第32話 新たな英雄の誕生 ③

『人間風情がぁ、余の手駒をよくも潰してくれたぷぎね。このオークエンペラーたる余が直々に成敗してくれるぷぎ!』


 ふざけた口調で気が抜けるが、撒き散らすオーラで城の人間は萎縮している。


 オークエンペラーの登場で、人々に恐怖が広がった。


 一度勝利を確信したあとだから、その落差は大きい。

 ほとんどの者はその場に座りこみ動けない。


 それをエンペラーはせせら笑い、2匹のキングに門を指さす。


『はっ、仰せのままにぷぎ』


 他のオークを退かせ、2匹による乱攻撃。


 城門はみるみる破壊されていく。味方は為す術もなく見守るばかりだ。


 俺はそれを止めようと踏み出すが、エンペラーが行く手を遮ってきた。


『何処へ行くぷぎ。手足をもいだ後なら良いが、まだその時ではないぷぎよ』


 イヤな笑い方をする。だけど仮にも皇帝、交渉の余地があるかもしれない。


「オークの皇帝よ、俺の力を見ただろ。戦果が十分なここらで兵をひけ。タイミングを見誤るな」


『ぷっぷっ、これは傑作ぷぎね。潰されまくった虫ケラから提案とはな。たまには耳を傾けてみるものぷぎね』


「ああ、賢明な判断だよ。無駄に血をながすことはない」


『ブヒヒ、虫は潰しても血は出ないから、いくら殺っても良いぷぎね。余も心を痛めないですむぷぎよ、ブヒッ』


 言うと同時に攻撃を仕掛けてきた。

 うなる大剣が頭をかすめる。


「話を聞けー、オークの皇帝よ」


『ププッ、交渉とは知性ある者のわざ。虫には無用ぷぎよ』


「ダメか。お前を倒さない限り、ザコになったキングも止められないって事だな。仕方ない、その目論もくろみ砕かせてもらう」


 オークエンペラー自体の強さはBクラスとなかなか強敵だ。


 しかも同族への影響力は、キングの比ではない。集団での脅威はA判定になる。


 その種族全体で膨れ上がった暴力で、城門を攻めている。

 早く止めなければ、中の人たちが危ない。


 オーラエンペラーは大剣を振りまわし、またイヤらしく笑う。

 そして城を一瞥すると、大剣から衝撃波をくりだした。


 しかし、それは俺に向けてではなく、城壁にいる兵士にだった。


『ぷっぎー、あら残念。余の目論みは叶うぷぎ』


 俺は跳び城壁を駆け上がる。

 標的となった兵士の前にたち、衝撃波を迎えうつ。


「スピードでは俺の勝ちだな。そして技もだ。覇王剣・月之鏡ムーンサルト


 迫る衝撃波を剣でうけ流し方向転換。

 真下にいるオークキングに返してやった。

 なかなかの威力で、2匹とも真っ二つだ。


『ブヒッ、な、なんたる愚劣な。余の技を勝手に使うなぷぎ!』


 エンペラーは怒り狂い、衝撃波を連発してくる。

 だけどこちらには好都合。全て受けながしてお返しだ。


「学習しないんだな。でも楽でいいや、はははははは」


 ムーンサルトで返す度に、敵の数が大きく減っていく。

 すると更に怒りこれでもかと撃ってくる。


 あまりにも節操のない連発だ。


 もしや罠かと警戒するけど、いたって真剣に俺を殺したいようだ。

 それにしてもやり過ぎじゃないかな。


『はあはあ、ひ、卑怯ぷぎ。正々、堂々と』


「どの口が言うんだ」


『か、各なる上は種族限界突破リミッターブレイクで兵を死の軍団にかえ、全てを無にかえてやるぷぎ! 覚悟しろ、リミッターブレイク』


 このタイミングではマズイ。只でさえ劣勢なのにこれでは街が落とされる。


 俺一人では手が回らない。

 それでも一番弱い所をさがし助けるしかない。


 そう思ったが、見回してもそれらしき場所がない。


『あれ、あれ、おかしいぷぎ。ナゼ発動しないぷぎ。あ、魔力切れか。ぶひひひひ、余としたことが失態だぷぎ』


「覇王剣・五爪ごそう裂斬れつざん!」


『ぷぎーーーーーーーーー、ひ、卑怯ぷぎよ。正々堂々と』


 こんな茶番に付き合っていられない。さっさとカタをつけるよ。


「トドメだ。覇王剣・フレアバースト」


『ぎゃーーーーーーーーーーーーーーー!』


 剣に炎をまとわせて斬る。


 炎はエンペラーを焼きつくしたあとも、四方に飛び散り他のオークをも焼く。

 その全てを焼きつくし、焦げた大地だけを残した。


 消し炭になったオークエンペラー。

 オークの間に動揺が広がっている。


 キングの時とは明らかにちがう。オークたちは率いる指導者をうしなったのだ。


 だがまだ2万の軍勢が残っている。


 みんなが生き残るためには、ここで一気にたたみかけるしかない。


 それにはみんなの力を借りるしかない。

 大きく息を吸い両手を広げる。


「敵の総大将は討ち取った。いまから残党の掃討に入る。手柄のほしい者は俺につづけええええええ!」


「「おおおおおおおおおお!」」


 今度はみんな早かった。


 オークエンペラーのバフが切れ、弱体化したオークたち。


 先程まで恐れていたオークを簡単に倒せる。


 見える勝利と興奮したうねりが、戦力の少なさを忘れさせる。


 俺も流れを止めないよう大技を連発させる。


 そして皆が疲れはて動けなくなった頃には、オークは1万以上が骸となっていた。


 あちらこちらでときの声があがっている。


「すごいね、青空くん。本当に救えたのね」


「ああ、完全勝利だな」


 ヒナタも疲れ声がかすれて出ていない。

 その場に座り、もう動けないと笑っている。


 おれ自身も最初はどうなるかと心配したが、思いのほか被害を少なくできた。


 諦めずに頑張ってよかったよ。


「よーし、もうひと踏んばりするか」


「えっ、まだ戦うの?」


「いや、ちがうよ。これの後始末をするんだよ」


 オークの死体を指さし教える。


 破壊された街の復旧は、この国の人達がやることだ。


 しかし転がる1万数千の死体の処理は、すぐにでも始めないといけない。


「こ、これを全部?」


「ああ、一ヶ月はかかるだろうし、俺もうんざりだよ」


「嘘でしょーーーーーー!」


 ヒナタから魂が抜けてしまった。

 その気持ちも分かるよ。これだから防衛戦は嫌なんだ。


 だけど、これを放っておいて碌なことはない。


 死体から出る匂いに 疫病、心へのダメージ。他にも死肉をあさるモンスターを呼んでしまう。

 手間がどんどんと増えるんだ。


「そ、そうだわ青空くん。いつもの裏技があるよね。それでババッと解決しちゃってよ」


 変なことを言うヒナタに、おもわず首をかしげてしまう。


 そのたぐいの裏技など、一度も話したことがない。


 これは勝手に期待しているだけだろうから、出来る限り傷つけないように話す。


「ゴメンな。そんな都合の良い裏技はないんだ。地道にやるしかないよ」


「そーんなーーーーーー!」


 俺にしがみつきながら、また魂が抜けている。ズッシリと肩に体重がのしかかる。


 ヒナタには悪いけど、本当にそんな技はないんだ。

 何度も説明をするが、まだすがってくる。


「うそよ、助っ人くらい魔法で出してよ。死体と一ヶ月だなんてわたし無理だよ!」


「魔法ってムチャを言うなよ。……うーん、人かぁ」


「えっ、何か思いついた?」


「まだ配信中だったよな。ちょっとやってみるよ」


 全国で同接している人は、今だけで20万人いる。


 こういう状況なら、この太いコネを使ってもいいよな。

 この人達を頼ってみるか。


「みなさん、オークエンペラー戦はいかがでしたか?」


〈いまだに信じられない。本当に勝ったのですね〉

〈感動しました〉

〈俺も参加したかったです〉

〈現地の人がかわいそう〉

〈無事でよかった〉

〈青空くんは最強だわw〉


 色々なコメントがある中、こちらの惨状に同情する声もありほっとする。


「そこでみなさんに、俺からクエストを発注したいと思います」


〈何ですか?〉

〈えっ、青空くんからなの?〉

〈くださいなw〉


「報酬はオークの魔石どす。仕事内容はオークの死体を深く埋めるか、焼き払うことです。どうですか。一個4~5万はしますし、手伝ってもらえませんか?」


〈いきます、絶対にいきます〉

〈おおお、太っ腹ですなw〉

〈はいー、いくーー〉

〈行きます〉

〈やりたい、今月ピンチなんだわ〉

〈青空くんのお手伝いなら楽しみです〉

〈プルンの方法をおしえてくれーー〉


「ただし探索者に限ります。道中キケンですし、一般の方はご遠慮ください」


〈いやーーーー、いきたーーーい!〉

〈支度してくらーーー〉

〈うそー、ダメなんですか?〉

〈ブーンへ行くなら何処の橋が近いですか?〉

〈腕がなるぜえ〉

〈お前たちだけ卑怯だーー〉


「青空くん天才よー」


「期待するなよ、2~3人くらいかもしれないぞ?」


「そんな事はないよ。でもこれで頑張れるわ」


 探索者の数は決して多くない。


 何人の人が来てくれるか分からないが、これに賭けてみる。


 じきに日が暮れるので明日から始めるか。





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