第36話 トップ10 ②
宣言からずっと、俺たち2人は休むことなく活動をした。
大小かかわらず求められるクエストはすべてこなし、すこしでも上位になれるよう努力した。
「青空くん、このペースでいいのかなあ?」
「うーん、なんとも言えないけど、やり続けるしかないよ」
だけど問題なことが一つある。
それは現段階での順位の上下変動がわからないんだ。
ランキングの中間発表は一回のみ。
あとは年末の最終結果でしか確認はできないんだ。
「もしかして10位に入ったら、協会から接触があるかもしれないぞ」
「だよねえ、放っておくなんてあり得ないものね」
上位者の特権は目録というより、より探索をスムーズにするためのもの。
実力者が活躍すれば、それだけ社会が充実する。
だからその歯車をまわす役目の協会が、動かないはずはない。
そう信じてつづけるしかないな。
ただ探索者として色々と大変だけど、学校にはちゃんと行っている。
学生の本分だし、成績を落としたらヒナタは探索者を辞めなくてはいけない。
バランスが大事だよ。
そんな日々のなか、学校に人が訪ねてきた。
「青空殿、ヒナタ殿お久しぶりです」
「エンリケさん、どうしてここに?」
豪華な衣装に身をつつみ、屈強なドワーフの護衛をつき従える。
異世界では当たり前の光景だけど、この地球では場違いな集団だ。
みんな物珍しさに集まりどよめいている。
「本物のドワーフだぁ、はあぁぁ」
「着ている服もすごいよなあ」
「エンリケさまーーー!」
「貴族が客かあ。青空くんってやっぱスゴいや」
ほとんどの生徒が、エンリケさんを知っている。
なにせ全員がチャンネル登録をしてくれていて、生徒の間でもあの回は話題になった。
だからひと目だけでも見たいと押し寄せてくる。
これにエンリケさんは快く対応され、写真も良いとおっしゃられた。
特にお付きの人たちが乗り気だ。
たぶん、生えそろった頭髪を自慢したいのだろう。
編んだり流したりと色んな髪型を楽しんでいて、撮られる度に髪をさわっているよ。
まぁ良いといわれても、貴族と知っている分、みんな恐る恐るといった感じだけどね。
その遠慮がちょうどいいかもな。
「実は今回きたのは、スタンタン侯爵の依頼の橋渡しとして参りました」
隠すことの無い依頼に、周りが大騒ぎをしだす。
「きゃー、侯爵だってーーー!」
「マジなの? 子爵様もくるし、もう訳わかんないわ」
「はぁはぁっ、ツーショットがまぶしい」
「エンリケ様ー、こっち向いてぇええ!」
「できれば2人で頬っぺたをくっつけてぇぇ、お願いよーー!」
遠慮は無かったか。
特に女子がうるさくて、話をちっとも進められない。
これには先生もみかねて、校長室を貸してくれた。
すがる生徒を押しのける。これぐらいしないと収まらない。
部屋には邪魔する人はいない。
エンリケさんはすぐに本題に入ってきた。
「侯爵から直々のご指名でして、ぜひともお受けしてもらいたいのですよ」
「その内容は?」
「はい、侯爵の孫にあたるフローラ様の護衛です」
ただの護衛ではないだろう。
侯爵の地位なら、それなりに召し抱える騎士がいるはず。
それを差し置いてとはきな臭い。
そんな考えが伝わったのか、エンリケさんは訂正してくる。
「といいましても、成人儀式の護衛です。先祖の墓で行うのですが、そこはフィールドダンジョンでして、いささか事情がこみ入っているのです」
なんでも陵墓を建てる際、同時にダンジョン化がおこったそうだ。
そんな危ない場所なら捨てればいいが、成人の儀式に必要な魔法処置を墓にしたらしい。
その魔法処置を動かすことができず、仕方なく代々ダンジョンで儀式を行っているそうだ。
「まずはモンスターを駆除するのですが、困ったことに去年からナゼか強くなってきているそうなのです」
なるほど、それなら合点がいく。
護衛の騎士の安否もそうだが、大事な一族を危険にさらすことはできない。
すこしでも戦力をそなえて挑むつもりだな。
「分かりました。それと報酬はどうなっていますか?」
「はい、私の口からは、破格の報酬とだけたしか言えません。内容については侯爵様からお聞きください」
「言えない?」
「はい、
大層な話になってきた。校長室をかりて正解だな。
その報酬が気になるが、聞いたあとに止めますは無理だよな。
「ですがご安心ください。決して御二人の損になることはありませんよ」
そこはヒナタも気にしているが、仕事内容でなく報酬が秘密なだけ。
もしショボい物なら、あ~あと落胆するだけの事だ。
それに侯爵ともなると、勢力範囲が縮小している帝国とはいえ、その影響力は計り知れない。
拘束時間も長くはないし直接のご指名だ。
これはランキングを上げる願ってもないチャンスだよ。
2人ですこし相談したあと、このクエストを受けることにした。
「おおお。これで役目を果たせます。それでは今から参りましょう」
「いまですか?」
「善は急げて申しますからね、ささっ」
有無をいわさずに連れ出された。
学校に止められるかと思ったが、先生たちまでもが手を振っている。
不満はないけど、異世界への強制連行は決定したよ。
そして校門を出たことろで、エンリケさんがハタと止まり、何やらうれしそうに話し出す。
「侯爵様の領地にわたるには、△△市の下流にある橋だそうです」
スマホで調べるとそれは隣の県で、自転車でとはいかないな。
ヒナタが最適ルートを割り出している。
「遠いわね。バスは通っていないし、電車で行くしかないようよ」
「おおお、電車ですかああああ!」
「えっ、エンリケさん?」
「あっ、私としたことが」
エンリケさんだけじゃなく、お付きのドワーフも揃って目を輝かせている。
なんだか
この人たちは、単に電車に乗りたいだけだ。
きっと地球の文化に触れたいんだ。
おかしいと思ったんだよ。
護衛を20人もそろえて物々しいのに、装備がやけに軽装なんだ。
それにるるぶん雑誌をもっているし、物見遊山でちがいない。
俺の視線に気づくと照れ笑い。そしてオススメは何処かと聞いてくる。
完全に俺をガイドとして使うつもりだよ。
ヒナタもピンときたみたいで、すかさず交渉をはじめた。
「エンリケさん、それは依頼とは別件ですから、報酬は別でもらいますよ?」
「ははははっ、見破られましたか。ですがヒナタ殿、あの動画でチャラとしませんか?」
「あっ!」
しまった、BL動画を忘れていたよ。怒られないだけマシである。
ヒナタは目をそらして謝っている。
それに皆さんの好奇心には迫力があり、ここまで来ると
どうせ電車には乗るのだし、ちゃんと案内をする事にした。
「ここから電車に乗りますよ」
「「うおおおおおおおお」」
駅につくと自動発券機におどろいて、改札機に歓喜して、そして俺らのタッチ決済を
ここだけで一時間。長いよ。
エスカレーターとエレベーターを行ったり来たり。階段なんて向こうにもあるのに、ダッシュを繰り返す。
発車案内板と鳩に心を奪われ二時間たつ。
そろそろお腹がすいてきた。
コンビニで爆買いをすませた頃に、やっと電車に喜んでいた。
「ぬおおおお、メタリックじゃあーー!」
「音が渋いのーー」
「これなら何時間でもいられるわい」
ドワーフならではか、金属色に対して大興奮。いや、好みが別れて言いあっている。
もちろんここまで全て配信している。
〈分かるぞその気持ち。おれも異世界いったときはこんなのだったよ〉
〈ドワーフ、かわいい〉
〈異世界鉄ちゃんは草〉
〈コンビニ弁当が土産とはw〉
〈ここ、近くじゃん!〉
まだまだエンリケ様ご一行の旅はつづきます。
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