第80話 (ステータス表示あり)

「――ルーペ」


 二度目の刃で貫かれながら、黒井は魔眼を発動。


 魔眼は、魔王の体内に流れる魔力回路を写しだした。その線は身体の隅々を流れており、それはまるで「魔王羅刹」という魔法を創り出している魔術式であるかのように魔力が循環していた。


 その頭部――角が生えていたとされる部分には、角らしき魔力回路が見当たらない。


 それこそが、黒井の治癒術が効かなかった原因。


 そして、その原因を取り除くために黒井は血の味が混じる口で叫ぶ。


「今だ! ユジュン!!」


 背後にいたユジュンは既に動きだしていた。その手に握られるナイフは怪しくうごめき、魔王へと忍び寄る。


「――会心クリティカル


 黒井と魔王羅刹との間を横切った一閃。それは魔王の前腕を切断した。


 魔眼で視続けていた魔王の頭部に、月の力によって隠されていたのであろう回路線が浮かび上がる。それは紛れもなく角の形をしていた。


「――治癒術」


 黒井が唱えた瞬間、魔王の額にぷくりと肉の泡が膨れ上がる。それはまるで、骨組みに沿って粘土を貼り付けるように形作られていき、魔王の額には角が再生される。


「オォ……オオオオ!」


 それは前腕を斬られた痛みなのか、それとも設定資料にあったように角からくる精神的な痛みなのか、魔王は低く地を這うような呻吟しんぎんを発した。


 きっと、後者だったのだろう。


 魔王が残った手で押さえつけたのは、斬られた腕ではなく頭の方だったからだ。


 ユジュンは突然苦しみだした魔王に戸惑い、警戒に身を固くする。彼には何も説明できていなかったため、そうなるのも無理はない。


 しかし、黒井は違った。


 身体に突き刺さる剣を引き抜くより先に、力を振り絞って地面を蹴る。そのまま魔王へと迫り、たった今再生されたばかりの角へと手を伸ばした。


 黒井の無防備な行動にユジュンが何か叫んだが、何を言ったのか聞き取ることはできなかった。彼の耳に届くのは、彼自身が口にする詠唱のみ。


「――雷付与」


 伸ばす手に電気が宿り、その漏電は、通電できる物体を求めて彷徨う。やがて、黒井の指が魔王の角に触れた瞬間、歓喜に溢れるように角へと閃光のヒビを走らせた。


 魔王の脳髄を電撃が貫く。それは体内に張り巡らされ、身体の隅々までを焼き尽くした。手足が激しく痙攣し、目や口や鼻といった、ありとあらゆるあなから煙が噴きだされる。


 それでもなお、黒井は魔王の角に電気を流し続けた。



――【魔王羅刹】を倒しました。



 それこそ、魔王が死ぬまで。


 

――【ミッション】魔王討伐をクリアしました。

――称号【魔王討伐】を獲得しました。



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【最終ミッション】姫奪還。


 あなたは魔王を倒すことに成功しました。世界には平和が訪れます。魔王の城には攫われた人間の姫が監禁されています。彼女を救い出し、王様へと送り届けてください。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



――レベルが上がるほどの経験値を得ました。

――借り入れている経験値を返済します。

――全ての経験値を返済しました。

――自我への侵食を食い止めました。



 その天の声を聞いた黒井はようやく電気を流すことをやめた。かつて魔王だった身体は消し炭となっており、周囲に醜悪な臭いを発しながら煙を漂わせている。


「くっ……」


 黒井は自身の身体に刺さる剣を引き抜いた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【チャンドラハーツ】


 羅刹が苦しみの末に自身の角を引き抜いた際、もう二度と角が生えてこないようにと願い、神から授かった月光剣。


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 やはり、それは月の力を宿した剣だったらしい。羅刹は、この剣の力で自身の角を封印していたのだろう。


 設定資料によれば――羅刹の角は魔力を感知するセンサーであり、大魔法使いと到れる才能でもあった。しかし、それが羅刹自身を苦しめ、遂には自身でその角を破壊しなければならなくなった。


 皮肉なものだと黒井は思う。


 生まれ持った角が……それは才能と呼ぶに相応しいものであったにも関わらず、自分を苦しめる不幸となってしまった。


 もちろん、黒井が本気で羅刹へと同情することはない。羅刹はあくまでもゲーム内におけるキャラクターでしかないからだ。


 それでも、勝手に共感できる部分はあった。それが角でなくとも、人間もまた同じだろうという結論に黒井は至る。


 生まれたままでは生きてはいけない。人は誰しもが、どこかで自身を歪めなければならない。それを成長といった前向きな言葉に変えて、周囲に迎合することをまるで正義であるかのように喜ぶ。羅刹におけるそれが、自身の角を引き抜くことだったのだろう。そうしなければ死ぬしかなかったから。


 黒井はチャンドラハースをその場に捨てると、自身の回復に努めようとする。それでも負ったダメージ思っていたよりも遥かに深い。


 やがて、糸が途切れたように黒井は意識を手放した。


「――おじさん!」


 最後に、ユジュンの声を聞いた黒井は倒れながら小さく呟く。


「だから、おじさんじゃねぇって……」



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【黒井賽】/『≠aaaa』

種族 :鬼人【月の加護 ー 残り15日 ー】

職業 :治癒魔術師/回廊の支配者

レベル:120

筋力 :1250

器用 :1030

持久 :1100

敏捷 :1300

魔力 :1500

知力 :1450

精神 :1550

運  :150

《スキル》

 回復魔法・覚醒魔法・治癒術・抗体術・剣術・弓術・鎚術・槍術・反射・制限解除・鬼門・雷の支配・鬼の芽・格闘術・殺気・雷付与・無限軌道・隠蔽・霊験投影:雷紋・飛雷神・鬼の外套・我道・冷酷

《称号》

 魔眼08・ゴブリンスレイヤー・避雷針・雷の眷族・鬼の王・殺戮者・深淵への挑戦者・戦車・雷サージ


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