第31話 新たな英雄の誕生 ②

 城塞都市の陥落。


 は、本来は無かったことだ。


 彼が陥落寸前であらわれ、オークの一軍を退けた。


 だけどその前に、彼がゴブリンキングを討伐していたとしたら、俺が邪魔したことになる。


 それはとんでもなくヤバいよな。


 だって俺はギルドにまだ報告していない。


 下手したら彼はその事実を知らず、いまだゴブリンキングを探しているかもしれない。


 連絡先をしらないし、伝える手段が見つからない。

 会って直に謝りたい。


「冷静になれよ俺。ま、まずは出来る事を探すんだ」


 聞き取りをし、人々の話をつなぎ合わせると、ようやく状況がみえてきた。


 まず平原にて、ジュノーン王国騎士団はあえなく敗走。


 そして都市まで迫ってきたオーク軍を、探索者と一緒に迎え撃つも、これも失敗。


 オークは逃げる人間よりも、街の破壊を優先したらしい。


 そのおかげで無事に逃げのびる事ができたそうだ。


 で、オークはそのまま南に。


 そして、肝心な〝彼〞の事についても聞いてみた。


「えっ、すごい剣士? 居たらこうはなってないよ」

「無理だよ、みんなをまとめるなんて。キングが直々にでてきてさ、向かっていった人はバラバラだよ」

「だからなんだよ、その最強剣士って。おっと炊き出しきだ、いっそげーー」


 俺の知っている未来とちがう。


 俺が見ていた光景は、みんなが絶望するの中、彼がかっこよく現れて人々を救うんだ。


 逃げる探索者をまとめあげ、5000匹の軍団を残らず潰し、キングをあっという間に討ちとったんだ。


 それは当時俺はモニター越しに応援していた。


 まだ力が足りなく足手まといになる俺に、唯一できる事だった。


 なのに、その〝彼〞がいない。


 もうこれで確定ですよ、全部は俺のせいです、すみません。


「青空くん、知り合いでもいたの?」


「あ、ああ」


「大丈夫だよ、きっと他の町に逃げてるよ」


 ヒナタのその言葉にはっとした。


「そ、そうだよ。まずは逃げた人を助けないとだよな」


 今回は俺のせいで歴史が変わった。

 他に救う人がいないなら、俺がその責任はとるべきだよ。


 目標がわかればすることが見えてくる。

 俺たちはオークの足跡をたよりに走りつづけた。


 敵の行軍の速度は速く、なかなか追いつけない。


 途中、3つの町が落ちていたけど、ここでも人より町の破壊を優先されていた。


 ようやく追いついた場所は、この国で第二の都市といわれる、商業都市ブーン。

 その周りにオークがひしめき合っている。


 軍勢は5千どころの騒ぎじゃない。

 ざっと見積もっても2万匹はいる。


 はじめは彼に会うためだった。

 しかし、浮かれていい状況は過ぎ去った。


 彼が来ないなら、ここに居る者でやるしかない。


 ヒナタもいるし、きちんと見極めるため、オーク軍の周りを偵察しておく。


 そして配信も再開させた。


 この地で見ている人がいるかも知れないし、連携や助けになるかもしれないと思ってだ。


〈青空くん、マジで死地にいるじゃん〉

〈ジュノーンって聞いて悪い予感したよ〉

〈死ぬなよ王子〉


 軽く挨拶をして、返しが少なくなるかもと断わっておく。

 それにはみんな快く受け入れてくれた。


 その中で100人足らずの集団に出会った。


 彼らは騎士や探索者の寄せ集め。反撃の機会をうかがっているそうだ。


 だが所詮は寡兵、その踏ん切りがついていない。みんな嘆いている。


「せめて千人、いや二千人の兵がいれば」

「この際だ、玉砕覚悟で城門を。……む、無理だよな、くそ」


 打つ手がなく、焦りだけをつのらせている。


 ここで彼らと共に行動するべきか悩む。

 自由はきかないが、状況打破のチャンスは増える。


 それを判断するには、まだまだ情報が足らないが時間もない。おれ自身も焦っている。


 そうやって嘆いても、オークたちには関係ない。

 城門を集中的に攻めつづけ、いまにも破りそうになっている。


 そして一気に王手をかけてきた。それを物見が報せてくる。


「大変です、オークキングが自ら出てきました!」

「「なにーーーーーーー!」」


 駆けつけると遠目でもわかる巨体のオーク。

 肩の入れ墨が特徴で、間違いなくあれはオークキングだ。


 悠然と近づいていき、大きな鉄槌で城門を叩きはじめた。


 その度に門はきしみ、形を変えていく。


「ヒナタ、いこう!」


「待つのだ、少年!」


 止めてきたのは騎士団の隊長。

 無謀な賭けをするなと言ってくる。


「いま行かなきゃ見殺しになる。俺には責任があるんだよ!」


「2万の軍勢だぞ、たどり着く前にミンチになるぞ」


「だとしても、俺はいくよ!」


 あそこに居る人は助けを求めている。悲しみ震え苦しんでいる。


 それをただ助けたいだけだ。


「私たちだって辛いのだ。同胞を救いたいのだよ。だが、無理だ。オークの軍勢は津波、我らだけでは太刀打ちできないのだ」


「話はそれだけですか? 時間がおしいので行きます」


「くっ……君の名は?」


「青空呼人」


「君みたいな少年に諭されるとはな。……ありがとう、我の死ぬ場所を見つけてくれて。皆の者、青空呼人につづけえええええ! そして、オークを蹴散らすぞおおおおお!」


「「おう!」」


 自棄やけと言ってもいいくらい、みんなの瞳に炎が宿っている。

 隊列もなにもない。気迫だけでの突撃だ。


〈うおおおお、いっけーー!〉

〈青空ー、がんばれ!〉

〈くそー、俺もそこに行きたいよ!〉


 俺も彼らに負けていられない。


「〝覇王剣・覇王闘気オーバーロードスピリッツ〞これで手加減はなしだ、いくぜ!」


 身体能力を向上させ先頭にたつ。

 ザコ兵を吹き飛ばしながら突撃していく。


 目指すは城門にとりつくオークキングだ。


「青空くん、すごーい」


「ヒナタは隠れて」


「何を言ってるの。これだけ沢山いたら外しっこないわよ、ソレーーー!」


 城壁をこえる巨大な影が、ひしめくオークを踏みつける。


 一度に十匹ものオークをとらえ、確実に数を減らしていく。


「当たったわー、ソレ、ソレ、ソレーー!」


 ヒナタは周りも見えているし、いざとなったら影に潜るだろう。

 うしろの心配はない。


「覇王剣・グランドクロス」


 範囲攻撃で道をつくるが、オークキングまでの距離は300m。


 まだ遠い、あとひとつだ。


「これならどうだ。覇王剣・千喰せんぐい針」


 ──グリバリボリバリーーー!──


 陸クジラのときに使って以来の大技だ。

 魔力を大量につかうが、その分威力はでかい。


 そしてそれを横に払い、周囲のザコも掃除しておく。


『ぷぎ?』


 俺の闘気にあてられ、タゲがこちらにむいた。

 その間だけでも門への攻撃はゆるむ。


 だけど、まどろっこしい事はしていられない。


「ふぅ、やっと会えたなオークキング。だけどここでおしまいだ。くらえ、覇王剣・五爪裂斬ごそうれつざん


 5本の刃を放ち切り刻み、体の自由を奪っておく。


『ぷっぎーーーーー!』


 派手に血しぶきを上げているが、威力は最弱にしてある。


 下手に切り刻むと、オークたちに王を倒したとしらしめれない。


 だからトドメは一太刀だ。


 すれ違いざまにけさ斬りをし、左肩から右のわきまでを斬りとばした。


「オークキング、討ち取ったぞーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 首級くびを剣でさし、高々とかかげる。

 ありったけの大声で敵味方に見せつけた。


 すると、あれほど騒がしかった戦場が、水をうったように静まりかえる。


 そして、壁の内側からうねる波のように歓声がわきおこった。


「「うおおおおおおおおおおおおお!」」


「えっ、マジかよ!」

「や、やったー、助かったわ」

「ありがとうーーーーー」

〈さすがだぜ、王子が救ったよ〉

〈やっぱ、あんたは強い〉

〈見たよ、あの一撃サイコーだーw〉


 だがオークには伝わらないのか、まだ攻めつづけている。


 最後の抵抗だと人々は感じ、それを蹴散らせと一気に攻めのムードになる。


「青空呼人につづけーーー!」

「青空って聞いたことあるぞ、たぶんランカーだ」

「地球の探索者か、やるじゃねえか」

「うおおお、青空ーーーー!」


 俺も攻めに入る前に、一度ヒナタを気にかける。

 彼女は遠くで手をふり、元気に叫んでいるよ。


「あ……そ……み……あぶ……」


 周りがうるさすぎてヒナタの声が聞こえない。

 なんだろう、何かを指さしているようだ。


「……空を……あぶな……」


 ──ヒュルルルルル、ドッシーーン!──


 何かが飛来して、俺のすぐ後ろに着地した。

 その振動で体勢を崩される。

 そしてつづいて背中に衝撃がはしる。


 視界のはしにはドデカイ金棒が映っていて、それに俺は殴られたようだ。


 そのまま城壁にとばされるが、体をひねる。

 壁に着地して下まで駆けた。


 見えたのはキングよりも更に大きなオークだった。


 紅い豪奢ごうしゃなマントをはおり、口からは黒い瘴気を出している。


 そして、見える肌すべてには入れ墨だらけ。漂うオーラもハンパない。


 極めつけには、2匹のオークキングを後ろに従えている。


 これで正体がわかったよ。これは皇帝だ、オークエンペラーって奴だ。


 まだ戦いは終わっていなかった。

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