第40話 青空呼人 ②

 視聴者からのタレコミで〝彼〞の居場所がわかった。


 ヒナタとふたりで◯◇市に来ている。


「住所はここで合っているよな?」


「ええ、いよいよご対面ね」


 いけないとは思いつつも、コッソリと色々調べてしまった。

 今日も庭先で鍛練にはげんでいるらしい。

 持つべきものは頼れる視聴者さまだよ。


「はじめはインビジブルで様子見をするよ。いきなりだと俺のメンタルもたないからさ」


「うふふ、どうぞお好きに。私も影でついていくわ」


 影の動きも不自然になっていない。

 その点に安心し、深呼吸をして踏み出した。


 ◆◆


 木に吊るされたサンドバッグを叩く音。

 あの動きはまさしく彼、呼人のものだ。


 その側に大人しめの女性が、楽しそうに話しかけている。


「呼人くん、精が出るわね」


「おう、ミリア。あの授与式をみただろ。やっぱ青空くんはすげえよな!」


「もう、恋人の私より大事みたいじゃない」


 呼人が俺の事を知っている事実に驚き、あやうく声を出しそうになった。


 配信の効果に感謝し、次に何を言うのかじっと待つ。


「スマン、スマン。でもさ、今までの功績なら当然だよな。トロール戦から人のために働いていたもんな」


 うおおおお、もしや呼人は配信当初からの視聴者なのか?

 うれしい、恥ずかしい、気持ちがぐちゃぐちゃだよ。


(えへへ、良かったね。青空くん褒められているよ)


(ヒナタ、お前がよろこぶのかよ)


 そう小声で突っ込む間も話は進んでいく。


「うん、すごいわよね」


「だろ~? やっぱ青空くんは英雄さ。表彰されるのが遅いくらいだぜ」


 いえいえ、俺からしたら呼人の方がもっとすごいよ。

 さっきの打ち込みだって、鬼気迫るものがあったし。

 あれがあるからこそ、覇王剣術がいきてくるんだ。

 全く手をぬかない、真面目な所もそのままだよ。


「特にあの発想力は並みじゃねえよ。まるでベテラン探索者だよ。どうやったら考えつくのか聞いてみたいぜ」


 胸がジンと熱くなり、唸りそうになるのをおさえる。

 憧れた相手に褒められて、心のブレーキが半壊だよ。


「だったら会いにいけば? 青空くんはいい人だし、きっと呼人と話があうよ」


 おおおおお、く、来るのか? 生の呼人が? 俺も会いたいぜ。ナイスアシストだよ、ミリアさん。


 でもこんな両想いなら、もっと早く行動しておけば良かったよ。

 前の人生でも、違った人生を歩んでいたはずさ。


「いや……いまはまだダメだ」


「えっ、どうして?」


「それは俺が、まだあそこにたどり着いていないからだよ」


「そんな事はないわ。だって呼人はすごく強いし、私のヒーローよ!」


「でもよう、ミリアも知っているだろ。俺にはスキルの発現がなくて、探索者と呼べない一般人だって」


 えっ!


 スキルがない?

 聞き間違えたかも。


 だってあの青空呼人に覇王剣術がないなんて……。

 あってはならない事態……だよな?


「スキルのないハンデはでかいよ。彼は手の届かない存在さ。そこへ一般人の俺が青空くんに会いにいっても、それはただのファンとしてしか見られない。俺の望みは彼に認められたいんだ!」


「呼人……」


「だからさ俺はもっと鍛える。もっと強くなる。もっと名をとどろかせる。そして青空くんに〝仲間になってくれ〞って言わせたいんだよ!」


 俺は言葉を失った。


 彼は30年まえの俺と同じだった。

 同じ名前の英雄に憧れ、必死に自分を奮い立たせる。


 潰されても、行き詰まっても目標を見失うことはなかった。

 それほど青空呼人は大きな存在だった。


 そして相手に会うのが目的じゃなく、一緒に肩を並べて戦いたいんだ。

 そして異世界の様々な景色を分かち合いたい。


 この手で勝利をつかみたい。


 ……これでわかったよ。


(ヒナタ、もう帰ろう)


(えっ、いいの?)


 分かったんだよ、いまの呼人に俺からの対面は邪魔でしかない。

 それは彼にとって屈辱でしかなく、原動力をなくすことになる。


(ああ、今はな)


 だから俺は立ち去るよ。

 残るは二人の楽しげな笑い声だ。


「うおおおお、ガンガン修行だああああ!」


「うん、頑張ってね!」


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