第26話 ドワーフの願い ⑥

 シュワルツの城に着くと、家臣総出で出迎えてきた。


 エンリケさんのアゴを見て一度こわばるが、それよりもエンリケさんの無事を喜んでいる。


 エンリケさんは、それにイタズラっぽく笑いかえしている。


「皆のもの、今回は大成功だ。宴の準備を始めなさい」


 家中のものは不思議に思いつつも頭をさげる。

 そして、やっと後ろの2人に気がついた。


「お、おぬしたち。なんじゃその頭は!」


「へへへへ~、だから大成功と言っただろ。ですよね、若様」


「ああ、ものすごい毛生え薬だぞ。お前たちの分もあるからな、宴のときに分けてやろう」


「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」


 そこからは早かった。


 もっそりとしたドワーフなど何処にもいない。まるでピクシーのような素早さだ。


 目の前のエサの効果は抜群だな。



 その宴を楽しんだあと、エンリケさんの私室に通された。


「まずはこちら、お約束していた50万ギャラです」


 傷ひとつない大金貨を5枚渡される。

 一枚10万Gもする大金貨なんて、一般市民はまず使わない。


 人の良いエンリケさんだから錯覚してしまうが、やはりこの人は紛れもない貴族だよ。


「ところで青空殿は、この街に武器をお求めに来られたのですよね?」


「いやーそうなんですが、俺は新参者ですしまずは顔を覚えてもらおうかと」


「やはりそうでしたか。……では、こちらを特別報酬としてお受け取りください」


 そっと差し出してきたのは一枚の書状。


 中には鍛冶ギルドあての紹介状と書いてある。


「こ、これは?」


「あくまで紹介状です。昨今さっこんの武器需要のひっぱくでは、あまり効果はないと思いますが、手助けになればと用意しました。ですので、そのつなぎにコレをお使いください」


 この地の支配者からの紹介状だなんて、効果がないはずがない。


 唖然とする俺たち。


 なのに、それだけで終わらなかった。

 エンリケさんはなんと、家紋のはいった長剣と短剣をひとふりずつ出してきた。


 護衛がいないこの場所で無用心だと思うのだけど、それよりも剣の素晴らしさに心を奪われた。


 青みがかった冷やかな刃。うっすらと白い魔力をまとっている。


 武器に固執しないヒナタでも、見惚れてしまっている。


「ミ、ミスリル?」


「はい、いまお渡しできる物の中で最高の品になります。できればアダマンタイトが良かったのですがね」


「いえいえ、これで十分。いや貰いすぎですよ!」


 採取としてのクエストは成功した。

 しかし肝心のヒゲは手に入っていない。


 エンリケさんも深く落ち込んでいたのに、ナゼこうまでしてくれるのか。

 疑問におもい聞いてみる。


「うーん、〝スッキリとした〞が答えですかね。お2人の自由さ、部下のあの反応、区切りがついたってところです。まぁ、深い意味はありませんよ」


 なんだか分かったような、分からないような。

 頭をかいてもスッキリしない。


 きっと貴族としての行動だろう。一般人の俺には到底理解できないな。


 だけど。


「そうですか、これはありがたく頂きます」


「はい、その剣が青空殿の役に立てますよう祈っております」


 長剣はおれ、短剣はヒナタとわける。


 そして退出のあいさつをし城を後にした。


「ふあーー、儲けたねえーーー」


「ああ、2つだと一千万でも買えないぞ。しかも家紋付きだからな、価値はその数倍にはなるよ」


「もしかしたら印篭みたいに使えるかもね」


「ははは、かもな」


「ところでこの後はどうする? ミスリルの武器を手に入れたし、もうこの街には用はナシ?」


「いや、砥石や他のアダマンタイトやオリハルコンもあるからな。一度お店をのぞいてみよう」


 その他にも地球にはない珍しい物はたくさんある。


 ヒナタも買い物をしたいだろうし、のんびりと観光気分でブラつくことにした。


 なんせ50万Gあるからな、大抵のものは買えるはずさ。

 それに動画の収益もあるし、この際すべて揃えてもいいかもしれない。


 まずは街の鍛冶屋通りにくり出す。


 各店は防音魔法がかかっているが、それでもカンコンカンコンと心地いい音が聞こえてくる。


 いやがうえでもテンションは上がるよ。


「ふわあぁ、キラキラしてきれいねー。ほら、あの鎧兜、青空くんに似合いそう」


「俺らには飛竜の皮鎧があるだろ」


「あっ、コレ鎧だったね。忘れていた~、あははははは」


 テンション爆上がりである。


 街で一番大きく、エンリケさんにも勧められた工房を見つけ中に入ってみる。


 ただし、紹介状を見せるのはお金が貯まったあと。

 貧乏人を紹介したとあっては、エンリケさんに恥をかかせてしまう。


 まずは計画を立てるため、値段のリサーチが先だよ。


 そう楽しく店内を回っていると、騒がしく揉めている一画があった。


「だからなんで売れねーんだよ。俺はすーーーーっごく強いんだぞ!」


「だからね坊や、ここら一帯は一見さんお断りなんだよ。駄々を言わずに帰っておくれ」


「なんだよソレ。誰かが先にツバをつけたって事かよ。うーーーー、わかった。俺のマーキングで上書きしてやるよ、うらっ!」


「こらこらー、ズボンを脱ぐなよ! もうお願いだから帰っておくれよーーー」


 ハイトーンなのに乱暴な言葉遣い。


 力丸だ。


 彼も無事に街へと着けたみたいだ。

 いや、着いてしまったからこそ、シュワルツの街が無事では済まないか。


 俺たちの目的は、この土地になじみ受け入れられること。

 巻き込まれて、評判を落とすのだけは避けたい。


 ヒナタに一旦出るよと目配せをする。


「あー、青空にハーレム一号。おい、お前らからも言ってやれ。俺がどれだけスゴいのかをよ!」


 トホホ、からまれてしまったよ。

 気づかないフリをしようとしても店員さんに呼び止められる。


「あんた、この子の知り合いかい。だったらどうにかしてくれよ」


 両サイドから腕を引っ張られ、逃げることなどできやしない。


「あんた保護者なんだろ、この子を……あっ、その紋章は。こ、これは失礼いたしました!」


 しまった、剣を腰に差したままだった。

 あまりにも見事な剣だったので、浮かれすぎていた。


 見られたからには、俺の行動がゴイゴイ家のものになる。


 つまりヘタに力丸をかばえば、子爵家がこの子を認めたことになり、絶対に力丸は調子にのる。


 こんな事でゴイゴイ家の名を汚す訳にはいかないよ。

 これは正攻法でいくしかない。


 かしこまってくる店員さんにソッと耳打ち。


「シッ、内密に。それよりその子は地球人ですね。それでしたら探索者ギルドへ連絡を入れてはどうですか? あの年なら保護をされるはずですよ」


「その手がありましたね、ありがとうございます」


 店員さんは急ににこやかになり、まだ暴れている力丸に接していく。


 力丸も話が通じたと大喜びだ。素直に店員さんのあとをついていった。


「これでよかったのかな?」


「まあ、実際に売ってもらえないしね。これ以上地球人の評判を落とすのも考えものさ」


 たった数分の出来事だったけど、何日間のクエストよりも疲れたよ。

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