第35話 トップ10 ①

 日本初のナイトの誕生で大変なことになっていた。


 地球に帰ると取材がさっ到し、休む暇などなかったんだ。


 テレビに雑誌、他にはコラボ……んん、待てよ。

 ちょっと前にも同じことがおきていたな。


 とにかく忙しかったが、合間を見つけヒナタと2人で探索者ギルドにやってきた。


〝彼〞のことが気になり、どうしても確かめたかったからだ。

 探索者協会が運営するここなら、必ずデータを持っているはずさ。


「ねえ、青空くんが探している人ってどんな人なの?」


「実はね、俺と同じ名前の青空呼人って人なんだ。あっ、でも大っぴらには言わないでね」


「へえ~、同姓同名かあ。そうだよね、いまの君と比べられたら相手も迷惑だろうし、誰にも言わないよ」


「ありがとう、ヒナタ」


「だからいいってば」


 大盛況のギルドでそんな話をしていると、やっと順番がまわってきた。


「いらっしゃいませ。……あ、青空探索者? ナイトの。あわわわ、い、いらっしゃいませ~」


 受付嬢さんに緊張されてこちらが苦笑い。


 急にきたことを謝り、彼の情報をたずねてみた。


 だけど、結果的にそれは叶わなかった。


「個人情報ですので、すみません」


「あっ!」


 俺はてっきりタレント名鑑みたいなのがあり、気軽に見せてもらえると思っていた。


 でもよく考えたら、名前や年齢のほかにスキルやランキングなどこまかな情報が分かってしまう。


 探索者にとって情報は大事な生命線だ。


「うーん、参ったなあ」


 ゴネて叶うものではないが、このまま引き下がれない。

 何か手を考えるしかない。


「失礼、この方は青空探索者では?」


「大鷲ギルマス!」


 後ろから思わぬ大物さんが声をかけてきた。


「何か事情がお有りのようですな。よろしかったら、ワシが話を聞きましょうか?」


 渡舟だとおもい、そのままこの人についていき執務室に通された。


「なるほど~、人探しですかあ」


「ええ、彼の安否を知りたくて。どうか教えてはもらえませんか?」


「ですが申し訳ない。それでもお見せはできないのです。規則を破っては、組織が成りたちません。一切のルールの例外はないのですよ」


 情に訴えかけるかと考えたが、それも無理そうだよ。

 ギルマスの口調からして、そんな甘い人ではないな。


 そうなると別の方法で彼を見つけるしかない。


 だけど彼の出身地や現住所など俺は知らない。

 前はいち視聴者だったから、あえて深掘りをしなかった。


 今更だけど、もっと貪欲に彼を知っておけばよかったよ。

 いったい何処から手をつけたら良いのだ。


 だが、もうここには用はない。

 俺は時間をとらせた礼を言い、退席しようとした。


「ですが方法はありますよ」


「そ、それは何ですか?」


 不意の言葉に戸惑ってしまう。

 例外はないと言っていたのに、方法があるなんて全くの正反対で理解できない。


 ギルマスは詰めよる俺に動揺もせず、涼しい顔で話しつづける。


「それはランキングでトップ10に入ることです」


「トップ10?」


「ええ、一般的には知られていませんが、彼らには情報の閲覧許可がおりています。これも立派な規則です」


 知らなかったが内容をきけば納得ができた。


 探索者人口1億人のなかで、トップ10に入る人材は宝である。


 彼らがより良く行動できるよう、様々な優遇がされているようだ。


 その中で、メンバー集めのため他の探索者の情報を確認するのも優遇のひとつ。


 あらゆる状況に対処するには、合理的な考えである。


「ただし悪用ができないよう記録はされ、その後の追跡もあります。おっと、これは秘密だったのに私としたことが」


「あ、ありがとうございます」


「いえいえ、単に独り言ですので忘れてください」


 にくい人だ。


 わざわざ執務室に連れてきたのも、この秘密を教えるためだ。


 感謝してもしきれない。


「じゃあ、おれ行きます。失礼しました」


 閉じかけた道がひらかれた。


 世界の中で10人の中に入るのは途方もないが、目標があれば前に進める。


 だけどその目標はあまりにも高い。

 不器用な俺一人では到底ムリ。誰かの力が必要だ。


 そして運が良いことに、俺には頼れるパートナーがすでにいる。


「ヒナター、お願いがあるんだ、きいてくれ」


「言わなくても分かるわよ。トップ10に入りたいんでしょ?」


「あははは、お見通しだな」


 俺が単純なのか、ヒナタがすごいのか。

 どちらにしても驚かされるが、ここは素直に大きくうなづきかえす。


「大切な人なんだよね?」


「ああ、俺の師匠であり半身といってもいい人だ。彼を絶対に見つけたい。すまない、頼む」


「だから、いいって。それよりもさ、そのトップ10の響きがいいよ。せっかくだし、でっかい花火を打ち上げようよ」


 またまたヒナタの悪巧みをしているみだ。


 これにはすこし構えてしまうが、そんな俺をみて益々うれしそうに話している。


「いまから生配信で、その目標宣言をしちゃおうよ!」


「人前で言うのか?」


 最近慣れてきたとはいえ、元々おれは人前に出るタイプじゃない。


 それをイキッたように宣言だなんて、恥ずかしくて外を歩けないよ。


「青空くんの決意ってその程度なの?」


「い、いや」


「その人に会いたいんでしょ。他に方法ないんでしょ。トップ10に入るのって大変なのでしょ。そんな大変な事に挑戦するのに、宣言すらできないなんて、ちゃんと達成できるのかな?」


 グハッ、衝撃的だ。


 ヒナタの言うとおり、上位者と張り合うなんて途方もない挑戦だ。


 生半可な気持ちではやり遂げれない。

 だが、おれは途中でおりるつもりはない。

 絶対に入り、教えてもらったあの権利を手に入れてやる。


 気づかせてくれたヒナタには感謝だよ。


「ヒナタやるよ、俺みんなに宣言して、必ず成し遂げてみせるよ!」


「ぷっ、チョロいわね」


「んん、何か言ったか?」


「ううん、何も。それじゃあカメラ回すよ。3、2、1、キュー」


 突如決まったが後悔はない。

 彼に会うためには、通らなくてはいけない道だ。


 それに最近注目されているし、自分を追い込むのも必要だろう。


 いつもの挨拶をして、いよいよって時に違和感を感じた。


 それは視聴者の数だ。


 前触れもなしに始めたのに、すでに同接数が6万人。そしてカウントがぐんぐんと増えている。


〈いきなりのお知らせビックリです〉

〈何か始めるの?〉

〈緊急告知ってドキドキします。楽しみです〉

〈ついに魔王討伐ですなwww〉

〈写真集を発売するとかだったら有難い〉

〈2時間も待たせるなんて、焦らすよなあw〉


 最後の一文で全てを悟ったよ。


 ヒナタがやりやがった。視線を外したのが何よりの証拠だ。


 たぶん最近の勢いにのせて、更にインパクトを求めたのだ。


 有りもしない告知で釣り、内容は髪を切ったとか、普通のことで済ませるつもりだったのだ。


 次はやるなよと気持ちをのせて睨んでおく。


 だけど、まぁいいか。やることに変わりはない。


「みなさん、おれ青空呼人は現在探索者ランキングで87位ですが、すこし欲がでてきました」


〈英雄と呼ばれる人が欲ですか?汗〉

〈87位でも十分すごいですよ?〉


 かるい合いの手に会釈。

 他のみんなは俺が話すのを待っている。


「そこで、ランキング10位を目指そうとおもいます。それを今日みなさんの前で宣言します!」


 深呼吸、ちゃんと言い切れた。


 決意したとはいえ、俺にとったら大冒険だ。

 まだ心臓がバクバク鳴っている。


〈おおおお、ついに来たか。がんばれー〉

〈熱いぜ、青空くんw〉

〈トロールから見守ってきた青空くんが、ここまで来るとは感動です〉

〈私のポイントを分けてあげたいです〉

〈一気にいけーーーー〉

〈青空くんなら本当にやれそうで草〉

〈焦らないで、もっとゆっくりの方がいいのでは?〉

〈俺も目指すぜーーー!〉


 色んなあたたかい声が聞こえてくる。

 常連さんも見てくれている。


 俺も嬉しくなり、いつもより沢山たくさん話をした。


 気づけば夜、バトルなしの配信で一番長い回になった。

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