浮気相手の女に生霊とばしちゃうのよねー、私。だから、ね。早く別れないと、あなた私の生霊に殺されるわよ?」
挑戦的な目の赤いトレンチコートの女性と、うつむきがちに下から上目遣いで見上げるような、紺のトレンチコートの女性。
美七海の記憶の中でショッキングピンクのコートとグレイのロングコートが舞い踊る。
痛いくらいに強く握りしめられた泰史の手をギュッと握り返すと、美七海は二人の女性にニコリと笑いかけて、言った。
「泰史さんのお姉様、ですよね?初めまして。私、芝山 美七海と申します」
「…えっ」
美七海の対応がよほど予想外だったのか、赤いトレンチコートの女性が目を見開いて美七海を見た。
やはり、どことなく泰史に似ていると、美七海は感じた。
「ごめんなさい、私見える人じゃないですし、全く感じもしないので。泰史さんから双子のお姉様がいらっしゃることは伺っていましたし。先日も、お姿だけは遠目で…ピンクのコートと、グレイのコートを着ていらっしゃいましたよね?」
「ええっ?!」
美七海の言葉に、今度は泰史が目を剥いて女性たちを睨みつけた。
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