第28話 もう1人の ②

『覇王剣術の使い手、青空呼人。こいつはいったい何者だーーー。突如現れ、誰もが苦戦するクエストを楽々とこなしていく。彼に不可能ってことはないのかーーー!』


『すげー、呼人ーーー、カッコいいー!』

『こっち向いてよぉぉおお!』

『きゃーーよひとーー、愛してるわ』


 一ヶ月前まで無名だったとは思えない、破竹の勢いで活躍していく。


 強いだけじゃない。

 異世界人にも愛され頼りにされている。


 その男らしい外見に、神話の英雄をかさね人々は酔いしれた。


 それがもう1人の青空呼人だ。

 幻ではなく、必ず彼は存在していた。


 その英雄たる彼の名前が、百位以内に入っていない。


 彼が101位なのか、それとももっと圏外なのか知るすべがない。


 それとも、彼は存在してない? いや、それはありえない。


 変な考えでぐちゃぐちゃだが、ふと心の中で引っ掛かるものがあった。


「もしかして、俺の記憶ちがいか?」


 彼が活動をし始めたのに、ランキングに入らないのはおかしい。

 いやが上でも目立つ存在だ。


 それでもランキングに入らないのは、彼に原因があるのではなく、単に俺の思い違い。


 そんな事はみんなに説明もできず、照れ笑いをして教室に戻った。


 苦笑いで迎えられた。


 そうなんだ、彼が世に出るのは来月からだったかもしれない。


 そこらへんの記憶があやふやで、細かな所を思い出せない。


 気付いた時には彼に魅せられていて、自然とファンになっていたからな。


 何かの手違いかもしれないし、モヤモヤした気持ちは引きずりたくはない。


 でもそれを確かめるのは簡単だ。


 それは彼の活躍で、確実に覚えていることが一つある。


 それは8月のカルバス平原での活躍だ。


 ランクインは別にして、それで彼は世界中に名を轟かせ一躍有名人になったんだ。


 そのとき俺はモニターで見ていたけど、マジでしびれて憧れた。


 今の俺なら足手まといにはならない。

 彼に直接会って真相を確かめたいんだ。


 なぜランクインしていないのか。

 そもそも登録をちゃんとしているのか。

 どんな理由や環境だったのか。


 そして、何処へむかっていくのか。


 知っている事もあるが、あえて聞きたい。

 彼の言葉を直接肌で感じたい。


 あれ……というか、それだとなま呼人になるよな。

 会うって考えたらなんだか緊張してきたぞ。


 モニター越しでない彼の戦いを見れる?


 うおっ、しかも『君だれ? えっ同じ呼人? すげーじゃん』なんてなったらどうしよー!


 ど、ど、どうしよ。アニキって呼びたい。それに対して『おいおい、同い年だし呼び捨てでいいぜ』なーんて言われたらどうしよー。


 あーー俺、どうしよーしか言ってねえ。

 ちゃんとセリフ考えておかなくちゃ。


 さっきまでの重い気持ちはどっかへ行った。


 もうこうなったら行動あるのみ。

 ヒナタに相談して、夏休みは異世界ざんまいだな。




「ジュノーン王国へ行きたいの?」


「あそこは豊かでクエストもいっぱいだ。上を目指すならもってこいの所だよ」


「へぇ、よく調べたね」


「ま、まぁな」


 これは嘘ではない。

 何十とある国の中で、三本の指に入る超大国だ。


 そして魔王とも真っ向勝負をしている。

 だから自然と人や情報が集まっているんだよ。


 そこにあるカルバス平原での戦いで、彼は一人の力でスタンピードを止めたのだ。


 ギリギリのタイミングでの登場。

 そしてみんなの見ている前で、敵を完全沈黙させた。


 思い出すだけで震えてくる。


 ただ俺は詳しい現地での状況は把握していない。


 だからまだまだ時間はあるし、下調べをしておくつもりだ。


 彼の邪魔をせず、しかも助けになるようにしたい。


 未来を知っていると便利だな。ズルい気はするけど、これも彼に認められるためだ。


「いいんじゃないかな。チャンネルも好調だし、ランクインした青空くんが新天地に行くってなったら、さらに伸びるわね」


「ははは、そうだといいな」


 少し後ろめたいところはあるが、ひなたの先読みに沿っている。

 だから、正しい判断だと思いこもう。


 俺達は夏休みの宿題を早々にすませ、8月のはじめジュノーン王国へと踏み入れた。


 向こうはこちらと同じく暑い季節。

 汗とドキドキが止まらない。




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