第30話 新たな英雄の誕生 ①

 地獄の詰問きつもんを乗りきり、森の中を進んでいく。


「ふぅ、今のは数が多くて厄介な相手でしたね。でも討伐完了です」


〈王子おつかれ~〉

〈やっぱ戦っている姿はカッコいい〉

〈華麗でしたぁw〉


「ありがとうございます」


 ウィローモンキーと金づち蜂とに、同時に強襲された。

 少し焦ったけど、見せ場だと説明をまじえて討っていく。


 どちらも集団で素早いので、こちらから仕掛けると、囲まれ寄ってたかってボコられる。


 なので安易に動くのはNGだ。


 でもコレらの強味でもあるスピードは、やり方によっては弱点にもなる。


 それはスピードが落ちる事を恐れて、足や羽が少しでも傷つくことを嫌がるんだ。


 その習性をいかし、砂や落ち葉など宙にばらまくだけ。


 すると見事なまでに反応し、その場でピタッと止まってくれる。

 あとは順番に討っていけばいい。


〈本当に参考になりますね〉

〈トリッキー笑〉

〈たった一枚でも嫌がるんですね。不思議だわ〉


 あれから何度かに別けて、森の狩りを配信した。


 撮れ高が少ないと始まった、行き当たりばったりのこの狩りも大成功になった。


 気づけば数種類のモンスターを狩り、小技も紹介できた。


 視聴者さんも満足しているようだ。


 そして俺たちの目的地はカルバス平原。

 森を抜けていけばたどり着く。


 野宿をしての横断だが、予定通りに進んでいる。

 このまま行けばちょうど〝彼〞が活躍するタイミングで、城塞都市に着くはずだ。


「青空くん、次の獲物がいたわよ」


「オッケー、任せて」


 ヒナタの影が偵察をしてくれるので、獲物には事欠かない。


 逃がすものかと急いでむかう。


「よーし、あれだな。……えっ、き、きのこ?」


「うん、マジックマタンゴはF級だけど、毒とかあるし、今までにない良い絵が撮れるわよ」


 身長1m、手足の他に顔もあり口から毒を吐いてくる。

 そんなお化け茸が何体も立っている。


「ぎゃーーー、無理ーーーーーー!」


「青空くん、どうしたのよ?」


「お、お、お、俺~、シイタケとか食べれないんだ。想像しただけで、うっぷ、う、う、おぇーーーーー!」


「きゃっ、大丈夫?」


 リバースした物を映らないようにするだけで精一杯。

 こんな奇襲をくらうとは思わなかった。


 シイタケ独特のあの悪臭を、思い出しただけでこみ上げてくる。


 キノコは俺の人生で唯一の弱点。


 散々避けてきたモンスターで、トロールやドラゴンよりもタチが悪い。


 なのに奴らはいつの間にか寄ってくる。


 俺が苦手だと知っているかのように、いつも逃げられないよう囲ってくるんだ。


 そしてなぜか決まって、毒と臭いのダブル攻撃がくる。


 2つのダメージでぐっちゃぐちゃ。

 なみだと嘔吐おうとでKO寸前になる。

 何度もやられその結果、毒耐性だけは身についた。


 マジで俺の天敵だ。


『シャーーーーーーーーッ!』


 すでに逃げ場はなく、徐々に間合いをつめてくる。


「こーなったらヤケだ。こい、悪魔どもめ!」


 マタンゴ系は斬ったり焼いたりしてはダメだ。

 あの臭いが強くなるだけ。


 こちらへ被害を出さずに倒す方法は一つしかない。


 それは。


 ──ベッチーーーーーン、ブブッ!──


 ぶっ叩いて魔石を吐き出させる。


 ──ベッチーーーーーン、ブブッ!──


 ねかせた剣を脳天にふりおろす。


 すると、口からブブッと魔石が飛びでて、キノコは魔力を失い動かなくなる。


〈キノコがゲロを吐いたw〉

〈固形のゲロ?〉

〈荒業すぎて草〉


「全国の同志キノコぎらいよ、安心してくれ。こうすれば絶対にキノコ特有のあの匂いは出ない。悪夢からの解放です!」


〈おおお、ビバッ青空くん〉

〈同士よーーー〉

〈キノコ嫌いって子供かよw〉

〈弱点がかわいすぎて草〉

〈キノコ撲滅すべし!〉


 解ってくれる人がいる。

 この小技を披露してよかったよ。


 それと出てきた魔石にもヌメリや匂いは付いていない。


 匂いで敬遠していた魔石を、もう諦めなくてもいい。

 手についた匂いを、何日も気にしなくていいんだ。


 逃げてばかりの日々とはオサラバだ。


「叩く強さの目安は、パワハラ上司が怒りでダンと机をたたく位です」


〈おおお、なんて分かり易い〉

〈わ、分かりにくいね〉

〈怒気をこめろって事?〉

〈どちらにしてもシイタケは抹殺じゃ〉


「そうです、抹殺しましょう!」


〈〈〈うおおおおおおおおおお!〉〉〉


 このとき世界が一つにつながった。記念すべき瞬間だ。


 こんなにも盛り上がっているのに、ヒナタはちょっと冷めている。


 もうすぐで森がきれるよと告げてきた。


 居るんだよなぁ、キノコが嫌いって言うと『美味しいのに~なぜ~?』って上からマウントをとってくる人が。


 逆になぜ食べるのかが分からない。

 ダシをとるなら他にある。

 栄養素にしても他の野菜だって優秀だ。

 わざわざ食べなくてもいい。


 それに賛同する人達と出会えてうれしいよ。


 俺としては、もう少しこの喜びに浸っていたいけど、ここからの事を視聴者に伝えなくてはいけない。


 仕方ないのできりあげる。


「みなさん、狩りはここまでです。森を抜けたら城塞都市が見えてきます。そこでも配信しますのでお楽しみに」


〈えっ、城塞都市?〉

〈ジュノーンのだっけ?〉


 一部の人が何やら言っているが、かまわず走り出す。


 この先の場所に都市がある。

 そこで今まさに、〝彼〞が活躍しているはずだ。


 その光景をみんなに伝え、そして合流するつもりなんだ。肩を並べて戦うんだ。


〝彼〞がどんな反応するか楽しみだぜ。


 はやる気持ちをおさえ、森を抜けた。


 そして見晴らしの良い所に出て、眼下にある都市をみる。


 だけど想像していたモノとちがうのが見え、俺は言葉をうしなった。


 街が燃えていたんだよ。


 煙と瓦礫、遠くからでもわかる荒廃ぶりだ。


 街が静かなのは、だいぶ前に事が終わっている証。

 攻め落とされたのは、今日じゃない。


「何が起こったんだよ?」


〈ふたりともニュースを見ていないんだね〉

〈人的被害はほとんど無かったものの、きのう速攻でおちたよ?〉

〈オークは建物だけを壊していたよな〉


「マ、マジで?」


「ねえ、青空くん。こっちは騎士団がいるから万全だったはずだよね?」


「う、うん。その……はず?」


 でも完全におちている。

 そう聞かれると不安になる。


 予定が早まった?

 それとも別の何か原因があるのか。


 前にもランキングの件で、記憶ちがいがあったからな。


 俺のミスかもしれない。


 ひとつ仮説をたててみる。


 もし、彼の最初に救ったスタンピードが、ゴブリンの方で、次にオークだとしたら。


 ………だとしたら、


 彼の登場が遅れたのもうなづける。


 や、やっちまったかもしれないよ。


 


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