第37話 トップ10 ③
「おおお、ここも自動ドアなのですね」
「わ、若様。早うお乗りください。閉まりますぞ」
「こら、主人より先に楽しむ奴がおるか」
何本の電車を見送っただろう。
駅のトイレも充分に堪能して、ようやく発車できたのだ。
それのおかげか全員が席にすわれ、一同よこ並びになっている。
「わ、若様。あの子供のようにすれば、外の景色を楽しめますぞ」
「なんと画期的。膝で立つのだな」
「みなのもの、若様につづけーーー!」
〈ドワーフがそろって尻を振ってらあw〉
〈マナーはこれからって所だな〉
〈ほっこりくるね〉
〈にしても、キラキラドワーフなんてレアだろ。キャラ崩壊の危機ですぞ〉
〈癒されます〉
〈ガラスに鼻をくっつけてますね笑〉
つり革に棚と連結部、それに運転席の見学と、俺たちが幼い頃にやった全てを堪能している。
そんな40分の旅を終え、目的地の駅におりたった。
橋も近づき、エンリケさんは名残惜しそうだ。
また来ると鉄の橋にも語りかけている。
「青空殿、この地球はまさに奇跡の星ですよ。私はこの感動を忘れません。本当に来て良かったです」
「両方の世界、それぞれに良い所はあります。俺らにしたら、そっちこそ夢の国ですよ」
「はははっ、互いの理解が大事ですね。では急ぎましょう」
そうして渡る途中で景色がかわる。
鉄から、緑の生い茂る大樹がつくる天然の大橋だ。
なんて神秘的なんだろう。
そして向こう側には、二頭立て馬車がひかえていた。
つながれているのは、立派な躯体の6本脚の馬だ。
「す、すげえスレイプニルだよ!」
「めちゃくちゃカッコいい~、このお馬さんに乗るの?」
「ええ、一番速いスレイプニルを用意しました」
「あ、ありがとうエンリケさん!」
エンリケさんたちはいたって普通だが、今度は俺らがはしゃぐ番だ。
冷静にはなれないけど、なんだか子供な自分に苦笑だよ。
そして侯爵邸に到着し、ここで一旦カメラをとめる。
二度目の貴族との面会だ。緊張をしながら大きな門をくぐった。
が、その緊張はすぐ破られる。
屋敷に入ると至近距離で老紳士に迎えられた。
「貴殿が青空呼人だな。ワシがカルバン・ハリー・グレイ。スタンタン侯爵だ。貴殿には出会う前から世話になっている。さあ、こちらの部屋だ。入ってくれ」
やけに親しげに接してくれる。
クエストを頼むからかと思ったが、頭髪の色が目についた。
髭や眉毛が白髪なのに、頭髪だけがやけに黒々としている。
俺の視線にきづいたエンリケさんは、クスリと笑って教えてくれた。
つまりだ、この侯爵さまはすこし前までハゲていたようだ。
それがあの毛はえ薬の恩恵で復活し、俺の話も聞いたのだろう。
「早う来い、皆に引き合わせるぞ」
騒々しくてまるで台風のような方だ。
周りの騎士はそれを心得たもので、先回りをし侯爵がとまることはない。
中には50人ほどいる。みな一族の方々らしい。
「この子が儀式をうけるフローラだ。どうだかわいいだろ。ワシの自慢の孫だ」
「はじめまして、青空呼人といいます」
「七海陽菜です。よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いいたします」
優雅な動きはすでに貴婦人だが、すこし人見知りなところがある。
10才と聞いていたし、当たり前の反応かな。
そして侯爵に引っ張られ、当然のように打ち合わせにも参加されたが、どこか浮かない様子だ。
取りあえず状況を把握するため、いくつかの質問をした。
「ちなみに出現するモンスターは主に何ですか?」
「うむ、出てくるのはゾンビのみだ。だが普段ならグール程度だが、いまはオーガやグリフォンやセントールと怪力ゾンビが集まってきておる」
知能の低下で、生前の魔法などは使えないが、それに反比例して力が強くなる。
放っておけば何処かに行くだろうが、儀式を先延ばしにはできないそうだ。
「おじいさま、私やっぱり怖い。どうしてもやらなきゃダメ?」
「フローラ、騎士が50人もついているのだ、心配はいらん。それに王国で英雄と称えられた青空殿もおるのだぞ」
「それでもー」
大の大人でも嫌がるゾンビだ。小さな女の子には酷だよな。
これは助け船が必要だ。
バッグからアイテムを取り出し、フローラさまに見せる。
「フローラさま、ゾンビでしたらコレで猫のようにおとなしくなりますよ。誰も知らない秘策です」
「そ、その小さな物だけで?」
「ええ、任せてください。俺は嘘を言いませんよ」
「そうですよ、フローラさま。青空くんの裏技はそんじょそこらのとは訳がちがいます。きっと驚くよりも笑ってしまいますよ」
「そ、そうなの?」
ちょっと警戒心がとけたようだ。
その期待にこたえるため、きちんと準備をしておくか。
でもその前に、報酬の件を確認するのを忘れていたよ。
侯爵さまは上機嫌だ、孫が乗り気になって喜んでいる。
「さすがは英雄、青空殿だ。頼もしい限りだ!」
侯爵さまに礼をいい、報酬のはなしをふってみた。
「ところでエンリケ様に、報酬の件は侯爵さまに直接きけといわれました。どんな内容なのですか?」
侯爵の顔がスッと柔らかくなった。
「青空殿は王国でワープゲートの許可をうけたのだな?」
「ええ、まだ使っていませんが、すごく楽しみです」
「だからそれ以上のをと考え、貴殿たちにスキルを渡すことにしたよ」
「えっ、スキルですか?」
不可能な事を切り出され、これにはたまげた。
異世界人なら生まれたときに、地球人ならこの地に足を踏み入れたときのみ授かるスキル。
それ以外で獲得するなんて聞いたことがない。
驚きすぎて口がパクパクしてしまう。
「それこそが我が家の秘技。長年帝国で力を持ちつづけた理由だ、わーはっはっはっ」
えらい事をきいてしまったよ。
スタンタン家が、代々ダブルスキルの家系なのは知っていた。
それは偶然じゃなく、理由があったみたいだ。
「とは言っても、どれでも好きな物とはいかない。授けられるのは不可視のスキル〝インビジブル〞だ」
それでも破格の報酬だ。
使い勝手がよく、覇王剣術と組み合わせたらほぼ無敵。とんでもない提案をしてきたよ。
「気に入ってもらえたようだな?」
「ええ、でもその理由が分かりません。そこまで危険なクエストなのですか?」
「いいや、そうではない。貴殿らと縁を結びたいのだよ。来る魔王との決戦、共に戦いたいのだ」
王国と同様にめっちゃ期待されてるじゃん。
大それた事で俺に出来るとは思えないけど、貰えるのはうれしいよ。
でもヒナタが少し渋っている。
言いにくそうなので、俺が話すよと切り出した。
「あのー、侯爵さま。それは俺たち2人にそれぞれの報酬ですか?」
「当然だ、2人には無限の可能性を感じておるからな」
ヒナタはそれを聞くとすごく残念そうにしている。
やっぱりだ、その理由がわかったよ。
インビジブルはヒナタにとって、魅力のない報酬だ。
だって影潜りの効果は、インビジブルの上位互換。
正直いらない報酬だ。
代わりに言ってあげないとな。
「侯爵さま、実はヒナタはスキルの2つ持ちです。これ以上ふえるのは悪目だちしてしまいます」
「なんと、それではトリプルになるな。ふーむ、そうなると身の危険も生じるか。わかった、七海殿には
フェアリードロップといえば、たしか城ひとつ買える価値がある。
それをいとも簡単に報酬とするなんて、ちょっと桁違いな財力だ。
「は、はい。むしろそっちの方がいいです!」
ヒナタのめっちゃ元気な返事。どっと皆さんに笑われた。
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