第33話 新たな英雄の誕生 ④
敵を討ち捨てるのは簡単だけど、その処理となると大変だ。
モンスターだけじゃなく、人の遺体もあるのでまとめて一気にとはいかない。
昨日はすぐに日が暮れ疲れていたし、みんな泥のように眠った。
次の朝、日が昇る頃に目が覚める。
「ふあ~、おはよう青空くん」
「まだ寝ていてもいいんだよ。あまり張りきるともたないよ?」
「あははは、そうね、テキトーが大切だね」
朝食をすませ元気もでる。まだ体は重たいけどやる気だけはみなぎっている。
今日は一日、片づけを配信するつもりだ。
やり甲斐があるし、さっそくスタートさせる。
〈おはよう〉
〈早いね~〉
早すぎて同接なんて100人もいない。
それでもいいかと、まずは門にむかい歩いていく。
「あのー、青空くんですよね?」
「はい、そうですが?」
突然3人の男女が声をかけてきた。
小綺麗な格好をしていて、疲れた顔をしていない。どうやら現地の人ではなさそうだ。
「わああ、本物だよ。すっげーー!」
「すみません、いつも動画を見てます。お会いできて感動です」
「私たちお手伝いに来たんですよ」
「こんなにも早く?」
配信したのは昨日の夕方だ。
こちらに来るとしても2日はかかると踏んでいた。
なのにこの人達の行動力には頭がさがる。
きっと夜通し駆けてきたに違いない。
「助かります。道具とかはお持ちですか?」
「ええ、大丈夫です。それに他の人たちはもう始めていますし」
「他の人?」
「はい、外です。沢山の人が集まっていますよ?」
ヒナタとふたり顔を見合せ駆け出した。
見えたのは朝日に照らされた人、人、人。千人、いやその倍はいる。
しかも、まだ向こうから歩いて来る人がいるよ。俺もヒナタも呆然となる。
「あれ、あ、青空くんだ。うおおお、すげえ。みんな、青空くんだぞおおおお!」
「ヒナタちゃんも本物じゃん!」
「あ、握手してもらえますか?」
「おれぇ、来ました。お手伝いします」
「わたし火魔法が得意なんです。使ってください」
俺たちに気づき、みんなが声をかけてくる。押し合いへし合いで揉みくちゃだ。
驚きで頭が回らないが、なんとか礼だけはいえた。
「あ、ありがとう。みなさんありがとう」
「ありがとうだって。こちらこそだよ」
「青空くんに礼を言われたわ、うれしーー」
さっきまでの朝の緩やかな雰囲気が一変した。
もう汗だくの人が沢山いて、人々からの熱気が伝わってくる。
「でもみなさん何故?」
「何故って青空くんが求めたじゃんか」
「うん、学校は休みだし、来るに決まっているよ」
「おれ、有給~」
「私も昨日のうちにメールいれておいたよ」
「稼ぎたいしね、あははははは」
胸にこみ上がってくるものがあるが、我慢をして逆に大きな声で笑う。
「みなさん、ありがとう。それとやり方はわかりますか。道具とかも無かったら言ってください」
「大丈夫っす。現地の人に聞いたし道具は持参したっす」
「大将は指示してくれればいいですぜ」
「王子大将、お願いします」
「ぷっ、また称号が増えましたね」
もう現地人と
遺体をちゃんと分けて焼いているし、これならこっちの人とトラブルにはならないだろう。
そんなみんなと大盛りあがりしていると、昨日の隊長がやってきた。
「あ、青空殿、この方々はいったい?」
「地球からの応援です。死体処理をチャンネルで呼びかけたら来てくれたんです」
「な、なんと、そこまでして頂けるとは!」
涙ぐみうつむく隊長、他の騎士団の人たちも敬礼をしてきた。
誤解をうむからやめてとお願いするが聞いてくれない。
ますます
〈あー泣かせた〉
〈分かるぞ、分かる。これぞ男泣きだ〉
〈いいよなー、青空くんと一緒にできて〉
〈おっさん、青空くんはこんなものじゃないぞ?〉
〈いい、これはいい絵です。ナイスです〉
〈野獣隊長と青空くん。期待できそう、ジュル〉
〈隊長が青空くんとの固い絆を望んでいます。結びますか?〉
〈もうひとつ踏み込んだのをくださいw〉
また視聴者が、変な盛り上がりを見せている。
エンリケさんの時みたいにならないよう、ヒナタにだけは釘をさしておく。
そうでないと18禁カテゴリーに回されるからな。
「えーーーー、このシリーズは数字がとれるのよーーー」
やっぱりやるつもりだったのか。
ニヤニヤしているから、そうじゃないかと思ったんだよ。
もうこの人たちは放っておこう。
「それよりも隊長、俺たちも作業を始めますよ」
「はっ、そうですね。ご指示を!」
丸投げかいと心の中でつっこむが、この人達は長い時間がんばったんだ。
少しの休息は必要だろう。今はそれが良いとおもい請け負うことにした。
「わかりました、では各自の特技を教えてもらえますか?」
「わたしは豪腕のスキル持ちです」
「工作兵です」
「何もないですが体力だけは」
一人ひとりを把握するのも大変だ。
それでもヒナタとふたりで振り分けて、各エリアに派遣する。
やがて市民たちも寄ってきて、その役割はさらに忙しくなっていく。
食事の手配や道具の修理。
少しも休む時間がない。テキトーだなんてとんでもないよ。
そうして、みんなの協力の甲斐があり、一ヶ月かかると考えていた作業は、たった3日で終わってしまった。
楽しかった。うれしかった。そして、何も考えず働けて良かったよ。
現地のみんなと別れを告げて、地球へと戻った。汗だくの数日間だった。
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