第34話 新たな英雄の誕生 ⑤

 オークの片づけが終わり、戻ってからが大変だった。

 地球に帰ると取材がさっ到し、休む暇などなかったんだ。


 テレビに雑誌、他にはコラボ。

 知らない人ばかりで、気疲れするし正直まいっている。


 でも鬼マネージャーのヒナタは緩めてくれない。


 分刻みのスケジュールをたて、移動なしの一箇所での対応。

 まるでハリウッド俳優のようだ。


 でもこの忙しさが俺には良かった。


 そうでなければ、きっと四六時中彼のことを考えていただろう。


 やっぱり謝りに行くべきだけど、何処にいるか知らない。


 そのモヤモヤに、押し潰されていただろう。


 だから、ヒナタには感謝している。


 そしてその忙しさは9月になっても続き、俺たちはジュノーン王国の王都ヘナンに来ている。


 ここへ来た目的は、王国からの表彰式に招かれたからだ。


「と言うことで、本日はその様子を配信していきますね」


〈おめでとうございます〉

〈王子の功績なら当然だな〉

〈スーツ姿もカッコいいw〉

〈オーク退治に後始末。青空くんがいなかつたらあの国は終わってたもんな〉


「いや、みんなの力があったからだよ。今日は俺たち2人だけが表彰されるけど、みんなも同じだからね」


〈青空くーーーん、やっぱイイ奴だなぁ〉

〈王子の手柄よ〉

〈おめでとう、胸をはってね〉

〈みんなもおめでとう〉

〈ワクワクするよね〉

〈今日はみんなのお祭りじゃw〉


 これまでも散々パレードや式典にも出席した。

 いよいよこれが最後で、王様から直々に恩賞をもらうのだ。


 慣れたと思っていたが、緊張してノドもからからだ。

 自分の小心さが信じられない。


〈そういや、片づけの時に例の力丸いたよな?〉

〈あ~、見たね〉

〈いやがったな。相変わらずむちゃくちゃだったよ〉

〈うん、あれはちょっとね(汗)〉


「力丸がどうかしたの?」


 みんなは何かをふくんだ微妙なコメント。

 だけど続く文字には容赦がない。


〈アイツさぁ魔石だけを取っていったのよ〉

〈うん、あとは知らねーぜ、あはははってね〉

〈腹立つけど、俺らで後始末したよ〉

〈私もしたー〉

〈いくら子供でもなあ〉

〈言っても聞かねえし困るよな〉


 あの子は何をやっているんだよ。ちょっと頭が痛くなる。


「青空くん、襟が曲がっているよ」


 ヒナタが覗き込んできた。


「すまない、こうか?」


「ううん、貸してみて」


「すまないな。って、にょおおぉおぉぉ。ヤメ、くすぐらないで、にょおおぉおぉ~」


「やっと眉間のシワがとれたね、その笑顔が一番よ」


「も、もう~ヒナタ~」


 こんな時でさえヒナタは、俺の事を気にかけてくれている。


 ヘタに礼を言っても重たくなるし、ここはおどけて返しておく。


〈イチャついてますな笑〉

〈2人って付き合っているの?〉

〈青空ー、俺のヒナタちゃんに手を出すな〉

〈王子のはじめては、私のものよ!〉

〈いやいや、王子のは俺のものだ〉

〈おめでとう〉

〈初々しい、その頃に戻りたいぜw〉

〈うらやましい限りです〉


「えへへへへへ、どうもです~」


 否定をしないヒナタに、俺が焦ってしまった。

 ここで俺が違うと必死になればおかしくなるし、肯定しても炎上しそう。


「青空さま、七海さま、お時間です」


 呼び出しのノックがされた。

 このタイミングには助かり、急がなくちゃとみんなに伝える。


〈あっ、逃げてて草〉

〈白状しなされ、王子殿w〉


 一部のにぎやかしを無視し、案内役に導かれ謁見の間にむかった。


 そこには多くの人が集まり騒がしく、正面には王様が待っていた。


「おおお、あれが英雄、青空呼人か」

「あの活躍ぶりであの若さか」

「かわいい顔ね。うん、いいわ」

「お近づきにならねば」


 なりやまない拍手。隊長とか何度か見た顔もチラホラとある。


 前に進み立ったまま頭を下げる。


 貴族と平民ならひざまづくのだけど、こちらは地球人なのでそれはない。


 地球と異世界で、当初から決められた共通認識だそうだ。


「おおお、よくぞ参った、英雄青空殿。この国の救ってくれたこと感謝する」


 王様の言葉でより大きな拍手がまきおこる。

 そしてあがる右手でピタリとむ。


 そのあと横の人が、俺たちのした事を長い時間をかけ読み上げる。

 いちいち大げさで芝居がかった話し方だ。


 いつもせわしなくうごくヒナタも、この時ばかりは神妙な面持おももちだ。


「……よってその功績をたたえ、おニ人にはナイトの称号と、王国のワープゲート使用許可を贈るものとする」


「おおお、爵位にワープゲートとは! 王家の本気度がうかがえますな」

「ええ、是非とも縁をむすびたい」


 この破格の恩賞に、みんな度肝をぬかれてどよめきが起きている。


 騎士の地位はともかく、ワープゲートといえば国の重要機関だ。


 王族や貴族の他には、超一流の著名人や財界人にしか与えられない特権だ。


 前回の人生でも彼に与えられた記憶はない。


 時代がすすむと、使える探索者はでてきたが、この時代で使える地球人はいなかったはずだ。


 異様なことだし、太っ腹すぎてヒナタはイマイチ分かっていない。

 でもこれで確実に、この国での活動はしやすくなる。


 おれ自身もすべて把握はしていないし、あとで説明を聞いておくか。


〈ナイト青空にナイトひなた誕生w〉

〈すげえな、2人が貴族だなんてよ〉

〈おめでとう笑〉

〈これでジュノーン王国に所属するって事なの?〉

〈食客だろ、領地なしの名誉職。それでも普通はなれないよ〉

〈俺らの青空くんが大出世だよ〉

〈ありがとう、そしておめでとうw〉


 全部は見えなかったけど、みんなが祝福してけれている。

 ヒナタもうれしくて揺れているよ。


 そして、王様の大きな声が響く。


「さあ、2人の英雄殿。その手で未来を、そして世界を救ってくだされ。その為に我が王国は協力を惜しみませんぞ。2人に栄光あれええええええええええ!」


「わああああああああああああああああ!」


 割れんばかりの声援で式は幕を閉じた。

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