英雄として

第27話 もう1人の ①

 地球に戻り、今日からまた学校だ。


 といってももうすぐ夏休みだし、浮かれた気分に変わりはない。


 あのあとアダマンタイトや、属性付与された剣などを見てまわった。


 うん、見るだけたよ。全く手が出ない値段だしな。

 もともとミスリルを狙っていたので、今の段階では偵察のみ。


 いい勉強になったよ。


「おはよー、青空くん。アップしたの見てくれた?」


 元気なヒナタのあいさつに、俺は無言で返しておく。

 顔も一切うごかさず、ただジッとだ。


 というのも、ヒナタはとんでもない事をしてくれたんだ。


「えっ、どうしたのよ?」


「ヒナタ、あのタイトルなに?」


 出来るだけ重みをきかせた声をだす。


 ヒナタには事の重大さを認識してほしい。


「あああ、アレいいでしょー。すっごく好評で再生回数は600万回、で~~登録者数はなんと100万人を突破なのよ。もう、あのシリーズいっちゃおうよ」


「はあ? 〝ビバッ、BLドワーフ・彼の貞操は俺が守る〞ってなんだよ、怒られるぞ!」


「ちがう、喜ばれているの! もう、なんで分かんないかなあ。あれこそテコいれよ」


 逆にキレられた。


 他の〝300円・ビニール傘でハーピー討伐〞と〝ブリッと魔石(卵)の取り方(ハーピー編)〞も、初日なのに300万回を回っている。


 相乗効果だとヒナタは鼻息があらい。


 停滞していた数字の伸びも、嘘のようになくなった。


 下手をしたら最近で一番伸びていて、ホットワードにもまたのっている。


「あんまり変なのを出すと、18禁カテゴリにされるぞ」


「でもさー、被写体のせいもあると思うんだよねえ。なんだったら青空くんも脱いでみる?」


 少し睨むとテヘヘと誤魔化してくる。


 でも収益もたくさんあがり、今後の活動にも心配はない。


 収益可能になったら、自動で切り替えてくれるこのサイトのおかげだよ。


「とにかく、今後あのパターンはなし」


「あれー、もっと怒るかと思ったのにアッサリだね。あ、そっかー、やっぱアレが気になるんでしょ?」


 やっぱりだ、この確信犯め。

 だけどアレの事を言われてはニヤケてしまう。


「そりゃ気になるさ。中間とはいえ、今年初めてのランキング発表だからな。今後の目安になるだろ?」


「ふーーん」


 ニヤニヤと笑い、何か言いたげな表情だ。


「なんだよ?」


「100位内に入っていたら良いなって考えているんでしょ?」


「あのなあ、探索者が何人いると思っているんだ。はじめて2ヶ月も経っていないんだぞ。そんな甘いものじゃない」


「そうかなあ、私は期待しているんだけどねえ」


 楽天家のヒナタは、上に上がる壁の高さを知らない。

 特に上位0.1%地帯は地獄だ。


 こみ合い、這い上がろうてする人ばかり。

 ひとつ順位を上げるのも一苦労だった。


 だけど抜け出せば話は変わる。……らしい。


 有名になり、舞いこむ仕事の量も桁違い。

 やれば人気がまた出て、更に仕事がふえる。


 うれしい正のスパイラルさ。

 俺は味わったことがないけどな。


「おーい、みんな席につけ。各自モニターでチェックしろよー」


 今日はその発表を授業として見るんだ。

 一種のお祭りだし、文部省が推薦している。


 軽快な音楽で、100位からのカウントダウンが始まった。


 それ以外は公式発表はされずに、各個人へ通知をしてもらえるんだ。


 みんなのスマホにも通知が届き、ワイワイと見せ合い喜んでいる。


 その間もカウントダウンは進んでいる。

 まず91位までの、国と名前のみが読み上げられていく。


 俺の方にも通知がきた。


「あ、あれ?」


 予想外の順位に固まった。

 見間違いなのかと何度も確認する。


 しかし数字は変わらない。


『第88位、ジェーン・タイラー、USA。第87位、青空呼人、日本。第86位……』


「えっ、青空くんの名前呼ばれたよね?」


「あ? ああ、みたいだな」


「きゃーーーー、すごーーーーーーい!」


 他のクラスメイト達も大さわぎ。

 あっという間に、机の周りを人で埋め尽くされた。

 その間にもカウントダウンは続いている。


「あ、ありがとう、みんな」


「なに言ってんだよ。王子にはこんなに勇気をもらって俺ら嬉しいよ」

「うんホントよ。自分のことのように誇らしいわ」

「私は来ると思ってたけどね」

「嘘つけー、あはははははは」


 矢継ぎ早に浴びせられる祝いの言葉。

 どれも心がこもっていて、とても素敵な雰囲気だ。


 そして、一位の発表が終わっていた。


「あ、ありがとう」


 87位はうれしいさ。2万位からの大ジャンプだからね。


 異世界交流の創世記で、混沌とした時代とはいえこの順位は信じられない。


 探索者ランクで言えば、Sランクパーティーにも入れるだろう。


 クランだってお誘いがわんさか来るはずだ。


 だけど俺はそれどころじゃなかった。


 無いんだよ……名前がどこにも無いんだよ。


「青空くんどうしたの、気分でも悪いの?」


 ヒナタは1人だけ俺の異変に気付いてくれた。


 だけど出てくる言葉が止まってしまう。こんな事は言えやしない。


「ああ、少し風に当たってくるよ。みんなもごめん」


「えっ、青空くん?」


 校舎を出て橋へと走った。

 どこでもいい、一番はやく着けばそれでいい。


 異世界に行けば、データが更新されるかと思ったからだ。


 だけど映るものに変わりはない。


「何故だよ、なぜ無いんだよ! 嘘だろ、嘘だって言ってくれ!」


 俺が探している名は青空呼人。第87位の青空呼人じゃない方だ。


 だけど、どれだけ探しても彼の名前がないんだ。


 こんな事があるはずない。


 彼は英雄だ。


 誰もなし得なかった偉業を次々とうちたて、皆の目標になっていた人だ。


 俺にランクインは無理でも、あの人なら楽勝なはず。


 だけどランクインしたのは俺の方だ。

 個人通知も87位だから、彼のデータっていうことはない。


「中間発表にランクインしていないなんて、いったいどうなっているんだよ?」


 汗が止まらない。

 視界がゆがむ。


 考えようにも、〝中間発表にランクイン〞と同じことを頭の中で繰り返してしまう。


 そう何度も何度も繰り返してしまう。


「んんん……中間発表?」


 と、ある疑問がうかんだ。


「あれ、ランクインしたのって、本当にこの時期だったかな?」


 年末にその年の新人が、いきなり一位をとったとして騒がれた。……のは間違いない。


 だけど中間発表の時もだったかな。


 ……うん、なにせ30年もまえのことだ。


 彼の活躍の印象は強いけど、月日までは確かじゃない。


「そうなると、これはヤってしまったぞ、グハッ!」


 飛び出した理由は勘違い。


 でも、みんなはそんな実情を知らないよな。


 たぶん、みんなの目には〝ランクインで自分に酔った青空は、孤独を演出するイタイ奴〞ぐらいに映っているだろう。


 ためた感じで飛び出したしなぁ。

 はあ、思い出すだけで恥ずかしい。


 完全に中二病のぼく君だ……じ、地獄。


 神さま、お願いです。30分だけ回帰させてもらえませんか?

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