第38話 トップ10 ④

 ゾンビに襲われない対処法はある。


 一番簡単なのはゾンビの真似をすることだ。


 ボーーーーッとした顔で、まぬけな感じでヨタヨタ歩く。


 知能が低いゾンビには、仲間に思えるらしい。

 異世界あるあるの一つで、誰でも知っていることだ。


 でも、貴族がボーーッと?


 かなりマヌケ面にならないといけないので、ムリムリ、やってくれないだろう。


 それに気づかれたらおしまい。仲間を連れて群がってくる。


「そこで役に立つのが、この白い石です」


「あははは、青空くんは石が好きだねえ」


「たまたまだよ~」


 まいどお世話になっているいつもの石。


 賽の河原じゃないけれど、特に河原にある石が効果的だ。


 ゾンビはこれを見つけると惹き付けられる。


 一個につき一体のみだが、まるで光に群がる虫のように離れない。


「フローラさま、これが凄いんですよ。仲間が討たれても見向きもしないんですよ」


「本当に危険はないの?」


 にっこりと笑いうなづいておく。


 陵墓のある森につき、許可を得て配信をはじめる。


「みなさん、こんにちは。青空~」

「ヒナタの~♫」

「「青空チャンネルはじまるよ」」


 いつもより元気をだしたタイトルコールに、フローラさまも楽しげだ。


「今日は嫌いな人が多いゾンビ退治にむかいます。でも安心してください。すごく簡単なので、すぐに真似できますからね」


〈こんにちは、薄暗い森ですね〉

〈ゾンビはグロいからなぁ〉

〈なんで群れて来るんだろ、本当に腹立つよ〉

〈これでゾンビ狩りブームが来るのかな、競争率高くなりそうで草〉

〈楽しみです~、頑張ってください〉


「ちなみに今日は、スタンタン侯爵家の護衛中の配信なので、短めとなりますね」


〈マ、マジ?〉

〈とうとう貴族からの依頼ですか、おめでとう〉

〈噂は本当だった件〉

〈トップ10も夢じゃないな〉


 やり方の説明をし、さっそく3体のオーガゾンビで試してみる。


「まずは目の前に相手の数だけ石を投げてください。ほら、くぎ付けでしょ?」


 そして1体を倒し様子をみる。


「はい、この通り他は動きません。そして仕止めたら、使い回すので石は回収してください」


〈マ、マジ?〉

〈ピクリともしないw〉

〈あるあるじゃあないよな?〉

〈魔力に惹かれているの?〉


「理由はわかりません。ゾンビは喋らないから教えてはくれないんです」


「しゃべくるゾンビってないでしょ!」


 なぜかヒナタはこれにウケていて、久しぶりに突っ込まれた。


 まあ、喜んでくれるのはうれしいが、仕上げがまだだ。


「それではトドメをいきます。覇王剣・聖なる名よホーリーワードソード


 聖なる華が咲き、ゾンビは昇華され跡形もなく消え去った。


 これをフローラさまは、綺麗だと喜んでくれている。


「青空さま、その石を私にもくださる?」


「ええ、いざと言うときの為にもお持ちください」


 同行された騎士団にも渡し、実践してもらう。


「本当に石に吸い寄せられていく」

「ああ、これを彼が編み出したとは。まさに英雄の名にふさわしい」


 その効果に驚きを隠しきれていない。


〈騎士団キョドって草〉

〈俺らの青空くんはこんな物じゃないぞ~〉〈姫様かわゆいw〉

〈理屈がわかった。聖なる魔力と色と磁場が亡者の生への渇望にマッチしたんだ!〉

〈また変な奴が出てきたよ笑〉


 そこからは順調で、出くわすゾンビ全てを蹴散らしていく。


 予定よりも早く目的のお墓へとたどり着いた。

 ちょっと変な匂いが気になるけど、静かなおもむきのある場所だ。


「おおお、ここまで早いとはさすがだ。さあ、皆の者儀式の準備に取りかかるのだ!」


「「はっ!」」


 侯爵さまの号令で、周囲への警戒もおこたらず、作業は進められていく。


「では視聴者のみなさんはここまでです。また明日ね」


〈ええええ、見せてよ!〉

〈やっぱりか、秘密の儀式だもんな、ぐすん〉

〈私だけでも見せてもらえませんか?〉


 物足らないとゴネる視聴者をなだめ、配信を終わらせた。ここまでのテンポは悪くない。


「青空くん、なんだか空気が重たいね?」


 手持ち無沙汰のヒナタが、辺りをキョロキョロしだす。


「ああ、墓にかけてある魔力が濃いからな。魔力の渦が激しすぎて見通しも悪いよ」


「その魔力ってさ、普通は見えないよね。何かコツでもあるの?」


「うーん、まずは集中かな」


 少しだけヒントをだすと、ヒナタがやりはじめた。

 護衛中なのにね。


「解ったわ、第三の目ね。眉間に意識を集中させれば……おお、見えた。ほら、あそこに何か揺らいでいるわ!」


 ヒナタの中二病はおかしいけど、その方向をみると本当に何か見えている。


「虫?」


 どこか普通じゃない虫だ。

 カクカクと動くし、酸っぱい匂いだ。


 手に取ろうとすると、意外にもビュンッと弾けるように飛び立った。


 虫はコースを何度も修正し、最後には侯爵の足を貫いた。


「て、敵襲ぅぅううう! 周囲を警戒し守りを固めろ!!!」


 侯爵さまは傷の手当てを受け、血はすでに止まっている。


 その数秒の間に、何千匹という虫に囲まれていた。


 敵の正体はビートルゾンビ。


 騎士たちは盾を構えて、侯爵とフローラを守っている。

 だが物量が違いすぎて、盾や鎧はもうボロボロだ。


「ヒナタ、ありったけの石をまいて!」


「任せて!」


 ズババババッと吐き出すようにばら蒔いていく。


 すると虫は攻撃をやめ、徐々に石に吸い寄せられていく。


「いまだ、覇王剣・ホーリーワードソード!」


 浄化の華を次々とさかせる。


「私だってー、それー!」


 浄化の華と巨人。

 まるで花畑でダンスをしているようだ。

 その様子をみて護衛の騎士が息をふきかえす。


「うおお、青空殿、助かります」


「みなさんはそのまま御二人を!」


「「はっ!」」


 偉そうかと思うけど、これ以上の被害はゴメンだ。

 こちらは駆除に専念だよ。


 そして30分もしないうちに、辺りは綺麗なった。


「一時はどうなるかと思ったが、また貴殿に助けられたな」


「いえ、みなさん無事でなによりです。それより儀式はどえなりましたか?」


「うむ、すでに終えておる。次は貴殿の番だ。さあ、こちらへ来てくれ」


 姫様の見よう見真似で、墓に手をつきじっと待つ。


 これでいいのかと口を開こうとした瞬間、頭の中でパンと弾ける音がした。


「その様子だと成功したようだな、はっはっはー」


 侯爵さまに肩をバシバシと叩かれる。


 ステータスカードを確かめると〝インビジブル〞と刻まれていた。

 前代未聞の秘儀が、たったこれだけで終わったよ。


「こ、こんな簡単で他家に盗まれないのですか?」


「ああ、この儀式を受けた者しか次に伝承はできんのだ。それを売る者はおらんよ」


 もし漏れたとしても、対処する自信があるのだろう。

 敵に回すにはリスクが高いってことだ。


「だが青空呼人、貴殿なら大歓迎だ。いつでも使いなさい」


 侯爵さまの人の良さにはあきれた。


「では皆の衆、帰ろうぞ。ヒナタちゃんにも渡さなくてはな」


「待ってました、えへっ」


 だらしなく笑うヒナタに、侯爵さまがニタリとかえす。

 ……人が良いのじゃなくて、計算高いのか。


 どちらにしてもクエストは成功だ。


 これが順位にどこまで影響するか楽しみだよ。






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