第13話 (ステータス表示あり)

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【鬼の芽】

 角を持たぬ種族に有効。彼らを鬼へと変えるウィルスを植え付ける。


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「う、うわああああ!」


 その叫び声は、仲間が鬼へと変貌する光景を目の当たりにした烏帽子のものだった。


「ようやくか……」


 纏っていた狩衣が裂け、人の形を留めていた姿が大きくなる。額から出ていた角が伸び、魔眼でも魔力の流れが勢いづいたのを確認しながら息を吐く黒井。


 彼の看守のもと、鬼の芽を宿した烏帽子四人に殺し合いをさせていたのだが、その一人がようやく鬼へと至ったのだ。


 やはり、鬼化というのは、時間経過よりも戦うことで侵食を促すことができるらしい。特に、命の危機に瀕すると大幅に侵食が進み、肉体を回復させるとさらにそれを促進することができた。


「ああああ……ガガガガ……」


 最初に鬼になったのは、黒井が下顎を砕いた烏帽子。


 彼は呻くような声を発しながら鬼へと姿を変え、黒井が倒したダンジョンボスではなく、回廊をさまよっていた鬼と同じくらいの大きさにまで膨れ上がる。


 鬼にも個体差があるのかもしれない、なんて呑気に考察しているの、変貌した鬼は、黒井に向かってまっすぐに襲いかかってきた。


「無理だって」


 そんな鬼に対し、黒井は呆れたように呟くと、跳躍してから鬼の頭蓋をわし掴みにし、そのまま無理やり地面へと押し付けた。


「グググガ……!」


 もはや自我も、言語すら失った鬼は、身動きが取れぬまま悔しげな声を洩らす。


 黒井はもう、通常の鬼には負けない力を有してしまっていた。それはステータによって確認済みで、最初見たときはバグではないかと疑ったほど。

 


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【黒井賽】

種族 :鬼人

職業 :治癒魔術師/回廊の支配者

レベル:83

筋力 :520

器用 :410

持久 :580

敏捷 :600

魔力 :580

知力 :610

精神 :700

運  :150

《スキル》

 回復魔法・覚醒魔法・治癒術・抗体術・剣術・反射・制限解除・鬼門・雷の支配・鬼の芽

《称号》

 魔眼08・ゴブリンスレイヤー・避雷針・雷の眷族・鬼の王


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 いや、もしかしたらバグではあったのかもしれない。なぜなら、称号にあったはずの【鬼狩り】が【ゴブリンスレイヤー】へと変わっていたからだ。


「一体、何がどうなってるのやら……」


 探索者は、いずれかの能力値が300を超えるとランクAの適正があると言われている。そして、以前の黒井は魔力系統の能力値が最も高いランクCの探索者だった。彼を非凡にしていたのは『魔眼持ちの治癒魔術師』という希少さのみだったが、今や彼の能力値は、そんな次元をはるかに凌駕している。負ける気などするはずがない。


 そんなとき黒井は、怯えながらこちらを凝視している視線に気がつく。


「おい、誰が戦いを止めて良いって言った?」


 鬼の頭を片手一本で地にこすりつけながら、まだ鬼へと至っていない烏帽子三人に低い声をだした黒井。


「ひっ……」


 彼らは黒井の言ったとおり、泣きそうになりながらも殺し合いを再開する。


 とはいえ、彼らの殺し合いはただの殴り合いに等しく、てっきり印を結んだりして迫力ある戦闘をするのだろうと想像していた黒井を拍子抜けさせていた。まあ、もしかしたら、彼らは瞬発的に発動できる魔術が使えないのかもしれない。呪文を唱えさせる暇があるのなら、殴り殺したほうが早いなんて誰にでもわかることだから。


 やがて、黒井は今まさに押さえつけている鬼の方へ視線を戻すと、まだ使っていなかったスキルを発動させる。


「――雷の支配」


――雷の支配を発動します。トリガーとなる言葉を設定してください。


 どうやら、そのスキルには発動するための合図のようなものが必要らしい。


 黒井は【雷の支配】をステータスで確認しながら、頭の中でしっくりくる言葉を捜す。

 

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【雷の支配】

 角を持つ種族に有効。彼らの脳内に直接侵入し、従属させる。


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「――ハック」


 黒井がそう唱えた瞬間、ピリピリとした感覚が角を駆けた。それは押さえつけている鬼の角に影響を与えたのか、その先端が放電したようにビリビリと電流の痕跡を見せる。


――雷の支配に成功しました。



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【能巳】

種族 :鬼 

職業 :能面師

レベル:50

筋力 :350

器用 :400

持久 :310

敏捷 :400

魔力 :350

知力 :210

精神 :250

運  :80

《スキル》

 変身術・魔術付与


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 そして、天の声とともに鬼のステータスが現れた。従属させた者のステータスは確認できるようになるらしい。


 あとは、本当に鬼が従属してるかどうかだったが……。


いかづちの主君へご挨拶申し上げます。手前は生前、鬼を封じる使命を預かりし者だった一人。忌み名を能巳のうみと申す者』


 突然、流暢に聞こえた声に黒井は竦んだ。しかし、辺りを見渡しても誰もいない。


『ハッハッハッ。一体どこを見ておられるのです。それとも、手前など眼中にないということでございま――痛だだだだ!』

「やっぱりコイツか……」


 鬼の頭を押さえつけていた手に力を込めると、その声は如実に反応をしめした。


『酷いでございまする……手前は主君に忠誠を捧げた映えある最初の配下であるというのに……』


 悪寒というのは、こういうことなのだろうと黒井は理解した。


 鬼の醜い見た目と聞こえてくる軽快な口調がまったく合っていなかったからだ。


 というより、


「どうやって喋ってるんだお前……」


 その声は耳からではなく、天の声のように頭に響いてくるもの。そのことを黒井は疑問に思った。


『主君の角の波長に合わせておりまする』

「波長?」

『はい。分かりやすくいえば、主君と手前は通じ合う仲になったといえるのでございま痛だだだだ!』


 軽い目眩を起こしそうになり、思わずこめかみを手で押さえた黒井。そのときに自身の角に触れて理屈を把握する。


 どうやら、角が意思疎通を可能とするアンテナみたいな役割を担っているらしい。


「ノウミといったな? お前は何者だ? 一体、ここは何なんだ?」


 取りあえず、黒井はツッコミを入れるべきことを頭の隅に追いやり、黒井は兼ねてからの疑問のほうを解消することにした。


『ここは鬼を封じるための流刑地でございまする。そして我らは、封じられた鬼の管理を任されておりました』

「流刑地だと? ここは回廊という名前のダンジョンじゃないのか?」

『はて? ダンジョンとは?』


 その問いに、黒井は真面目にもダンジョンが何であるかを説明しそうになったものの、ハッと我に返りやめた。ダンジョンの言葉を知らない者に説明しても理解できないだろうと思ったからだ。


「流刑地ってのはなんだ……」

『痛い痛い! なぜ押さえつける力を強くしたのですか!?』

「いいから答えろ」

『くぅ……鬼の邪気は強く厄介であるため、完全に滅することが難しいのです。故に、鬼は回廊に閉じ込めておかなければなりませぬ』

「だから流刑か……鬼はどこからきた?」

うつし世でございまする』

「うつしよ?」

『はい。そもそも鬼は人の間に生まれますから。痛い! 痛いでございまするうう!』

「馬鹿を言うな。人は人で、鬼は鬼だろ」

『本当でございまする! 雷が鳴り響く夜に、厄災を抱えた赤子が鬼として生まれるのでございまする!』


 黒井の頭には疑問符が浮かぶ。しかし、鬼がでまかせを言っているような雰囲気はない。それでも、何となく手に力を込めておいた黒井。


『痛い痛い! なぜなのですか!?』

「そんなのはおとぎ話だろ」

『おとぎ話ではありませぬ! そもそも、主君も鬼として生まれた存在ではございませぬか!』

「俺は人だ。勝手に鬼にされたんだ」

『そんなわけがありませぬ! ただの生贄が、雷を操れるわけがございませぬゆえ!』


 黒井にはわけが分からなかった。それでも、鬼は懲りずに言葉を発する。


『主君は元より人ではございませぬ。人であったなら、あの封印術を破ることはできなかったはず』


 その言葉で、黒井はそういう仕様・・・・・・なのだろうと無理やり納得し、鬼からダンジョンの情報を聞き出すことを諦めてしまう。


「じゃあ、知ってたら教えてくれ。ここから出るにはどうしたらいい?」

『回廊からでござりまするか?』


 それ以外に何があるんだ。そんな文句を喉元で堪えて「そうだ」と肯定。


『主君は回廊の主でもありまする。出入りは自由のはずでは?』

「出来ないから聞いてるんだろ」

『痛い痛い! 本当でございまするうう! そのための力もお持ちのはず!』


 その時になって、ようやく黒井は新たに手に入れたスキル【鬼門】のことを思いだした。


「……鬼門」


 試しにそのスキルを使用してみる黒井。


 すると、彼の目の前の空間に長方形の辺をなぞるような電流が走り、その内側は、どこからともなく溢れだした光によって埋め尽くされていく。


「これは……」


 その正体を黒井は知っている。というより、これまで何度も見たことがあった。


 それはまるで――ダンジョンゲートと同じ姿をしていた。


『ね? 本当だったでございましょう?』


 それに呆然としていると、得意げな鬼の声がした。黒井は、考えるよりも先に手に力を込めていた。

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