第41話 青空呼人 ③

 そして大晦日、俺らは華やかな会場にいる。


 その理由は、もちろん今年活躍した探索者を称える表彰式に出席するためだ。


 ベスト100から名前と国籍がよまれていく。

 そしてヒナタはすでによまれ、77位と大躍進をした。


 本人はもっと上だと予想していたと、ブツブツと文句を言っている。


 ただ緩んだ頬はだらしない。演技をするならもっと上手にすればいいのに。


「青空くん、何を笑っているのよ」


「うれしいのがバレバレだぞ」


「えっ!ウソ!」


 真っ赤になりながら睨まれる。

 だがそれもこの式典の楽しいところさ。


 視聴者も喜びを共有し、明日への活力になるんだからな。


 オーバーリアクションと軽快なトークで、式典を進める壇上の司会者。

 大きく手をあげ、皆の注目を集める。


「さあ、みんなお待たせ。いよいよ一位の発表だああああ! おおっと、CMの後だなんて野暮な事は言わないぜ。早速この封筒開けちまうぜ!」


 会場は暗転。

 ドラムロールが響くなか、みんな固唾をのむ。


 一部の人はこちらにくぎ付けだな。

 目が合うとうなづき、ガッツポーズをとってくる。


 そして音がとまり司会者が話し出す。


「今年一番の探索者、その答えは簡単だ。だってこの半年間、目を離せなかった人物だ。例えば、異世界に取り残された多くの子供たちを助けたり、はたまたスタンビードをおさめたりと数々の奇跡をおこしているよな?」


 司会者は口笛や賛同の声を手で制する。


「俺らに希望を与えてくれたその人の名前を言うぞ。それはーーー、日本で初となる異世界爵位をさずかった、青空呼人だああああああああああ、おめでとう!」


 スポットライトに照らされ、ヒナタに行ってくるよと手を握る。

 短く力強く握りかえされる。


 拍手をうけながら壇上にあがると、握手とハグで出迎えられた。

 いくつも質問をされ、一つ一つ丁寧に答えていく。


「おめでとうございます、青空さん。今の気持ちはだれに伝えたいですか?」


「もちろんそれはパートナーであり、大事な人でもあるヒナタですよ」


「ははは、ノロケですか?」


「いえ、素直な気持ちですよ」


「なるほど~。では、この結果については予想されていました?」


「それについては……」


 長いインタビューだけど、変な回答はしない。

 散々ヒナタと練習をしたし、配信を続けた経験がいきている。


「いやー、さすがトップランカーですね。人間的にもできていてカッコいい」


「いえいえ、おだてないで下さいよ」


 インタビューの他には写真撮影やら、賞品目録や特典など発表され、その度にどよめきがおきていく。


 ただし、億を稼ぐ探索者だから、賞金などは一切ない。

 どれも異世界で活動しやすくなるための物ばかりだ。


「ありがとうございます。これからも良い探索をしていきます。みなさん応援よろしくお願いしますね」


「「うおおおおお、青空くーーん!」」


 そして式典はクライマックス。

 司会者がシメにかかった。


「ありがとう、青空さん。それでは今年度の最も熱い時間はここまでです。ですが、来年はもっと盛り上がる予感が、今からヒシヒシと伝わってくるぜ。では、みなさん良いお年を!」


 バーンと金銀の紙吹雪がそらを舞い、人々は大きな歓声をあげ喜んだ。


 長い一日がやっと終わった。

 俺らはスタッフに誘導され、順にはけていく。


「青空くーーーーーん!」


 ヒナタが壇上にとんできて、抱きついてきた。

 いつものヒナタのマイペースに、ほっとするよ。


 とその時、司会者がこわばるのが目にはいった。


「…………えっ、まだあと3分ある? え、え、ヤバッ。えっとイ、インタビュー? は、はい~~~~!」


 司会者が慌て、探索者たちは苦笑い。

 個人配信とは違い、時間枠のある番組生放送。

 尺の取り方を間違えたな。


「えっと、そ、それでは青空さんにもう一度うかがってみましょう。今のお気持ちをだれに伝えたいですか?」


「へっ?」


 近くにいたのが運のつき。

 破れかぶれの司会者はなんと、さっきと同じ質問をしてきたよ。


「あ、あの~」


「はい、ど、どうぞ。カメラの向こうにいる人たちが貴方の言葉をまっています」


「えっと~………………その~……」


 投げっ放しの無責任なセリフに、頭が真っ白になる。

 口ベタな俺には、地獄のようなシチュエーションだ。


 だけどカメラのレンズに映る自分が見え、我に返った。


 そうだよ、30年まえ俺は向こう側にいたんだよ。


 そして英雄たちの言葉をドキドキしながら待っていた。

 今も向こうには俺と同じ人が沢山いる。


 そう考えると、スーッと気持ちが落ち着いた。


「ふぅ~……じゃあひと言だけ」


「は、はい、助かります」


 半泣きの司会者をわきにやり、大きく深呼吸。傍らにはヒナタがいる。


 そして拳をつきだして、俺の想いをこめる。


「なあ、そこにいる君。……俺はここまで来たぞ。色々あったがここまで来たんだ。……さあ、次はお前の番だ、待っているから登ってこい。俺と同じ景色を見にこいよ。それはいつでも構わない。お前が来るまで俺は待ってる。何年だって何十年だって待っている。だから諦めるな、俺はお前を信じているんだからな!!」


 思いの丈をぶちまけた。

 さっきとは違う乱暴な言い方に、みんな目を丸くして驚いている。


 会場はシーンとし、誰も動かない。


 これはやっちまったよ、スベっているみたいだ。

 慌てて訂正しようと、再びマイクを握る。


 だが同時に地響きがおこった。


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」


 非難でも否定でもない。

 みんなの叫び声。〝絶対にいく〞〝私もそこに行くよ〞〝ありがとう〞などとだ。


 ヒナタもタブレットを持ち上げ、コメント欄を指さし満面の笑顔だ。悪いコメントはなさそうだ。


「青空くん、最高よ。わたし感動しちゃったよ。分かったのは私だけじゃない、きっと彼にも伝わったはずよ!」


 コクンとうなづき、カメラから視線をそらさない。


 だって今から始まったんだ。

 青空呼人の物語が。


 それを知るのは二人だけ。


 長くかかるのか、すぐに終わるのか。

 それは青空呼人しだいだよ。



             完



ここまで読んでもらい、ありがとうございます。

みなさんに楽しんでもらえるよう、次は王道でライトな物を書きたいと思います。


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新作を頑張ります。

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【青空チャンネルはじまるよ】ガチ探索者、死に戻って高校生配信者になる~ド級なパワーと未来の小技を紹介したら、規格外だとバズってます 桃色金太郎 @momoirokintaro

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